糸井 |
ブータンではずっと美味しいものを
食べているけれど。
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南 |
うん。美味しいねぇ。
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糸井 |
伸坊がいままで食べたなかで
いちばんまずいものって、なに?
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南 |
うーん‥‥そうだなぁ‥‥
まず、カレーでひとつ、あるね。
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糸井 |
カレーで(笑)。いいねぇ。
ぼくは、ラーメンである。
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南 |
ああ、ラーメンね。
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糸井 |
まずは、カレーの話を聞こう。
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南 |
もう、大昔の話だけどね。
まだ働いてなくて、アルバイトしてたころ。
そのくらい若い頃って、
お腹が空いてたらなんでも食えるじゃない?
それでも食えないくらいだった。
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糸井 |
おおーー(笑)。
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南 |
たしか、東神奈川の駅前にあった店でね。
そのカレーは、ひとことでいうと‥‥
カレー粉を水で溶いたものを、
ご飯にかけてある。
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糸井 |
うわぁ。肉は?
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南 |
ないない。
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糸井 |
ジャガイモとか、ニンジンとか。
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南 |
ない。さらっさら。
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糸井 |
それ、カレー?
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南 |
のようなもの。
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糸井 |
のようなもの(笑)。
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南 |
もう、食べた瞬間、ものすごくまずいんだけど、
ま、若い頃だからね、まぁ、いいやって言って、
ひと口、ふた口と食べたんだけど‥‥だめだった。
「なんでこんなものが
この世にあるんだろう?」って思った。
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糸井 |
いいねぇ(笑)。
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南 |
糸井さんのラーメンの話は?
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糸井 |
うん。
そのラーメン屋は、河口湖あたりに、
釣りに行ったときにたまたま見つけた店でね。
なぜその店に入ったかというと、
駐車しやすかったんだよ。
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南 |
ははははは。
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糸井 |
で、車停めて入ったら、誰もいない。
で、まず、よくないこととして、
店全体が、妙に石油くさい。
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南 |
ああー。
もうその時点でわかっちゃうよね。
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糸井 |
わかっちゃうよね。
で、4、5年越しのマンガ雑誌が
そのへんに、こう適当に積まれてて。
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南 |
いいねー。
もう「いいねー」って言いたくなる(笑)。
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一同 |
(笑) |
糸井 |
こりゃだめだなと思ったんだけど、
もう、疲れてたし、車も停めちゃったし、
まぁ、とにかく、ここで片づけようと。
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南 |
ああ、わかる。
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糸井 |
で、いちばん安全そうなもの、
っていうので考えたんだけど、
山菜ラーメンっていうメニューがあってね。
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南 |
うん。
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糸井 |
まぁ、山も近いし、
焼き豚とかで失敗するよりは、
まだ安全かなと。
そしたら、出てきたラーメンには、
水煮の缶詰に入ってるような山菜が
どかんとラーメンに乗っかってるもので。
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南 |
ああー‥‥。
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糸井 |
そのほかの具は、とくになし。
危険だなぁーと思ったけど、
ひと口、すすったら‥‥えも言われぬ‥‥。
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南 |
ふふふふ。
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糸井 |
なんつったらいいんだろう、もうダメよ。
山菜が缶詰の水煮みたいなやつだから、
それをこう食べても‥‥ダメよ。
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南 |
「ダメよ」(笑)。
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糸井 |
基本、味がないし‥‥。
あとはもう、どこまで食べるか、
っていう判断の問題。
で、このことはもう、
「人に言うために入った店だ」と思って。
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南 |
ふふふふ。
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糸井 |
だから、いちおう、
人とまずいものの話をするときは、
「宇宙一まずいラーメン」として語ることにしてる。
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一同 |
(笑)
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南 |
ああ、そういうのでいうと、
「宇宙一まずいマーボー豆腐」はあるよ。
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糸井 |
おー(笑)。
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南 |
しかもね、その店には、
「宇宙一まずいチャーハン」もある。
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糸井 |
実力があるねぇ(笑)。
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南 |
ものすごく実力のある店だったよ。
台湾の北投(ペイトウ)温泉っていう、
ところにあった中華料理屋なんだけど。
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糸井 |
へぇ、台湾。
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南 |
そこで出てきたマーボー豆腐はね、
ようするに、こう、
豆腐がさいの目に切ってあるところに
ラー油がこうかけてある‥‥だけ。
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糸井 |
うわぁ(笑)。
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南 |
チャーハンはなんとかなると思ったんだけど、
チャーハンもすっごいんだよ。
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糸井 |
ああ、その連鎖、わかるよ。
フロリダの焼肉屋もそんな感じだった。
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南 |
で、あまりにもまずいんでね、
箸を置いて、もう、
「どうやってここから出ようか?」と。
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糸井 |
あー、わかる、わかる(笑)。
帰り方を考えるんだよね。
どういうわけか、そういうときのお客って、
「店に失礼のないように」
ってことを考えるんだよね。
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南 |
そうそうそう、考えるんだよ。
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糸井 |
それが、ますます自分たちの首をしめるんだ。
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南 |
おっしゃるとおり。
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一同 |
(笑)
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南 |
でね、とにかく、もうダメだし、
ぼくらのほかにお客さんもいないし、
立ち上がって帰ろうとしたわけ。
そしたら、配膳していた店の奥さんが、
厨房にいるダンナに向かって、明らかに、
「アンタ! お客が帰っちゃう!」って。
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糸井 |
はははははは。
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南 |
しかも、それが韓国語でね。
あれ? と思って店内を見渡すと、
壁に貼ってあるポスターがぜんぶ韓国系なの。
つまりそこは、台湾で、韓国人が、
見よう見まねではじめた
中華料理の店なんだよ。
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糸井 |
ああー、それは、無理があるね。
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南 |
せめて、そんなことしないでさ、
韓国料理やればいいんだよ。
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糸井 |
おっしゃるとおり。
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一同 |
(笑)
(あなたのまずいものは何? つづきます) |