撮影:小川拓洋
「ほぼ日手帳」のプロモーションビデオをみる

第4回 「書く」という、おもしろき行為。

糸井 プロモーションビデオでは、
「ほぼ日手帳」のユーザーの方が
実際に手帳に書き込んでいくところを
撮影したんですよね。
中村 はい。
このプロモーションビデオを撮影する前に、
うちの事務所でサンプルムービーを撮ったんですよ。
美大を出ているスタッフに、
「ほぼ日手帳のユーザーさんみたいに書いて」って。
でも、やっぱり、デジタル人間が
それっぽく書いてみたとこで、
ほぼ日手帳のユーザーさんたちの
あの情念とか愛がこもったページにはならないんですね。
糸井 ああ、そうかもしれないですね。
なんというか、「スイング」がない。
中村 そうそうそう、
「グルーヴ」がないというか。
糸井 「グルーヴ」がない(笑)。
いいなぁー。
デジタルの時代に
手で書くというアナログの行為を
そんなふうに言える時代になってきましたね。
佐藤 いい時代ですね。
さっき、中村さんは書くことが
コンプレックスだと話していましたけど、
そもそも、今回のプロモーションビデオを
どういう切り口でつくろうとしたんですか?
中村 書くという行為を最大化したいな、と思いました。
佐藤 最大化?
中村 単純に書いているところを画面いっぱいに展開して、
その行為をひたすらずっと見ていたい、という感じで。
人が書いている姿って、見ていて飽きないんですよ。
撮影中も、
「書いてるねぇ、
 なんかもう、すごい書いてるねぇ」って
アシスタントとひそひそ話しながら、ずーと見てて。
糸井 だって、ずっと生み出しつづけているんだもんね。
中村 そうなんです、即興の演奏みたいに。
ですから、完成版は音楽にシンクロさせた
2、3分の動画なんですけど、
なんの編集もしないで30分くらいにしても
見ていられると思います。
佐藤 だから、中村さんが書く行為を見ている
距離感みたいなものがおもしろいんですよね。
宇宙人が地球にやってきて、
人間が文字を書いているのを見て
「君たちは、何やってるんだい?」という
好奇心の目というか。
中村 人が書いている姿は、
観察したくなるおもしろさがあると思います。
魚がエサを食べているところとか、
見ちゃいますよね。
糸井 あー、あれは楽しいですね。
前にどこかで読んだ文章で、
「フィーディング(feeding)というのは
 生きものと接する楽しみです」
と書いてあって、
あ、もうジャンル化されてるんだと思いました。
生き物がご飯を食べるというのは
見ていて楽しいんだ、と。
僕は飼っている犬がご飯を食べるのとか見るし、
同じ意味で、排泄しているのも、やっぱり見る。
中村 あー、わかるなぁ。
糸井 なにかをつくるのも、
なにかを書くのも、同じですよね。
佐藤 手帳に書いているところを
ずっと観察していて、
なにか気づいたことはありました?
中村 書き慣れている人は、
独自のレイアウトの感覚をもっていて、
ちゃんと計画性をもって書いていました。
ある人は、絵に空間をつくっていて、
ここ、なんでずらしてるんだろうって見ていたら
あとでその空いたところに言葉を足されたんです。
完成形がちゃんと見えているんですよね。
糸井 ああ、心にモニターを持っていますよね。
この前、和田誠さんが絵を描いているところを
見ていたんですよ。
子どものらくがきみたいに
スーッと自由に描いていくんだけど、
手を描いていたときに、
あとで拳銃を持たせるために
そのスペースを自然に空けていたんですよ。
「タバコくわえさせてね‥‥」なんて言いながら、
描いていっちゃうんですよ。
佐藤 計画性と自由さが
混じっているんですね。
糸井 そうそう、まるで芸事のようでした。
中村 逆に、書ききれなくなったときに
ページの下のほうの字が
どんどん小さくなっていくのも、すごく好きです。
糸井 ああ、あれもいいですね。
中村 「破綻してる!」「でも書きたいことがある!」
そんな感じがいいんですよね。
あのガチャガチャしてるところは、
読んじゃいますね。
糸井 書家でも、
そういうことをしている人がいますよ。
中村 へえ、そんな方が。
糸井 「ほぼ日の扇子」にもなっている、
井上有一さんという書家の
雨ニモ負ケズ」が、そうなんですよ。
こう、グーッと書いている勢いを
そのまま紙に写しているので、
消した跡まで残っていて。
中村 ああ、全部のプロセスが
つまびらかになっているというか。
糸井 だから、「ああ、ほんとうだな」
っていう気がするんですよね。
中村 ええ。
佐藤 ということは、書いている人によって
それぞれ書き方が違うんでしょうね。
中村 そうですね。書く順番とか、
その人なりのリズム感があると思います。
といっても、
ルールに従って書いてるわけではなく、
偶然で起こっていることと、
人間が理論的に考えてやっていることが
せめぎ合っているのが、
「書く」ということかなと‥‥。
糸井 ああー。
佐藤 思い通りのままではつまらない。
けど、偶然だけでもつまらない。
中村 そうそう、そうなんです。
それらが入り交じっている
「グルーヴ」がおもしろくて、
つい見てしまうんです。

(つづきます)
2013-10-22-TUE

※このコンテンツは、
 『日経ビジネスアソシエ 2013年11月号』に掲載されたものと同じ鼎談を
 「ほぼ日刊イトイ新聞」用に編集し直したものです。

中村勇吾さんにつくっていただいた動画はこちら。

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