撮影:小川拓洋
「ほぼ日手帳」のプロモーションビデオをみる

第5回 言語化して、書いていく。

糸井 今回、中村さんがつくってくださった
「ほぼ日手帳」のプロモーションビデオでは、
佐藤さんは、ボーカルとして
参加してくれたんですよね。
佐藤 はい(笑)。
動作に合わせて、
「シュッシュ」とか「ぬりぬり」とか
歌っています。
あれ、おもしろい手法ですよね。
中村 プロモーションビデオを見ている人が
書いている人の気分になるといいなと思って、
すべての書く動作をオノマトペにしました。
佐藤 中村さんとは何度かお仕事をしているんですけど、
やっぱりちゃんと言語化しているんですよね。
「シュッシュ」とか「ぬりぬり」とか、
こうやって言語化することって、
書く行為とつながっていると思うんですよ。
糸井 ああー。
佐藤 僕の場合はデザインをしているので、
これはなぜこの位置にあるのか、ということを
いちいち説明しなくちゃいけないんですよ。
0.1mm上でも下でもなくて、
なぜここでなきゃいけないのか、という理由を
同時に考えながらやっているんですね。
言語化しながら、デザインしているんですよ。
中村 あ、僕もそれしています。
作業中に、誰もいなかったら
「ここはこういう概念でこうしてるんだからね‥‥」
って、キーボードを叩きながら
独り言のようにいっていることがあります。
佐藤 そうなんですね、
やっぱり、一回考えて言語化しているんですね。
糸井 でも、中村さんは、
構想とかを紙に書いたりはしないんですよね。
中村 そうですね。
紙に書いて定着させると、
そこが基準になっちゃう気がして。
不定形なまま泳がせておきたい、
というのはあります。
佐藤 言葉にしたときに、
それに自分がものすごく左右されちゃうことって
ありますよね。
糸井 僕もよく同じことを考えていたんですけど、
紙に書いたことって、「部分解」があるんですよ。
部分解が出ているんだったら、
書いておくと、あとでとても助かるんです。
中村 「部分解」。
糸井 そう、部分解を書いておく。
つまり、全体解はそのまま茫洋としていていいんです。
見えないもの(全体解)を探しているんだけど、
見えるもの(部分解)があって、
それをきちんと自分に見せると、
いつか解けるような気がしてくるんですよね。
僕の手帳にあるのは、そういう部分解なんです。
予定とかはまったく書かれていない。
中村 なるほど。
佐藤 僕の手帳は、おもに予定ですね。
僕、土日に次の週の予定を
30分くらいかけて書くんですよ。
時間軸から引き出し線を引いて、
きっちりとおさめていく。
そうやって、毎週毎週書いていると、
いかに自分の体が思い通りに動かないのか、
というのがわかるんですよ。
たとえばサーフィンして帰ってくると、
手がよく揺れたりとか。
「なんで思い通りにならないんだ、この腕は」
って、確認するのがおもしろいんですよ。
中村 それ、佐藤さんにピッタリのエピソードですね。
論理的に物事を詰めていくんだけど、
最後に身体性というか、
佐藤さんのエッセンスが出てきちゃう。
糸井 はいはいはいはい(笑)。
中村 そのエッセンスが、いいじゃないですか。
あのビシっとしたスケジュールのなかに、
微妙にふにゃとしている揺らぎがあって、
そこがすごく気になる、みたいな(笑)。
佐藤 うーん、なんというか、
揺らぎのなかにも、気に入らない揺らぎと
許せる揺らぎがあるんですよ。
もう、これは自分だけにしかわからない、
自分だけの問題なんですけど(笑)。
糸井 佐藤さんの手帳はもう、
スケジュール帳というよりは、
生きてきた記録ですよね。
佐藤 ああ、そうですね。
自分がどういうリズムで生活してきたのかが
わかる気がしますね。
細かく時間を刻んでいる16ビートの日もあれば
8ビートの日もあって‥‥。
中村 うわぁ、かっこいい。
書くことの研究って、
やりがいがありそうですね。
糸井 それは、文字と絵のどちらをイメージして?
中村 文字です。
文字を書いた瞬間に、それは外界のものになって、
その自分がやらかしてしまった結果を
常に受け入れながら、また書いていく。
その感じが、おもしろいなぁって。
でも、それは僕が字が下手だから
そう思うんですかね。
佐藤 うーん、
まぁ、ふつうはそこまで考えない(笑)
糸井 実は、中村さんが一番
書くことについて考えてるのかもしれない。
中村 はい、憧れてますからね。
コンプレックスなんですよ。
糸井 逆に、「あんた、ほんとに好きね」って
言われそうだよね(笑)。

(おわり)
2013-10-23-WED

※このコンテンツは、
 『日経ビジネスアソシエ 2013年11月号』に掲載されたものと同じ鼎談を
 「ほぼ日刊イトイ新聞」用に編集し直したものです。

中村勇吾さんにつくっていただいた動画はこちら。

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