糸井 | 歳を重ねることで、 わかってくることって多いんですかね。 |
赤瀬川 | どうだろう。 ぼくは、もともとちょっと鈍いからね。 世の中というか、全体が、 いまだに見えてないんじゃないかなと思う。 |
糸井 | ‥‥と、長老は言った。 |
南 | 70歳になろうが、80歳になろうが、 わかんないものはわかんないですよね。 |
赤瀬川 | そうだよ。 |
糸井 | そうか。 |
南 | ぼくもそう思うんですよ。 |
糸井 | そういうところは、 ふたりは似てるのかもしれない。 |
南 | 赤瀬川さんって、 ぼくよりひとまわり上なんですよ。 それはね、参考になるというか。 |
糸井 | 見本があるということで。 |
南 | うん。赤瀬川さんが 60歳になったときのことを覚えてるから、 自分が60歳になったいま、 ああ、あのくらいになったんだな、 って思うんですよ。 |
糸井 | 先にモデルケースがあるというのは、 あとから行く人にとって楽ですね。 赤瀬川さんには、いるんですか、そういう人が。 |
赤瀬川 | ぼくは‥‥いないですね。 |
糸井 | パイオニア(笑)。 |
赤瀬川 | まぁ、みんなそうだと思うけど、 若いころは年上の人にあこがれるでしょ。 ああいうグループに入りたいとか、 いっつも年上の人を目指してるとか。 そういうふうな人がまわりに多かったからか、 どこに行っても、誰と飲んでも、 まわりは年下ばっかりだった。 |
糸井 | 歳をとってからそうなったんじゃなくて、 若いころからそうだったんですね。 |
赤瀬川 | そうですね。 それはね、なんか自分でも不思議だったな。 |
糸井 | 伸坊には赤瀬川さんがいるんだよね。 それはちょっとうらやましい感じがする。 |
南 | うん。よかったと思いますね。 |
赤瀬川 | ぼくにはそういう人がいないんだよなあ。 |
糸井 | じつは、ぼくもいないんですよ。 赤瀬川さんみたいな立場に なっちゃうことが多くて。 たとえば、みうらじゅんなんかの世代だと、 「ああ、糸井さん失敗したな」 とかって見てるわけなんです。 で、「あれは避けよう」とか、 「あんなことまでしていいんだ」とか、 そういう見本になっているらしくて、 それは、「助かる」って言われますね。 ちゃんと失敗もしてくれるし、みたいな。 |
赤瀬川 | なるほどね。 |
糸井 | 若いころに考えていたことと、 いま考えることを比べると、 まったく違ったりしますよね。 ぼくはよく、 「若いころの自分に説教してやりたい」 っていう言い方をするんですけど、 赤瀬川さんは、そういうのはないですか。 |
赤瀬川 | あんまりないですねぇ。 言ってもわかんないだろ、みたいな。 |
南 | はっはっは。 |
糸井 | そっちのほうが正解ですね。 ぼくも「説教してやりたい」って思うけど、 きっと、聞いてくれっこないし。 ただ、この歳になって、 「あらためて思ったんだけど‥‥」 っていう言い回しで 言ったり、書いたりすることが、 ものすごく増えた。 |
赤瀬川 | ああー、なるほどね。 |
糸井 | 「あらためて思ったんだけど‥‥」でも、 「親っていうのはさ‥‥」でも、 なんでもいいんだけど。いろんなことで、 「いまごろ思ったんだけど」というふうに 感じられることの分量が、 歳をとってから加速度的に増えてますね。 |
赤瀬川 | 加速度的というのは、おもしろいね。 ずっと溜まってたんだろうね。 |
糸井 | ああ、そうですかね。 伸坊、そういうのは、ない? |
南 | うーん‥‥ 「オレは若いころよりはわかってるはずだ」 っていうふうに思ってはいるんだけど、 「なにが?」っていう感じで。 |
赤瀬川 | ははははは。 |
糸井 | 伸坊は、昔から「わかってる人」なんじゃない? |
赤瀬川 | うん。ぼくは、この人はそうだと思う。 |
糸井 | ねえ。だから、 昔の中国にあった幻のような話を 南伸坊から聞くと、 この人が考えたんじゃないかと思う。 |
赤瀬川 | そうそうそうそう。 |
南 | (笑) |
糸井 | 「でね、蝶々がね、夢のごとくに‥‥」 みたいな話を、伸坊から聞くと、 この人が考えたんじゃないかって。 |
南 | そんなことは、ないんだけどさ(笑)。 |
赤瀬川 | フィットしてるんだよね、 そういうことに無理なく。 |
糸井 | そうそう。 |
(続きます) |