糸井 | 今回、中村さんがつくってくださった 「ほぼ日手帳」のプロモーションビデオでは、 佐藤さんは、ボーカルとして 参加してくれたんですよね。 |
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佐藤 | はい(笑)。 動作に合わせて、 「シュッシュ」とか「ぬりぬり」とか 歌っています。 あれ、おもしろい手法ですよね。 |
中村 | プロモーションビデオを見ている人が 書いている人の気分になるといいなと思って、 すべての書く動作をオノマトペにしました。 |
佐藤 | 中村さんとは何度かお仕事をしているんですけど、 やっぱりちゃんと言語化しているんですよね。 「シュッシュ」とか「ぬりぬり」とか、 こうやって言語化することって、 書く行為とつながっていると思うんですよ。 |
糸井 | ああー。 |
佐藤 | 僕の場合はデザインをしているので、 これはなぜこの位置にあるのか、ということを いちいち説明しなくちゃいけないんですよ。 0.1mm上でも下でもなくて、 なぜここでなきゃいけないのか、という理由を 同時に考えながらやっているんですね。 言語化しながら、デザインしているんですよ。 |
中村 | あ、僕もそれしています。 作業中に、誰もいなかったら 「ここはこういう概念でこうしてるんだからね‥‥」 って、キーボードを叩きながら 独り言のようにいっていることがあります。 |
佐藤 | そうなんですね、 やっぱり、一回考えて言語化しているんですね。 |
糸井 | でも、中村さんは、 構想とかを紙に書いたりはしないんですよね。 |
中村 | そうですね。 紙に書いて定着させると、 そこが基準になっちゃう気がして。 不定形なまま泳がせておきたい、 というのはあります。 |
佐藤 | 言葉にしたときに、 それに自分がものすごく左右されちゃうことって ありますよね。 |
糸井 | 僕もよく同じことを考えていたんですけど、 紙に書いたことって、「部分解」があるんですよ。 部分解が出ているんだったら、 書いておくと、あとでとても助かるんです。 |
中村 | 「部分解」。 |
糸井 | そう、部分解を書いておく。 つまり、全体解はそのまま茫洋としていていいんです。 見えないもの(全体解)を探しているんだけど、 見えるもの(部分解)があって、 それをきちんと自分に見せると、 いつか解けるような気がしてくるんですよね。 僕の手帳にあるのは、そういう部分解なんです。 予定とかはまったく書かれていない。 |
中村 | なるほど。 |
佐藤 | 僕の手帳は、おもに予定ですね。 僕、土日に次の週の予定を 30分くらいかけて書くんですよ。 時間軸から引き出し線を引いて、 きっちりとおさめていく。 そうやって、毎週毎週書いていると、 いかに自分の体が思い通りに動かないのか、 というのがわかるんですよ。 たとえばサーフィンして帰ってくると、 手がよく揺れたりとか。 「なんで思い通りにならないんだ、この腕は」 って、確認するのがおもしろいんですよ。 |
中村 | それ、佐藤さんにピッタリのエピソードですね。 論理的に物事を詰めていくんだけど、 最後に身体性というか、 佐藤さんのエッセンスが出てきちゃう。 |
糸井 | はいはいはいはい(笑)。 |
中村 | そのエッセンスが、いいじゃないですか。 あのビシっとしたスケジュールのなかに、 微妙にふにゃとしている揺らぎがあって、 そこがすごく気になる、みたいな(笑)。 |
佐藤 | うーん、なんというか、 揺らぎのなかにも、気に入らない揺らぎと 許せる揺らぎがあるんですよ。 もう、これは自分だけにしかわからない、 自分だけの問題なんですけど(笑)。 |
糸井 | 佐藤さんの手帳はもう、 スケジュール帳というよりは、 生きてきた記録ですよね。 |
佐藤 | ああ、そうですね。 自分がどういうリズムで生活してきたのかが わかる気がしますね。 細かく時間を刻んでいる16ビートの日もあれば 8ビートの日もあって‥‥。 |
中村 | うわぁ、かっこいい。 書くことの研究って、 やりがいがありそうですね。 |
糸井 | それは、文字と絵のどちらをイメージして? |
中村 | 文字です。 文字を書いた瞬間に、それは外界のものになって、 その自分がやらかしてしまった結果を 常に受け入れながら、また書いていく。 その感じが、おもしろいなぁって。 でも、それは僕が字が下手だから そう思うんですかね。 |
佐藤 | うーん、 まぁ、ふつうはそこまで考えない(笑) |
糸井 | 実は、中村さんが一番 書くことについて考えてるのかもしれない。 |
中村 | はい、憧れてますからね。 コンプレックスなんですよ。 |
糸井 | 逆に、「あんた、ほんとに好きね」って 言われそうだよね(笑)。 (おわり) |
※このコンテンツは、
『日経ビジネスアソシエ 2013年11月号』に掲載されたものと同じ鼎談を
「ほぼ日刊イトイ新聞」用に編集し直したものです。