糸井 | たぶん、弱い生き物ほど、 感覚が研ぎ澄まされているというか、 「気配」を感じやすいんだと思うんです。 というのは、その生き物が弱い場合、 ちょっとした変化が命取りになるおそれがあるから。 たとえば、部屋のレイアウトなんかでも、 前とちょっと変わったときに、 オトナよりも子どものほうが その変化に気づきやすいんです。 つまり、生き物として弱ければ、 ちょっとした環境の変化が命取りになるから その小さな変化を、覚えておく必要があるんですよ。 逆に、オトナにとっては 机のレイアウトが多少変わったところで 問題なく対処できるわけだから、 細かく覚えてる必要がなくなるらしいんです。 |
赤瀬川 | 頭が働いてくるから、 強い生き物は警戒する必要がないんだね。 弱い生き物ほど、そういう警戒をしているんだね。 きっと、地球に棲むものは、 いまもずっとそれをやってるんでしょう。 |
糸井 | そして、そういう種が生き残るんですよ。 強さだけで生き残った動物って あんまりいないからね。 よく、たとえ話で、人類がいなくなったあとも ゴキブリは生き残るっていうけど、 強い弱いでいったら、ゴキブリは弱いですよ。 |
赤瀬川 | そうだね。 |
糸井 | あと、若いときより歳とってからのほうが、 体の不調とか、気配とか、 そういう微妙な感覚に対して 敏感になっている気がするんですよね。 |
赤瀬川 | そうかもしれないですね。 若いときにもね、 健康なときよりも病気のときのほうが 感覚が鋭敏になるっていうでしょ。 それも、弱い生き物の話と同じだと思う。 歳をとってるというのは、 だんだん弱くなってるわけだからね。 |
糸井 | 生き物としての危機感が 感覚を鋭敏にさせるんでしょうね。 それは、種全体の話でもそうだと思うんです。 ある種が滅びる可能性のあるときにこそ、 進化は起こるんですよね。 たとえば、海に棲んでいた生き物が 陸上に上がってきたのは、 陸に上がらざるをえなかったからでしょう? |
赤瀬川 | そうですよね。 |
南 | 本当かどうか知らないけど、 陸に上がって人間になりそうだったやつらが また海に戻っていったのが、 クジラだって、話があるんだけど。 |
糸井 | へーーー(笑)。 |
赤瀬川 | 「陸に上がったけど、 ここじゃ食えないよね」って? |
糸井 | 「陸じゃやってけねぇから戻るわ」って(笑)。 |
南 | 不思議な話だよね。 |
赤瀬川 | けっきょく、生き物にとって重要なのって 「食べていけるか」っていうことだからね。 |
糸井 | 食べていけない生き物が、 食べていけるほうへ進化していくという。 |
赤瀬川 | 「ニッチ」っていうことばがあるでしょ。 ようするに、いろんな世界には必ず空席があって、 弱い生き物がその空席に合う機能を持って そこで生きていくんですよね。 |
南 | ニッチ産業も同じようなことですね。 すきま産業。 |
赤瀬川 | いまの場所で生きていけない動物が、 生きていくために、しょうがないから、 「ここはまだ、誰も目をつけてない」 というところに行くわけですよね。 |
糸井 | 強いものから、にらまれない場所ですよね。 |
赤瀬川 | そうだろうね。 |
糸井 | 弱いものが生き残るための手段。 思えば、長老がいろんな物事を決めるというのも、 弱くて強いという立場からの視点じゃないですか。 敵がやってきたときに、 真っ先に逃げ遅れてしまうだろう長老が、 「弱いものにやさしくしたほうがいいぞ」って 決めるのは、よくできたシステムですよね。 |
南 | そうか、そうか。 長老が大事にされるのは、 いろんな知恵を蓄えているからだと 思われてるけど。 |
糸井 | よく知ってる人が、 「弱い人」を兼ねてるという。 |
南 | 『老人力』じゃないですか。 |
赤瀬川 | そうだねぇ(笑)。 |
(続きます) |