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糸井 |
百目(ひゃくめ)といえば、
水木しげるさんの絵が
思い浮かぶんだけど。 |
南 |
うん。
あれは、昔からいるおばけというより
オトナになってから、
そういう、水木さんの絵なんかで
知ったおばけだね。 |
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糸井 |
あの百目ってさ、
まぶたがこう、ぶよぶよして、
垂れ下がってるでしょ。
あれはちょっとした老化というか、
筋肉の不具合みたいなものなんだって。 |
南 |
へぇー。 |
糸井 |
お医者さんに聞いたんだけど、
まぶたの、筋というか腱のようなものと、
まぶたを上げたり下げたりする筋肉とが、
歳をとると、だんだん離れていくわけ。
あの、政治家のまぶたとかがさ、
こう、百目的になってるでしょ。 |
南 |
うん(笑)。
なってるね、百目的に。 |
糸井 |
あれは、ようするに
まぶたの腱を動かす筋肉が
機能してないからなんだって。
で、ああいうふうになると、
やっぱり、見えづらいわけ。いろんなものが。
そこでどうするかっていうと、
こう、あごをあげて、
たるんだまぶたの隙間から
向こうを眺めるようになる。
すると、こう、政治家っぽい、
世の中を睥睨するような感じになる。 |
南 |
あ、なるほどねぇ(笑)。 |
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糸井 |
逆にいうと、歳をとった政治家が
なんだか偉そうに見えてしまうのは、
本人の性格的なことではなくて、
たんにまぶたの筋肉が
衰えてしまったからかもしれない。 |
南 |
(あごを上げてまぶたの隙間から
世の中を眺めながら)
そうか、ほんとだね。 |
糸井 |
で、たるんだまぶたを
ムリにでも上げるときっていうのは
眉毛をあげる筋肉を使うんだって。
ところがね、眉毛の筋肉を過剰に使うと、
頭部を行き交ってるぜんぶの
筋肉や筋に影響しちゃうから、
首や肩が凝りやすくなるらしい。 |
南 |
え! うそ! |
糸井 |
そうなんだってよ。 |
南 |
オレ、ふざけて耳が動くとか言って
昔から顔中の余計な筋を
動かしてる気がするんだけど、
じゃあ、あれはよくないね。 |
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糸井 |
うん。きっとよくないよ。
でも、伸坊が耳を動かすのは
きっとおもしろいから
続けていいんじゃないかな。
ちなみに、たるんだまぶたを切って、
たるみを取ってから縫い合わせる
手術っていうのもあるんだよ。
そうするとね、当たり前だけど
視界がすごく広くなって見やすくなる。
おまけに、肩こりもとれる。
わりと流行ってるらしいんだ、その手術。
1時間半くらいで終わるらしいんだけど。 |
南 |
ふーん。 |
糸井 |
たしかに、自分のまぶたというか、
おでこのあたり全体をこう、
持ち上げてみるとさ、見やすいんだよ。 |
南 |
(持ち上げてみる)
あ、ほんとだね。
ってことは、いつもは見づらいんだね。 |
糸井 |
それを教えてくれた医者がさ、
「私もその手術をしたんですよ」なんて
気軽に教えてくれるわけ。
「ラクになりますよー」とか言って。
で、パッとその医者の顔を見たら、
かわいい目をしてんだよ。 |
南 |
あはは。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
で、おばけの百目の話に戻るんだけど。 |
南 |
戻るね、律儀に(笑)。 |
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糸井 |
当たり前だよ。
脱線させたものの礼儀だよ、そこは。 |
南 |
脱線マナー。 |
糸井 |
脱線マナー。
とっさの脱線マナー。 |
南 |
どたんばの脱線マナー。 |
糸井 |
どたんばの脱線マナー(笑)。
で、百目だけどね、おばけの。 |
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南 |
うん。 |
糸井 |
百目ってのはさ、1個ずつのまぶたが
いちいち、たるんでるわけだよ。 |
南 |
あー、そうだね。 |
糸井 |
あのたるみを手術で直そうとすると、
1個あたり1時間半ずつかかるから
そりゃあ、たいへんだよ。 |
南 |
手間賃も高くつくね。 |
糸井 |
そうそうそう。
で、まぁ、けっきょく
なにが言いたいかというと、
個展のために描くおばけのなかに、
百目を入れるとたいへんだよ、っていうこと。 |
南 |
目が百個もあるからな。 |
糸井 |
そういうことだよ。
個展の初日まで時間がないんだからさ。
描く目の数は少なければ少ないほうがいいよ。 |
南 |
そりゃ、どうも、ありがとう。 |
糸井 |
ちなみに、何枚くらい描くんだっけ?
おばけの絵は。 |
南 |
今度の個展で?
だいたい、20枚ぐらいかな。 |
糸井 |
20枚。ああ、そうか。
うーん‥‥‥‥40枚くらい描いたら? |
南 |
そ、そんなに‥‥。
さっき、目を描くときは
あんなに心配してくれたのに! |
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糸井 |
はははははは。 |
南 |
あー、びっくりした。 |
糸井 |
そこがいちばん怖かった。 |
南 |
はははは。 |
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(まぶたのたるみを気にしつつ、つづきます) |