糸井 | 赤瀬川さんの『老人力』を いま読むとまたおもしろいと思うんですけど、 赤瀬川さん、あれ書いたとき、何歳でした? |
赤瀬川 | 還暦のちょっと前かな。 |
南 | じつはまだ、 そんなに老人じゃなかったんだよね(笑)。 |
赤瀬川 | 僕自身はね(笑)。 当時から、老人呼ばわりはされてましたけど。 あのころみんなで集まると、 だいたいぼくは一回り上の歳でしょ。 だから、「ボケ老人」なんて陰で言われてね。 |
南 | 陰じゃなかったよ(笑)。 |
糸井 | 日なたでは言われてた(笑)。 あだ名が「老人」だったんだよね。 |
赤瀬川 | 「長老」とも言われてた。 |
糸井 | 長老ね。 |
南 | そのころからすると、 赤瀬川さんよりぼくらの方が 老けるのが速いですよ。 肉体的に落ちていくスピードが速い感じがする。 だって、赤瀬川さん、 そんなに変わってないもの。 |
糸井 | 当時、まだ老人じゃなかった赤瀬川さんが、 『老人力』を書いたというのは、 どういう理由からなんでしょう。 |
赤瀬川 | どうなんでしょうね。 |
糸井 | 自分が衰弱していく、 みたいな感じはあったんですか。 みんながそう言ってるからだけじゃなくて。 |
赤瀬川 | 自分が「弱い」っていう感覚は昔からあったね。 もともと、ぼくケンカしないし、できないし。 |
糸井 | これは持論でしたよね。 |
赤瀬川 | うん。 ケンカは怖いし、警察には行きたくない(笑)。 |
南 | 赤瀬川さんが戦争中にさ、 学校の先生から 「将来何になりたいか?」って 訊かれたときの話があったでしょ。 |
赤瀬川 | ああ、うんうん。 みんながハイハイ言って手を挙げてね、 だいたい「兵隊さん!」って言うと ほめられるんですよ。 それは、ぼくもわかってる。 でも、ぼくは、真面目だから、 先生に当てられたときに、本気で考えて、 やっとのことで「会社員」って言った。 |
糸井 | 戦争中に(笑)。 わざわざそんなこと言わなくても。 |
南 | はっはっは。 |
赤瀬川 | 真面目に一所懸命考えたんですよ。 |
糸井 | それを真面目だとするなら、 ほかの人が不真面目だとも言えるよね。 |
南 | ある種の人間観だからね。 |
糸井 | 一貫して「自分が弱い」ということを ひとりのオトナが真面目に言い続けるのは、 なかなかできることじゃないよ。 赤瀬川さんって、 自分の男気を見せるような場面は これまでに一度もなかったんですか。 |
赤瀬川 | そういうのは、どうだろう。 わからない。思い出せない。 そういう場面がないことが 欠点だっていうのは、わかってるんだけど。 |
南 | おもしろい。 |
糸井 | でも、「オレはケンカ強いぞ」って言って 散々相手を殴ってたら、 後ろからポコってやられておしまい というのに比べたら、 自分の弱さを知ってる人のほうが 生き延びますよね、けっきょく。 |
赤瀬川 | そうですね。 強い人って頂点にいって 支配しなきゃいけないからね。 支配するのってたいへんだと思う。 |
糸井 | たいへんだと思いますよ。 強い人が防弾ガラスの車に乗ってるのって、 強いというよりも、それがないと 人生を送れないっていうことだから。 |
赤瀬川 | そうですよ。 いつ裏切られるかわからないし。 |
糸井 | 三国志とかに出てくる教訓は、 みんなそういうものですよね。 |
赤瀬川 | うん。強い人が支配するとそうなっちゃう。 |
南 | ガキ大将だって、 腕力だけではやっていけないからね。 |
赤瀬川 | でも、長老がリーダーである場合は、 老人で、腕力が弱くなってるから、 「弱いやつをいじめてはいけない」 っていうことになるんだね。なるほどね。 |
糸井 | だから、「ぼくは弱い」と 昔から言い続けてる赤瀬川さんが 生き残るんですよ。 アホの坂田が生き残るように。 |
南 | ははははは。 |
赤瀬川 | そうなんだろうね。 やっぱり、ぼくは真面目だからね、 一所懸命、ずっと考えちゃうと そういうことになっちゃうんだよね。 |
糸井 | そうですねぇ。 |
(続きます) |