祝・新潮文庫になったよ。

黄昏

浅草・スカイツリー篇
 
第12回
替え歌とカニマーク。
お水をおいしそうに飲んでるね。
糸井 水はいいよ。
おいしいし、あと、ないとたいへん。
たしかに。
糸井 仮にこれがなかりせば。
よしんば。
難しいことばをつかったね。
糸井 よしんば山にはタヌキがおってさ。
「船場山」だな、それは。
糸井 よしんば、山にタヌキがいたとしたら。
いたと仮定して。
糸井 そうそう。
仮に、山にタヌキかなんかがいたとして。
山だったかどこだったかに、
タヌキだかなんだかがいたとして。
糸井 伸坊のお母さんだっけ、それ(笑)。
そうです(笑)。
むかーし、呉智英が、
うちに電話してきたら、おふくろが出てね。
「あのー、南くん、いらっしゃいますか?」
って呉智英が言ったら、うちのおふくろが、
「えーと、誰だったかと、どこだったかに行く、
 って言って、いま留守です」って。
糸井 あははははは。
なんにもわかんない(笑)。
糸井 それ、伸坊、遺伝してるよ。
そうかなぁ(笑)。
糸井 しかし、その、お母さんの話はおもしろいなぁ。
「誰だったかと、どこだったかに行く、
 って言ってましたよ」(笑)。
それで、呉智英が、またさ、
「どなたと行くって言ってました?」
って聞いたんだよ、おもしろがって。
そしたらおふくろがしばらく考えて、
「誰だったかと」
一同 (笑)
糸井 いいなぁ(笑)。
たしかに遺伝してるかもなぁ。
糸井 ふふふふ。
もう、そういう話ばっかり、してたいね。
あ、今回のテーマは「猟奇的」だったのに
ちっとも猟奇的じゃなかったなぁ。
糸井さん、なんか、歩きながら、
すごい猟奇的な歌、うたってたじゃない。
糸井 なんだっけ。
♪銭のためな~ら、女房も殺す~
糸井 そうだ、そうだ(笑)。
♪それがどうした、文句があるか~
ははははは。
猟奇っていうか、替え歌だな。
糸井 替え歌、替え歌。猟奇替え歌。
猟奇歌謡。
糸井 根本敬監修。
でも、ちっとも猟奇じゃないな。
なんていうか、銭のために女房殺すって
わりと殺人として筋が通ってる。
糸井 そうか。
保険金殺人みたいなもんか。
猟奇のくせに、
「それがどうした文句があるか」
っていうのも、ちょっとどうだろう。
糸井 たしかにね。
「文句があるか」っていうのは、
文句があることをすでに想定してるよね。
そうそう(笑)。
糸井 ちっとも猟奇じゃない。
というか、オレらには、猟奇はムリだな。
ムリだねぇ。
殺人もムリだな。
糸井 殺人もムリだし、芝居もできないし。
カニもエビも食べられないし。
糸井 あいさつもできないし、
方眼の線も引けない。
ハハハハハ。
糸井 ♪それが~どうした~
♪文句があるか~
糸井 思い出したんだけどさ。
ウン。
糸井 オレ、小学校5年生か6年生のとき、
自分のマーク、カニだったよ。
なに? 自分のマークって。
糸井 小学校のとき、
自分のマークとかつくらなかった?
なんか名前書いたりするときにつかうの。
それがカニだった。
そのころはカニ、食べられたの?
糸井 食べられない。
っていうか、群馬の小学生が
カニなんて食べるチャンスないよ。
そういやそうだね。
子どものころ、カニなんて食った記憶がない。
糸井 カニはただのカニだったんだ。
カニマーク。
糸井 伸坊は、なにマークだった?
マークはなかったなぁ。
糸井 じゃ、今度会うまでにつくっといてよ。
自分のマーク。
わかった。つくっとくよ。
‥‥いや、つくらないな、きっと。
糸井 ははははは。
ハハハハハ。

(今回の「黄昏」は、これでおしまいです。
 読んでいただき、ありがとうございました。
 また、つぎの「黄昏」でね。
 そして、新潮文庫版の『黄昏』を、どうぞよろしく)
2014-06-30-MON
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写真:山口靖雄
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN