糸井 |
湯村さんの世界は、
変わらず、エロティックで。 |
湯村 |
そうだねぇ。
あのころから、いままで‥‥。 |
糸井 |
ずーっとエロティックでした。 |
湯村 |
だって、エロじゃなかったらさ、
(『さよならペンギン』を指さしながら)
こんなかわいい絵本は出せなかったよ。 |
|
 |
糸井 |
ああーー、そうですねぇ。 |
湯村 |
どっちにしろ、純粋だってことでさ。 |
糸井 |
ははははは。
だから、わかりやすいエロの部分は、
(壁の大きなグラフィックを指さしながら)
こういう仕事でぜんぶ済ませちゃって、
のこった純粋さで
ペンギンの絵を描いてたんですかね。 |
|
 |
湯村 |
これは、純粋無垢だよ。
なんていうの?
もう、澄んだ目で描いてる。 |
糸井 |
ははははは。 |
湯村 |
この本ね、復刻するって聞いて、
探したんだけど、見つからなかったんだよ。
そうそう、最初にソフトカバーで出て、
ちょっとあとでハードカバーで出たんだよな。 |
糸井 |
そうですね。
で、気がついたら、この本が、
ぼくが自分の名前で出した
「はじめての本」だったんです。 |
湯村 |
へーー。 |
糸井 |
だから、これ、
本としてはデビュー作なんです。 |
湯村 |
そうなんだね。
(本をぱらぱらめくりながら
あとがきの写真を見つけて)
ああ、ここ、「美人喫茶」だ(笑)。 |
|
 |
糸井 |
サンジェルマン(笑)。 |
湯村 |
サンジェルマンね。
当時の伊勢丹、いまの丸井のところに
ドーンとガラス張りの喫茶店があって、
美人のウエイトレスがいっぱいいてさぁ。
ここで、日がな一日、こうやって、
コーヒー飲んで打ち合わせ。 |
糸井 |
そうそう(笑)。 |
湯村 |
「行かない?」って電話かかってくるから、
ここで待ち合わせて。
ずっとふたりで話してると、そのうち、
コーヒーがどんどんタダで出るようになってネ。
そのうちサンドイッチとか
頼まないのに出てきちゃったりして。
いい思いしたよね(笑)。 |
糸井 |
それも湯村さんなんですよ。
だから、とにかく、モテるんだよ。
湯村さんといると、こっちもモテてる。 |
湯村 |
いや、これ、いい写真だねェ。
なんか、ぜんぜん、
いやらしいこと考えてない感じだね。 |
|
 |
糸井 |
考えてない? |
湯村 |
考えてないよ(笑)!
もう、純粋に、
かわいいペンギン描かなきゃなって。 |
糸井 |
ふふふふふ。
あの、この『さよならペンギン』を
つくってるときのプロセスは、
ぼくはわりと記憶があるんですよ。
というのは、ぼくがことばを描いて、
湯村さんに渡したあと、
絵が1枚できるごとに、ぼくは見に来てたんです。 |
湯村 |
そうだったっけ。
できたぞー、みたいなこと? |
糸井 |
そうそう「1枚、できたよ」っていうから
うれしくなって見に行くんですよ。
で、どんどんよくなっていくの。
「つぎも、また、いいからネ」って
湯村さんが言うのにつられて、見に行くの。
さぞかし、いいんだろうなと思って来ると、
また、ほんとに、いいわけですよ。 |
|
 |
湯村 |
そっか(笑)。 |
糸井 |
当時は湯村さんがあの新しい絵の具を
憶えたばっかりのころで。
絵の具の、リキテックスじゃなくて‥‥。 |
湯村 |
ガッシュね。 |
糸井 |
ガッシュか。
湯村さん、その画材がまだめずらしいから
たのくてしょうがないんですよね。 |
湯村 |
そうなんだけどさ。
チューブから絵の具をこう出して、
汚れたら洗って取り替えて、
みたいなことをやってるうちに
だんだん面倒くさくなってきてさ。 |
糸井 |
(笑) |
湯村 |
あとね、描いてるうちに、
ひどい口内炎がいくつもできちゃって。 |
|
 |
糸井 |
あー、そうだそうだ、そうだった(笑)。 |
湯村 |
もう、口が閉まんなくなっちゃって。
開けっ放しの、腫れ腫れで。
すぐによだれ出ちゃうわでさぁ、
おまけに、痔じゃない? |
一同 |
(笑) |
湯村 |
上からよだれ、
下から血を垂らしながらさぁ。
それで、絵の具が、面倒くさい。 |
|
 |
糸井 |
はははははは。 |
湯村 |
這いずり回りながら描いたの。
それでもうね、
こんな、つらいのヤダと思って、
やめちゃったから、
絵の具は、これ一回だけ。 |
|
 |
糸井 |
そう、やめたんですよね。 |
湯村 |
もうガッシュやめちゃったの。
それでサインペン。ラクな方を選んだの。 |
糸井 |
だって、湯村さんの絵の具って、
この『さよならペンギン』以外に
見たことないですもん。 |
湯村 |
ないでしょ。これだけだよ。
たしか「デザイン」っていう雑誌の表紙に
一回だけつかったかな。でも、それだけ。
本になってるのなんて、間違いなくこれだけ。 |
糸井 |
うん。ないですよね。 |
湯村 |
ないね。
だから、オレの作家人生の中で
ほんとに貴重な本なんだ、じつは。 |
|
 |
糸井 |
あのころの湯村さんってさ、
ちがった画材や新しい方法で、
「違った自分の味」が出せるなら、
なんでもうれしそうに取り入れてたよね。 |
湯村 |
そう。 |
糸井 |
ぼくがあるとき筆ペンでなにか書いてたら、
「なにそれ?」って言って
すーぐ、それで絵描いたりさ。 |
湯村 |
そうそう。
だから、『ペンギンごはん』のほうは、
筆ペンで書いてるんだよね。
「ヘタうま」っていうコンセプトも
じつは『ペンギンごはん』あたりから
はじまってる。 |
糸井 |
仕事のはじまり自体は、
『さよならペンギン』よりも
『ペンギンごはん』のほうが先で。
あのころから、
ヤケなんだか自由なんだかわかんない、
みたいなところに
ガーッと行きましたよね。 |
|
 |
湯村 |
うん。自分のなかで、
なにかが弾けたのかもしれない。 |
糸井 |
自由になっちゃったんだ。
というか、あのへんまでの湯村さんって
じつは意外に真面目で(笑)。 |
湯村 |
そうそう(笑)。
いろんな賞とったものにしても、
けっこう、真面目なんだよ。 |
糸井 |
ちゃんと商品になってるという。 |
湯村 |
なにやってもいいんだって言ってるわりに、
ちゃんと真面目にやってて。 |
糸井 |
真面目でしたよ。
だって、湯村さんの色指定って、
ものすごく厳しかった印象があるもの。 |
湯村 |
あー、そうだね。 |
|
 |
糸井 |
自由といえば、自由にやってるんだけど、
「ここは絶対譲らないんだ」みたいなことは、
すっごくあったじゃないですか。 |
湯村 |
そうかもしれない。 |
糸井 |
だから、あのころの湯村さんは、
「こうでなきゃいけない」っていう自分を、
捨てたくてしょうがなかったわけですよ。 |
湯村 |
ああ、捨てるよろこびみたいなね。 |
糸井 |
うん(笑)。 |
湯村 |
もう、明日は違うオレになる。 |
糸井 |
そう。だから、その「違う自分」の、
ある一面が『さよならペンギン』なんですよ。 |
湯村 |
そうか、そうだ。
で、けっきょく、これだけだったんだ。 |
糸井 |
そう、だから、やっぱり貴重ですよね。
|
|
 |
|
2011-04-04-MON |