![023 半年間、父の一世一代のがんばりを思う。](images/t_023.png)
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突然心肺停止になりました。
すぐさま救命処置をとり、一命はとりとめましたが、
それからは一切、意思の疎通ができなくなりました。
いくら呼びかけても触れても父は反応せず、
たまにぱちぱちと瞬きするだけ。
話すことも動くこともできませんでした。
私たち家族は絶望しましたが、
「脳波は大丈夫です。脳死ではありません」
という主治医の言葉を信じて、
毎日「今日は○月○日○曜日だよ」などと、
大きな声で父に話しかけていました。
その後、3度の心肺停止を乗りこえ、
蘇生を繰り返した父でしたが、
最初の心肺停止から半年後、天国へ旅立ちました。
しばらくして父の銀行口座の解約に行きました。
残高は半年の入院中に振り込まれた年金だけ。
(たったこれだけ?少ないなあ)と苦笑し、
全額引き出すことを告げると、
行員の方が申し訳なさそうに言いました。
「実はお父さまに融資をしていて、
未返済が少しだけあります」と。
その金額を聞いて私は驚きました。
父の口座残高とその未返済額が、
ほぼ同じだったからです。
あぁ、私たちの呼びかけは、
ちゃんと父に聞こえていたんだ。
私たちに借金という遺産を
残さないようにちゃんと計算して、
半年間、なんとか生きてくれたんだな。
「必死」「根性」「責任」などという言葉が
まったく似合わなかった父。
そんな父の一世一代のがんばりを思うと、
いまでも心があったかくなります。
(り)