セミについて。

糸井
セミの抜け殻をさ。


うん。

糸井
セミの抜け殻を、去年の夏、部屋の壁につけといたらさ、いまだにくっついてるんだよ。


セミの抜け殻? どういうこと?

糸井
セミの幼虫をね、こう、木の根元を這ってたやつを採ってきて、うちで羽化させたのよ。壁につかまらせてさ。


へぇ。

糸井
で、ふつうにセミになってね。外へ放してあげたわけ。そうすると、抜け殻だけが残るわけだよ。けっこう高い位置でさ。時計の横かなんかで。


うん。

糸井
簡単に手の届く場所でもないし、どうしたもんかなと思ったけど、ま、記念に、と思って、そのままにしといたの。どうせ嫁がいやがって捨てるだろうと思ったし。


うん。

糸井
ところが、意外と、そういうものを大事にする人なのか知らないけど、ずっとそのままでさ。ひと夏終わって、冬がきて、気がつくとまたつぎの夏が過ぎちゃって、まだうちの壁にいるんだよ。


うーん。そりゃ、取らなきゃいるやねぇ。

糸井
取らなきゃいる、そうそうそう(笑)。だからね、ここ1年くらい、時計見るときにいつも見てるんです。


抜け殻もいっしょに。

糸井
うん。


あのさ、セミって、鳴くのはオスだけなんでしょ。

糸井
そうです。


で、鳴かないセミっていうのは、あんまり見ないよね。‥‥どこにいんの?

一同:
(笑)


つまりさ、鳴いてるから、こう見るわけで。で、見ると、いるので、「あ、セミだ」って思うんだが、つまり、それはオスなんだね。

糸井
たださ、オスにしたって、四六時中鳴いてるわけでもないからさ、鳴いてないセミがいたとしても、それは鳴かないメスなのか、休憩してるオスなのかは、わかんないぜ。


ああ、そうかそうか。なんだか、わかんなくなってきたな。どっちにしろ、セミのメスを見る機会は少ないね。

糸井
いや、私はね、大いに見てますよ。


お、セミのメスを?

糸井
そうです。もうね、私に言わせればね、セミの半分はメスです。


ははははははは、くだらないね。

一同:
(笑)

糸井
真面目な話をするとね、子どものいる人は、見ると思うよ。なぜかというと、いっしょに捕りに行くからさ、セミを。


ああ、はいはい。

糸井
とくに、子どもが幼いころはさ、セミを捕ったりすると、尊敬されるから。だからもう「見ていろ」ということで、どんどん捕るわけだ。そうすると、すーごく、「かっこいい!」って思われちゃうわけ。


うん、そりゃそうだ。

糸井
だからもう、バンバン捕って、こんなにいらないじゃないか、っていうくらい捕って、「こんなにいらないじゃないか」って自分で言って、男らしくバーンとセミを逃がしたり、とか。


マッチポンプだね。

糸井
マッチポンプ、マッチポンプ(笑)。


そんなに捕ってたんだね。

糸井
佃煮にするほど捕ります。


そうすると、鳴かないセミも。

糸井
たくさんいますよ。注意深く、見てください。


じゃ、今度の夏は、そういうつもりで見てみます。

糸井
ぜひそうしてください。だから、なんていうのかな、ミーンと鳴いたから見る、という受動的なセミ見じゃなくてね。


「セミ見」(笑)。

糸井
花を見るのが「花見」なら、セミを見るのは「セミ見」でしょう。


もっと能動的な「セミ見」をするべきだと。

糸井
そうそうそう。ぼくなんかは、去年、夜中に懐中電灯持って、セミの羽化を見に出かけたりしましたからね。


そうとう好きなんだね、セミが。

糸井
なんだか総合すると、そういうことになるね。


だいぶ好きだよ、セミが。夜中にでかけるわ、佃煮にするわ、壁に抜け殻を一年中ぶらさげとくわ。

糸井
佃煮にはしてないよ。


とにかく、熱心だよ。

糸井
そうかな。そんなことないでしょ。まぁ、いってみれば‥‥セミプロ?


言うと思ったけどね。

糸井
ともかくね、セミの羽化というのはなかなか神秘的なんだ。夜中に地面を照らしてみると、穴から出てきたばかりの、こう、緑色っぽいような、黄色っぽいような、生命の重さと存在感のある抜け殻が地面を這ってるわけだよ。


抜け殻?

糸井
中身のある、抜け殻。


それ、中身が入ってるときは、抜け殻って言わないよ。

糸井
生抜け殻。


まぁ、いいや。わかるよ、言ってることは。

糸井
うん。それがね、木の根元をウロウロと歩いてるんです。で、枝を照らすっていうと、多い場所ではひとつの枝に何匹も何匹もセミがつかまってる。


へぇー。

糸井
で、そこで、めいめい、セミになってね。こう、羽を伸ばしたり、乾かしたり。


そうそう、あの羽は、乾かさないといけない感じだよね。ヨレヨレのシワシワだもんね。

糸井
うん。だから、真ん中にヨレヨレのセミがいて、まわりでほかのセミが、「ふぅー、ふぅー」って吹いてるの。


‥‥ああ、そう。

糸井
ほかのセミが、「ふぅー、ふぅー」。


お互いにね、助けあってね。

糸井
うん。先に乾いたやつが、あとから出てきたヨレヨレを助けてあげるわけだね。「オレもやってもらったからさ」って。


ずいぶん協調性があるね。

糸井
あるよー。なんせ、土の下で7年も友情をはぐくんできたからさ。


ああ、そう。

「レム睡眠の発見。」を読む。
「天狗、幼稚園に現る。」を読む。

書籍『黄昏』について

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