糸井 |
復刻することになって、
あらためてこの絵本を読んでみて
気づいたんですけど、
すごく小さいんですよね、ペンギンが。 |
湯村 |
え? |
糸井 |
こんなに主人公が小さく描かれてる絵本は
なかなかないと思う。 |
湯村 |
ああー、そっか。 |
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糸井 |
主人公なのに、ぜんぜんアップなし。
なんていうか、
ずーっと、ちっちゃいんですよ。 |
湯村 |
ふふふ、ほんとだ。
ちっちゃいよな。 |
糸井 |
そういうところを
まったく気にしてないのが、
『さよならペンギン』のいいところで。 |
湯村 |
いまじゃ描けないね、もうね。
うーん、なんだろうな、
別の人が描いたような感じがするんだ。
いまは、とても描けないねェ‥‥。 |
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糸井 |
これ、ぼくが最初に
ラフみたいなものを描いてるんですよね。 |
湯村 |
そう。
軽い絵コンテになってた。 |
糸井 |
あ、そうか、そうか。
だって、この見開きに
トラを描く理由ないもんね。
文章のなかに「トラ」は出てこないもの。 |
湯村 |
そうそうそう。
だから、トラを描かせたかったんだろ、オレに。
自転車じゃなくてサ。 |
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一同 |
(笑) |
糸井 |
そっかー。
たしかに、デタラメでもなんでもいいから、
コンテがなんかないと、
この文章だけでは手がかりがなさすぎる。
じゃあ、ペンギンが小さいのも
ひょっとしたら、ぼくのデタラメな絵コンテが
原因なのかもしれない。 |
湯村 |
どうなんだろうね。 |
糸井 |
どうなんでしょうね。
いまとなっては、もう、わからない。
ただ、なんだろう、
そのころって、「ウブ」っていうか、
なんにもわからないころだからさぁ、
絵本の、見開きのこのページ全体が、
すごく大きく思えたんじゃないかなぁ。 |
湯村 |
あー。 |
糸井 |
こんなにおっきくて広い場所なんだから、
「なんでも載せられるぞ」っていう気持ちが、
この背景の、この、無駄に豊かな描き方に
つながってるんじゃないかなあ。
だって、豊かですよねぇ、この本は。 |
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湯村 |
そうだねェ。 |
糸井 |
広いだろう、っていうよろこびが
オレの中にもあったし、
湯村さんもあったんじゃないかなぁ。 |
湯村 |
うーん。よろこびと同時に、
口内炎と痔のくるしみも感じられるね。 |
糸井 |
(笑) |
湯村 |
でもねぇ、これはほんと、もう描けないよ。 |
糸井 |
描けませんか。 |
湯村 |
描けない。 |
糸井 |
この波だって、なんていうか、
こんなにおおらかに描く人は
そんなにいないと思いますよ。 |
湯村 |
なかなかねぇ。
そう言われると。 |
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糸井 |
高さはあるし、広さはあるし。 |
湯村 |
うん。ごまかしがない。 |
糸井 |
あー、こっちの砂浜もいい。 |
湯村 |
ざぁーっていう音が聞こえそうだよね。 |
糸井 |
うーん、いいなぁ‥‥。
このサボテンも丁寧に描いてる。 |
湯村 |
あ、このバックの赤は、
たぶん、色指定だね。
なんでここだけ指定したんだろうなぁ‥‥。 |
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糸井 |
わかんないですね(笑)。 |
湯村 |
うーん、なんでだろう。 |
糸井 |
このころって、とにかく、
技法をちょっとでも変えてみたい、
みたいな雰囲気がありましたよ。
だから、そういう手法も
混ぜてみたんじゃないかなぁ。 |
湯村 |
ああ、そうネ。 |
糸井 |
やっぱり、ちょっとずつ
「裏切りたい」って気持ちがあるんですよ。
このころのぼくと湯村さんの
すごく近い関係の仕事においてさえ、
いつも「裏切りたい」って思ってませんでした? |
湯村 |
ああ、それは、思ってた。
それがないと進めないから。
なんか裏切らないと進めないっていうね。 |
糸井 |
うん。
それはもう、ことばにして
しょっちゅう言ってましたよね。
前に進むために。 |
湯村 |
あとね、オレの励みになってたのはね、
糸井から原稿が来るじゃない?
あのころはたしか、糸井は、
オレンジ色の封筒をつかってたんだけど、
その封筒にね、かならず手書きで、
なんか書いてあるんだよ。
「てるぼうへ」とかなんとか、
ちょっとしたメッセージが。
憶えてる? |
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糸井 |
書いたと思う。 |
湯村 |
アレ、取っときゃよかったなと思ってねぇ。 |
糸井 |
書いたんだろうなぁ。 |
湯村 |
それはなんかね、愛の瞬間みたいな感じ。 |
糸井 |
いや、そうですよね(笑)。 |
湯村 |
それもらうと急にやる気になってきてさ、
やるぞーみたいな感じで。 |
糸井 |
いや、ぼくらはホモじゃないけど、
愛の瞬間ですよ。 |
湯村 |
ネ。 |
糸井 |
やっぱりそうですよ、それは。 |
湯村 |
ちょっと絵が入ってたりとかしてさ。 |
糸井 |
仕事も、そういうやり取りも、
うれしくてしょうがないんですよね。 |
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湯村 |
うれしいんだよ。
で、もらうと、オレもうれしい。
ちょっと硬い紙の封筒でね。
しばらくそれは溜めてあった。
で、自信がなくなるとそれ見たりして。
それは、なんかね、いいものだったね。
弱ってるときに、励ましてくれたりとかね。
手書きの文字でさ、こう、スッと入ってる。 |
糸井 |
黙って渡せないんでしょうね。
なんか、思いがあるんですよ、きっとね。 |
湯村 |
それはね、だから、オレも、
人にはそういうふうにするようにしてる。
いまも、ひと言、入れたりして。
それ、面倒くさいことじゃないと思うんで。
そういうのがあるかないかで、
気持ちが、ずいぶん違うよね。 |
糸井 |
違いますね。
湯村さんがテリー・ジョンスンマークを
原稿に添えてくれるのも、うれしかったですよ。
タバコくわえてるリーゼントのおにいさん
みたいな絵があって、「テリー」って書いてる。 |
湯村 |
ああ、そうそう。 |
糸井 |
あれは、いまあってもいいですね。
描いたらどうですか、いま。 |
湯村 |
そうねェ、うーん‥‥
いまだとリーゼントじゃなくて、
ちんぽこの先みたいな頭になっちゃうなァ。 |
糸井 |
(笑) |
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2011-04-06-WED |