佐藤 | 中村さんは、 デジタル機器でスケジュール管理するようになる前は、 手帳をつかっていたんですか? |
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中村 | 何回か試みたことはあります。 それこそ『日経ビジネスアソシエ』の 手帳の特集を見て、 「手帳を書いちゃってる俺」を 想像してみたり(笑)。 |
糸井 | それ、僕の場合はギターですね。 「ギターを弾いちゃってる俺」みたいな。 弾けないんだけどね(笑)。 |
中村 | (笑)。 で、手帳をつかってみるものの、 書くことがどうしても身につかなくて。 書くという行為が、 常に取り返しのつかないことをしているというか‥‥。 |
糸井 | 「取り返しのつかないこと」? |
中村 | ええ。ほら、コンピューターだと、 「コントロールキー+Z」と押せば すぐに前の状態に戻るから‥‥。 |
糸井 | 取り消し放題ですもんね(笑)。 |
中村 | はい(笑)。 だから、手帳になにか書いていると、 「コントロールキー+Z」ができない 怖さや不安が募ってきて、 だんだん窮屈に思えてくるんです。 |
佐藤 | 手帳は書かないにしても、 メモをとったりはするでしょう? |
中村 | いや、それもないですね。 大学のときも、友達にノート借りていましたし、 打ち合わせのときも、みんなメモをとっているときに 僕は全部覚えている天才のふりをしています。 本当は忘れていっているんですけどね(笑)。 書くということが、もう、コンプレックスなんです。 |
糸井 | コンプレックスになった原因は なにかあるんですか? それとも昔からずっと? |
中村 | いえ、もともと、僕は書く人だったんですよ。 こどものころは書道初段で。 |
佐藤 | え、そうなの? こんなに会ってるのに、はじめて聞いた。 |
中村 | 実は、そうだったんです。 で、小学校5年生くらいに 「へた字ブーム」が到来したんですね。 たとえば、数字の「9」を書くときには、 丸を書いて、その真ん中から ひょいっと下に線を引く。 そういう「へた字」の文化に、 今まで培ってきた僕の書道の字が 見事に破壊されました。 |
糸井 | クラシックのバイオリンを弾いていたら、 パンクロックに出会っちゃった、みたいな。 |
中村 | まさに、そんな感じです。 まともに字が書けなくなっちゃって。 字のプロポーションがうまく取れなくなりました。 |
佐藤 | ほんとうに破壊されちゃったんだ。 |
中村 | たとえば、「東京都」って書こうとすると、 「都」の文字が、いっつもちょっとずれるんです。 だから、年賀状を書くときは 「東京都」の時点でテンションが下がります。 「もぉー、あー!」って。 |
糸井 | まさか、そんなに根深いものだったとは(笑)。 |
佐藤 | ねぇ(笑)。 |
中村 | 僕、佐藤さんと一緒に「デザインあ」の 企画会議をしていたときに、 今でも鮮明に覚えている言葉があるんです。 |
佐藤 | え、なんだろう。 |
中村 | 「長いきれいな曲線は、腰から書くんだ。」 |
佐藤 | ああ、言った言った! 線を書くときに、 指の関節、手首、ひじ、肩、腰、 体のどの部分をつかっているかで、 線は全然ちがうんだっていう話をしたんですよ。 そのとき、たしか中村さんは 「はぁ‥‥」って反応だったのに(笑)。 |
中村 | リアクションは悪かったかもしれませんが、 「腰か! まさか腰とは思わなかった」って すごく衝撃を受けていました。 僕は指の第二関節くらいで こちょこちょこちょこちょって 字を書いているから、線が美しくない。 |
佐藤 | でも、コンピューター上では数字で計算して きれいに線を引くんでしょ? |
中村 | そうですね。コンピューターでは。 |
佐藤 | おもしろいなぁ、僕とは正反対だ。 僕らって、ちょうどデザインの分野に コンピューターが つかわれはじめた世代なんですけど、 僕はつかって1週間くらいで 「これはダメだ」って(笑)。 それ以来、コンピューターをつかって デザインすることがトラウマになっちゃって。 文章を書いたり、インターネットしたりはするけど、 線1本引かないですね。 |
糸井 | へぇー、そうなんだ。 |
佐藤 | そこで、自分にとって いちばんつかいやすい道具がなんなのかと 考えて、シャープペンシルに行きつきました。 |
糸井 | あ、僕もです。 しばらく万年筆をつかっていたんですけど、 自分をいちばん育ててくれたのは シャープペンシルだと思って、 最近、モンブランの0.9mmのシャープペンシルを 買ったところなんですよ。 |
佐藤 | 鉛筆ではないんですよね。 それで、シャープペンシルだけで どれだけのビジュアルがつくれるのか、 試してみようと思って、 あるとき、ポスターをつくってみたんです。 そしたら、細かいグラデーションとかも 力の入れ具合で簡単につくれちゃうんですよ。 それが、逆に新鮮でしたね。 |
中村 | ああー。 |
佐藤 | あと、手で書くときには、 天気も重要だということも知りました。 晴れの日の紙は乾燥しているから カリカリしているんですね。 で、それ以上やると腱鞘炎になりそうだったので 作業をやめたんですけど、次の日が雨で。 雨の日は紙がしっとりしているから、 タッチや色が違っちゃうんですよ。 そこで、 「あぁー、晴れの日に ここまでやらなきゃならないんだな」 ってことがわかるんです。 それがおもしろくなっちゃって、 そのポスターは2枚つくりました(笑)。 |
糸井 | いやぁ、中村さんと佐藤さん、 ほんとうに両極端ですね(笑)。 お二人の間にいる僕は、どっちでもないなぁ。 |
佐藤 | ふつうは、そうだと思います(笑)。 (つづきます) |
※このコンテンツは、
『日経ビジネスアソシエ 2013年11月号』に掲載されたものと同じ鼎談を
「ほぼ日刊イトイ新聞」用に編集し直したものです。