黄昏 たそがれ 70歳と60歳と58歳が、熱海で。

糸井 歳を重ねることで、
わかってくることって多いんですかね。
赤瀬川 どうだろう。
ぼくは、もともとちょっと鈍いからね。
世の中というか、全体が、
いまだに見えてないんじゃないかなと思う。
糸井 ‥‥と、長老は言った。
70歳になろうが、80歳になろうが、
わかんないものはわかんないですよね。
赤瀬川 そうだよ。
糸井 そうか。
ぼくもそう思うんですよ。
糸井 そういうところは、
ふたりは似てるのかもしれない。
赤瀬川さんって、
ぼくよりひとまわり上なんですよ。
それはね、参考になるというか。
糸井 見本があるということで。
うん。赤瀬川さんが
60歳になったときのことを覚えてるから、
自分が60歳になったいま、
ああ、あのくらいになったんだな、
って思うんですよ。
糸井 先にモデルケースがあるというのは、
あとから行く人にとって楽ですね。
赤瀬川さんには、いるんですか、そういう人が。
赤瀬川 ぼくは‥‥いないですね。
糸井 パイオニア(笑)。
赤瀬川 まぁ、みんなそうだと思うけど、
若いころは年上の人にあこがれるでしょ。
ああいうグループに入りたいとか、
いっつも年上の人を目指してるとか。
そういうふうな人がまわりに多かったからか、
どこに行っても、誰と飲んでも、
まわりは年下ばっかりだった。
糸井 歳をとってからそうなったんじゃなくて、
若いころからそうだったんですね。
赤瀬川 そうですね。
それはね、なんか自分でも不思議だったな。
糸井 伸坊には赤瀬川さんがいるんだよね。
それはちょっとうらやましい感じがする。
うん。よかったと思いますね。
赤瀬川 ぼくにはそういう人がいないんだよなあ。
糸井 じつは、ぼくもいないんですよ。
赤瀬川さんみたいな立場に
なっちゃうことが多くて。
たとえば、みうらじゅんなんかの世代だと、
「ああ、糸井さん失敗したな」
とかって見てるわけなんです。
で、「あれは避けよう」とか、
「あんなことまでしていいんだ」とか、
そういう見本になっているらしくて、
それは、「助かる」って言われますね。
ちゃんと失敗もしてくれるし、みたいな。
赤瀬川 なるほどね。
糸井 若いころに考えていたことと、
いま考えることを比べると、
まったく違ったりしますよね。
ぼくはよく、
「若いころの自分に説教してやりたい」
っていう言い方をするんですけど、
赤瀬川さんは、そういうのはないですか。
赤瀬川 あんまりないですねぇ。
言ってもわかんないだろ、みたいな。
はっはっは。
糸井 そっちのほうが正解ですね。
ぼくも「説教してやりたい」って思うけど、
きっと、聞いてくれっこないし。
ただ、この歳になって、
「あらためて思ったんだけど‥‥」
っていう言い回しで
言ったり、書いたりすることが、
ものすごく増えた。
赤瀬川 ああー、なるほどね。
糸井 「あらためて思ったんだけど‥‥」でも、
「親っていうのはさ‥‥」でも、
なんでもいいんだけど。いろんなことで、
「いまごろ思ったんだけど」というふうに
感じられることの分量が、
歳をとってから加速度的に増えてますね。
赤瀬川 加速度的というのは、おもしろいね。
ずっと溜まってたんだろうね。
糸井 ああ、そうですかね。
伸坊、そういうのは、ない?
うーん‥‥
「オレは若いころよりはわかってるはずだ」
っていうふうに思ってはいるんだけど、
「なにが?」っていう感じで。
赤瀬川 ははははは。
糸井 伸坊は、昔から「わかってる人」なんじゃない?
赤瀬川 うん。ぼくは、この人はそうだと思う。
糸井 ねえ。だから、
昔の中国にあった幻のような話を
南伸坊から聞くと、
この人が考えたんじゃないかと思う。
赤瀬川 そうそうそうそう。
(笑)
糸井 「でね、蝶々がね、夢のごとくに‥‥」
みたいな話を、伸坊から聞くと、
この人が考えたんじゃないかって。
そんなことは、ないんだけどさ(笑)。
赤瀬川 フィットしてるんだよね、
そういうことに無理なく。
糸井 そうそう。
  (続きます)


2007-10-05-FRI