さよならは、こんなふうに。 さよならは、こんなふうに。
昨年連載した
訪問診療医の小堀鷗一郎さんと糸井重里の対談に、
大きな反響がありました。
あの対談がきっかけとなって、
ふたりはさらに対話を重ね、
その内容が一冊の本になることも決まりました。



小堀鷗一郎先生は、
死に正解はないとおっしゃいます。
糸井重里は、
死を考えることは生を考えることと言います。



みずからの死、身近な人の死にたいして、
みなさんはどう思っていますか。
のぞみは、ありますか。
知りたいです。
みなさんのこれまでの経験や考えていることを募って
ご紹介していくコンテンツを開きます。
どうぞお寄せください。
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illustration:綱田康平
023 半年間、父の一世一代のがんばりを思う。
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入院中の父が、体腔内の膿みを抜く処置作業中に
突然心肺停止になりました。
すぐさま救命処置をとり、一命はとりとめましたが、
それからは一切、意思の疎通ができなくなりました。
いくら呼びかけても触れても父は反応せず、
たまにぱちぱちと瞬きするだけ。
話すことも動くこともできませんでした。



私たち家族は絶望しましたが、
「脳波は大丈夫です。脳死ではありません」
という主治医の言葉を信じて、
毎日「今日は○月○日○曜日だよ」などと、
大きな声で父に話しかけていました。



その後、3度の心肺停止を乗りこえ、
蘇生を繰り返した父でしたが、
最初の心肺停止から半年後、天国へ旅立ちました。



しばらくして父の銀行口座の解約に行きました。
残高は半年の入院中に振り込まれた年金だけ。
(たったこれだけ?少ないなあ)と苦笑し、
全額引き出すことを告げると、
行員の方が申し訳なさそうに言いました。
「実はお父さまに融資をしていて、
未返済が少しだけあります」と。
その金額を聞いて私は驚きました。
父の口座残高とその未返済額が、
ほぼ同じだったからです。



あぁ、私たちの呼びかけは、
ちゃんと父に聞こえていたんだ。
私たちに借金という遺産を
残さないようにちゃんと計算して、
半年間、なんとか生きてくれたんだな。



「必死」「根性」「責任」などという言葉が
まったく似合わなかった父。
そんな父の一世一代のがんばりを思うと、
いまでも心があったかくなります。




(り)
2020-12-15-TUE
小堀鷗一郎さんと糸井重里の対話が本になります。


「死とちゃんと手をつなげたら、
今を生きることにつながる。」
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『いつか来る死』
小堀鷗一郎 糸井重里 著

幡野広志 写真

名久井直子 ブックデザイン

崎谷実穂 構成

マガジンハウス 発行

2020年11月12日発売