糸井 |
そもそも、『さよならペンギン』は
湯村さんが出版社から「なにか絵本を」って
頼まれるところからはじまったんですよ。 |
湯村 |
え、オレが? |
糸井 |
そう。
で、「糸井くん、やる?」っていうパターン。
ぼくと湯村さんが
当時やってた仕事はみんなそうですよ。
湯村さんが頼まれて、
しょっちゅう会ってたぼくに声がかかる。 |
湯村 |
そうか(笑)。 |
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糸井 |
たぶん、湯村さんとしては
ひとりでぜんぶやるのは面倒だな
っていう気持ちもあっただろうし、
ぼくに声をかければ、いろいろそろえて
お膳立てしてくれるだろうな、っていう
目論みがあったんだと思うんですけど。 |
湯村 |
(笑) |
糸井 |
で、そのあと、
ふたりで打ち合わせをするんだけど、
まぁ、オレと湯村さんの仕事って、
しゃべってなにかができるっていうことは
じつは、あんまりなくて、
けっきょく、それぞれに持ち帰って、
ひとりの仕事になるんです。 |
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湯村 |
うん。 |
糸井 |
打ち合わせしようか、って言っても、
いつも違う話をしてるだけだから(笑)。
とくに湯村さんは、
「こういうテーマで、こうやって」
みたいなことを言わない人だったし。
「いいのができるからネ」とか、
そういうことははっきり言うんだけど。 |
湯村 |
ふふふふ。 |
糸井 |
で、ぼくは当然、
「やりたい!」って手を挙げたんだけど、
なんでも「やりたい」って言うわりには
なんにも考えてない若者でね(笑)。
この本のときも、あとから悩んだ。
で、こういうのはどうですかね、って、
恐る恐る湯村さんに言ってみたら、
「いいんじゃない?」って。 |
一同 |
(笑) |
糸井 |
まぁ、これにかぎった話じゃないけど、
どんな仕事が来ても平気だったですよ、
湯村さんは。 |
湯村 |
いや、そんなことないでしょ。 |
糸井 |
いや、ほんと。
で、言うだけじゃなくて、
じっさいにどんな仕事でも‥‥
あ、ひとつだけダメなのがあった。
「メカは描かせないでくれ」
って言ってた(笑)。 |
湯村 |
ああ、そうそう(笑)。 |
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糸井 |
「メカを描かせないでくれ」と。
「自転車は困る」と。 |
一同 |
(笑) |
湯村 |
自転車はね、ほんとに、
いま描けって言われったって、
イヤだなぁ。 |
糸井 |
「機械ものは
鉄棒ぐらいまでにしてくれ」って。 |
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一同 |
(笑) |
湯村 |
自転車を描ける人は、いまでも尊敬するよ。
ところがさぁ、
糸井はそれをおもしろがって、
わざと描かせるんだよね。 |
糸井 |
そうそう(笑)。
もう、すっかり親しくなって、
自転車とかイヤがってるのを知ってから、
なんかの仕事を受けたときに
自転車を描かざるをえないようなことを
なにげなくリクエストするの。 |
湯村 |
郵便配達とか、描かせるんだ。 |
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一同 |
(笑) |
糸井 |
そうそう(笑)、
よく憶えてますね!
郵便配達の絵だったら、
どうしても自転車が必要だから。 |
湯村 |
困るんだよ。 |
糸井 |
あと、ロケットとかね。 |
湯村 |
ロケットとか、ロボットとかね。 |
糸井 |
でも、けっきょく、
絶対に湯村さんの世界になっちゃうんだけど。 |
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湯村 |
まぁ、そのとおりに描かないからね。 |
糸井 |
完全に湯村さんのほうが、うわてなんです。
逆に、ぼくがやられて
すごく困ったことがあってね。
湯村さんの描くマンガの原作を
ぼくがやってたとき、コマ割りっていうか、
「だいたいこんな感じで」っていうのを
適当な絵と、簡単なセリフで
簡単な絵コンテみたいにして渡したら、
ぼくの描いた適当な絵を
わざと写して仕上げたんだよ。 |
湯村 |
ふふふふふ。 |
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一同 |
(笑) |
糸井 |
あれは困った(笑)。
自分が描いただけに、困る。
「これ、いいんじゃない?」って言って
素人の描いたバランスの悪い絵を
そのまま写しちゃうんだから。 |
湯村 |
あのころはね、コピーなんてないから、
こう、紙を重ねてね、
窓ガラスへ当てて、こう描く。 |
糸井 |
ひどいよね(笑)。
世の中にないでしょう、
打ち合わせ用の絵コンテをそのまま写す人は。 |
湯村 |
いまだと、同席したデザイナーが
ものすごくしっかりしたラフを
その場で描いてくれたりするよね。
もう、これでいいじゃん、みたいな。
これ写して描いちゃおうかな、みたいな。 |
糸井 |
それはさ、新人原作者の絵コンテを
わざと写して描くのとは真逆の話でしょ。 |
湯村 |
ふふふふふ。 |
糸井 |
そういうね、デタラメなすごいことを、
つぎつぎに発明してたんだよ、湯村さんは。
それは、おもしろかったよ(笑)。
しかも二十代だし、
それでいて世の中の流れなんて
ぜんぜん気にしてないしね。 |
湯村 |
おもしろかったねェ。 |
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2011-04-05-TUE |