第11回 「味」はどっちにある?
糸井 そもそも伸坊は、
どういう焼き物をやろうと思ってたの?
ええとね、最初は、
セトモノ店で売ってるようなセトモノ。
丸だったらきっちり丸になってるような
そういうのがつくりたかった。
糸井 あー、そうなんだ。
うん。こう、不慣れなろくろを回して、
ぐにゃんと歪ませたりして、
個性的ですね、味ですね、
みたいなのじゃなくて、
売り物みたいなのをつくりたかった。
ところが、そういうものをつくるの、
ものすごくたいへんなの。
そもそも、形がそろってるやつは
ろくろを回してつくるんじゃなくて、
最初っから型でつくるんだよ。
流し込んで。
糸井 そうそう。
町の焼き物教室みたいなところじゃ
なかなかやらないね、それは。
そうなんだよ。
で、ふつうにやると、ろくろをつかって、
ちょっと歪んじゃったりして、
「味があるね」になっちゃう。
糸井 伸坊はだから、
楷書を書いてみたかったんでしょ?
ちゃんと。
そうそうそうそう。
糸井 行書みたいなものになりました、
っていうんじゃなくて、
楷書を書いてみたいんですよね。
そう。でも、やろうとすると、
ダメです。難しい。
糸井 なるほどねー。
糸井さんの思ってる焼き物は、
どんなイメージ?
糸井 ぼくはね、とくにこういうのが焼きたいとか、
そういうのはないんだけど、
とりあえず、先生が誰だかわかんないと
進まないなと思ってた。
あー、まず、そこ。
糸井 うん。たとえば、そうだな、
うちのスタッフの誰かがね、
昔、学校の授業かなんかで
焼き物の経験を積んでたとしてさ、
「糸井さん、オレ、教えますよ」って言っても
それはオレ、遠慮すると思うんだ。
なんでもいいから焼いてみたい、
っていうわけじゃないんだね。
糸井 そうじゃないんですよ。
これとこれを準備して、
こうすれば誰でも湯飲みが焼けますとかね、
そういうのがやりたいわけじゃない。
うん、うん。
糸井 だから、こういうものが焼きたい、
っていう目標もないんだよね。
ギターで『禁じられた遊び』が弾きたいとか、
エレクトーンで『ゴッドファーザー』を、
みたいなことではない。
すごく勝手なことをいうと、
やるからには、自分のいいところも、
引き出してほしいというか。
ああー。
糸井 だから、そういう意味じゃ、伸坊と同じで
焼き物教室で「なかなか味があります」
っていうことがやりたいわけじゃない。
もちろん、やったらやったで
たのしいに決まってるけどね。
そうなんだよ。
糸井 もし伸坊と土楽に行って
いっしょにつくったりしたら、
「いいねー、味があるねー」とか
言い合うに決まってるよ。
あの、焼き物も、
絵も、字もそうなんだけど、
ヘタだけど味があるというか、
素人くさいところがいいとか、
そういうのって、
なんでもいいわけじゃないじゃない?
糸井 なんでもよくない、なんでもよくない。
でしょ。
そのへんって、興味があってさ。
ただヘタでつまんない絵もあるし、
ヘタなんだけどいい、っていう絵もある。
とりわけ、日本人って、そういう、
「ヘタだけどいい」っていうことについての
価値観みたいなものを、
誰に教わるわけでもなく
みんながわかってると思うのね。
糸井 そうだね、わかってるよね。
この味がうれしいのはオレだけかな、
と思ってると、意外に大人気、
みたいなものって多い。
そうそうそうそう。
でね、オレは、それはもう、
「そういう形」が
あるんじゃないかと思うわけ。
糸井 「そういう形」?
うん。だいたいそういうものってさ、
「描いた本人がおもしろいから
 おもしろい形が出てくるんだ」
みたいなことを言われるじゃない?
生き方が字や絵に表れる、みたいなさ。
そうじゃなくて、どこの誰が描いても
おもしろい形っていうのが
あるんじゃないかと思うわけ。
糸井 なるほど、なるほど。
気に入る形とか、かわいい線とかさ、
おもしろいとか、味があるとかっていうものには、
じつはその仕組みがあるんじゃないかって。
糸井 うーーーん、そうか。
でも、仮にそういう形や仕組みがあるとしても、
その形を見て「いい」と感じるっていうのは、
作品と鑑賞者との関係じゃない?
ああ、うん。
糸井 だから、おもしろい形の石があるとしても、
石は、それを表現したいわけじゃない。
だから、その時点では、その石は、
芸術でも作品でもない。
うん。うん、うん。
糸井 つまり、味も、おもしろみも、感動も、
みんな同じ原理だと思うんだけど、
「そのもの」と「私」のあいだで
芸術を発見するわけですよね。
だから、なんていうか、
やっぱり「味」ってのは、
形にあるわけじゃなくて、
伸坊の側にあるんだよ。
ああー。
糸井 じゃないかなぁ。
そうかもしんないねぇ。
つまり、自分はそういうものを、
おもしろいと思って、
だからこそ描きたいと思うわけだから。
糸井 そういうことなんだろうねぇ。
だとすると、訓練はできないねぇ。
あの、できるできないは別にして、
「うまい」は目指せるんだよね。
うまい人がつくるうまい形を見て
訓練して近づこうとすることはできる。
だけど、「ヘタだけど味がある」
みたいなものに近づこうとすると‥‥。
糸井 ダメなんです。
味のほうは真似できない。
糸井 そうだと思うなぁ。
うーん、そうかあ。
糸井 しかし、思えば伸坊は、
だいたいのことは、やってるね。
絵も、書も、焼き物も。
いやいやいや、そんなことないよ。
糸井 達者だね。
いやいや。
糸井 達者だね。三橋美智也だね。
え?
糸井 『達者でな』。
♪わーらーにーまみれてよー、と。
糸井 はははははは。
(次回から、別の日の雑談をお届けしますよ)


2010-06-02-WED