糸井 | プロモーションビデオでは、 「ほぼ日手帳」のユーザーの方が 実際に手帳に書き込んでいくところを 撮影したんですよね。 |
---|---|
中村 | はい。 このプロモーションビデオを撮影する前に、 うちの事務所でサンプルムービーを撮ったんですよ。 美大を出ているスタッフに、 「ほぼ日手帳のユーザーさんみたいに書いて」って。 でも、やっぱり、デジタル人間が それっぽく書いてみたとこで、 ほぼ日手帳のユーザーさんたちの あの情念とか愛がこもったページにはならないんですね。 |
糸井 | ああ、そうかもしれないですね。 なんというか、「スイング」がない。 |
中村 | そうそうそう、 「グルーヴ」がないというか。 |
糸井 | 「グルーヴ」がない(笑)。 いいなぁー。 デジタルの時代に 手で書くというアナログの行為を そんなふうに言える時代になってきましたね。 |
佐藤 | いい時代ですね。 さっき、中村さんは書くことが コンプレックスだと話していましたけど、 そもそも、今回のプロモーションビデオを どういう切り口でつくろうとしたんですか? |
中村 | 書くという行為を最大化したいな、と思いました。 |
佐藤 | 最大化? |
中村 | 単純に書いているところを画面いっぱいに展開して、 その行為をひたすらずっと見ていたい、という感じで。 人が書いている姿って、見ていて飽きないんですよ。 撮影中も、 「書いてるねぇ、 なんかもう、すごい書いてるねぇ」って アシスタントとひそひそ話しながら、ずーと見てて。 |
糸井 | だって、ずっと生み出しつづけているんだもんね。 |
中村 | そうなんです、即興の演奏みたいに。 ですから、完成版は音楽にシンクロさせた 2、3分の動画なんですけど、 なんの編集もしないで30分くらいにしても 見ていられると思います。 |
佐藤 | だから、中村さんが書く行為を見ている 距離感みたいなものがおもしろいんですよね。 宇宙人が地球にやってきて、 人間が文字を書いているのを見て 「君たちは、何やってるんだい?」という 好奇心の目というか。 |
中村 | 人が書いている姿は、 観察したくなるおもしろさがあると思います。 魚がエサを食べているところとか、 見ちゃいますよね。 |
糸井 | あー、あれは楽しいですね。 前にどこかで読んだ文章で、 「フィーディング(feeding)というのは 生きものと接する楽しみです」 と書いてあって、 あ、もうジャンル化されてるんだと思いました。 生き物がご飯を食べるというのは 見ていて楽しいんだ、と。 僕は飼っている犬がご飯を食べるのとか見るし、 同じ意味で、排泄しているのも、やっぱり見る。 |
中村 | あー、わかるなぁ。 |
糸井 | なにかをつくるのも、 なにかを書くのも、同じですよね。 |
佐藤 | 手帳に書いているところを ずっと観察していて、 なにか気づいたことはありました? |
中村 | 書き慣れている人は、 独自のレイアウトの感覚をもっていて、 ちゃんと計画性をもって書いていました。 ある人は、絵に空間をつくっていて、 ここ、なんでずらしてるんだろうって見ていたら あとでその空いたところに言葉を足されたんです。 完成形がちゃんと見えているんですよね。 |
糸井 | ああ、心にモニターを持っていますよね。 この前、和田誠さんが絵を描いているところを 見ていたんですよ。 子どものらくがきみたいに スーッと自由に描いていくんだけど、 手を描いていたときに、 あとで拳銃を持たせるために そのスペースを自然に空けていたんですよ。 「タバコくわえさせてね‥‥」なんて言いながら、 描いていっちゃうんですよ。 |
佐藤 | 計画性と自由さが 混じっているんですね。 |
糸井 | そうそう、まるで芸事のようでした。 |
中村 | 逆に、書ききれなくなったときに ページの下のほうの字が どんどん小さくなっていくのも、すごく好きです。 |
糸井 | ああ、あれもいいですね。 |
中村 | 「破綻してる!」「でも書きたいことがある!」 そんな感じがいいんですよね。 あのガチャガチャしてるところは、 読んじゃいますね。 |
糸井 | 書家でも、 そういうことをしている人がいますよ。 |
中村 | へえ、そんな方が。 |
糸井 | 「ほぼ日の扇子」にもなっている、 井上有一さんという書家の 「雨ニモ負ケズ」が、そうなんですよ。 こう、グーッと書いている勢いを そのまま紙に写しているので、 消した跡まで残っていて。 |
中村 | ああ、全部のプロセスが つまびらかになっているというか。 |
糸井 | だから、「ああ、ほんとうだな」 っていう気がするんですよね。 |
中村 | ええ。 |
佐藤 | ということは、書いている人によって それぞれ書き方が違うんでしょうね。 |
中村 | そうですね。書く順番とか、 その人なりのリズム感があると思います。 といっても、 ルールに従って書いてるわけではなく、 偶然で起こっていることと、 人間が理論的に考えてやっていることが せめぎ合っているのが、 「書く」ということかなと‥‥。 |
糸井 | ああー。 |
佐藤 | 思い通りのままではつまらない。 けど、偶然だけでもつまらない。 |
中村 | そうそう、そうなんです。 それらが入り交じっている 「グルーヴ」がおもしろくて、 つい見てしまうんです。 (つづきます) |
※このコンテンツは、
『日経ビジネスアソシエ 2013年11月号』に掲載されたものと同じ鼎談を
「ほぼ日刊イトイ新聞」用に編集し直したものです。