黄昏 たそがれ 70歳と60歳と58歳が、熱海で。

糸井 たぶん、弱い生き物ほど、
感覚が研ぎ澄まされているというか、
「気配」を感じやすいんだと思うんです。
というのは、その生き物が弱い場合、
ちょっとした変化が命取りになるおそれがあるから。
たとえば、部屋のレイアウトなんかでも、
前とちょっと変わったときに、
オトナよりも子どものほうが
その変化に気づきやすいんです。
つまり、生き物として弱ければ、
ちょっとした環境の変化が命取りになるから
その小さな変化を、覚えておく必要があるんですよ。
逆に、オトナにとっては
机のレイアウトが多少変わったところで
問題なく対処できるわけだから、
細かく覚えてる必要がなくなるらしいんです。
赤瀬川 頭が働いてくるから、
強い生き物は警戒する必要がないんだね。
弱い生き物ほど、そういう警戒をしているんだね。
きっと、地球に棲むものは、
いまもずっとそれをやってるんでしょう。
糸井 そして、そういう種が生き残るんですよ。
強さだけで生き残った動物って
あんまりいないからね。
よく、たとえ話で、人類がいなくなったあとも
ゴキブリは生き残るっていうけど、
強い弱いでいったら、ゴキブリは弱いですよ。
赤瀬川 そうだね。
糸井 あと、若いときより歳とってからのほうが、
体の不調とか、気配とか、
そういう微妙な感覚に対して
敏感になっている気がするんですよね。
赤瀬川 そうかもしれないですね。
若いときにもね、
健康なときよりも病気のときのほうが
感覚が鋭敏になるっていうでしょ。
それも、弱い生き物の話と同じだと思う。
歳をとってるというのは、
だんだん弱くなってるわけだからね。
糸井 生き物としての危機感が
感覚を鋭敏にさせるんでしょうね。
それは、種全体の話でもそうだと思うんです。
ある種が滅びる可能性のあるときにこそ、
進化は起こるんですよね。
たとえば、海に棲んでいた生き物が
陸上に上がってきたのは、
陸に上がらざるをえなかったからでしょう?
赤瀬川 そうですよね。
本当かどうか知らないけど、
陸に上がって人間になりそうだったやつらが
また海に戻っていったのが、
クジラだって、話があるんだけど。
糸井 へーーー(笑)。
赤瀬川 「陸に上がったけど、
 ここじゃ食えないよね」って?
糸井 「陸じゃやってけねぇから戻るわ」って(笑)。
不思議な話だよね。
赤瀬川 けっきょく、生き物にとって重要なのって
「食べていけるか」っていうことだからね。
糸井 食べていけない生き物が、
食べていけるほうへ進化していくという。
赤瀬川 「ニッチ」っていうことばがあるでしょ。
ようするに、いろんな世界には必ず空席があって、
弱い生き物がその空席に合う機能を持って
そこで生きていくんですよね。
ニッチ産業も同じようなことですね。
すきま産業。
赤瀬川 いまの場所で生きていけない動物が、
生きていくために、しょうがないから、
「ここはまだ、誰も目をつけてない」
というところに行くわけですよね。
糸井 強いものから、にらまれない場所ですよね。
赤瀬川 そうだろうね。
糸井 弱いものが生き残るための手段。
思えば、長老がいろんな物事を決めるというのも、
弱くて強いという立場からの視点じゃないですか。
敵がやってきたときに、
真っ先に逃げ遅れてしまうだろう長老が、
「弱いものにやさしくしたほうがいいぞ」って
決めるのは、よくできたシステムですよね。
そうか、そうか。
長老が大事にされるのは、
いろんな知恵を蓄えているからだと
思われてるけど。
糸井 よく知ってる人が、
「弱い人」を兼ねてるという。
『老人力』じゃないですか。
赤瀬川 そうだねぇ(笑)。
(続きます)


2007-10-03-WED