糸井 |
今日は、気仙沼のコーヒー屋さんと
陸前高田のお醤油屋さんも、来てまして。
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小田 |
よくおいでくださいました、本当に。
小野寺さんに聞きたかったんだけど、
コーヒー屋は日本中にたくさんありますが、
気仙沼でコーヒー事業をはじめたのは
どうしてですか。
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小野寺 |
僕、大学がアメリカだったんです。
そのとき
アメリカのコーヒー文化に、触れました。
きっかけは、いろいろあるんですが‥‥。
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小田 |
お父さまの時代は?
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小野寺 |
船舶機械や水産物を
輸出したり輸入したりする仕事を
やっていました。
祖父が鉄工所で
船や漁労機械の修理をしておりまして
親父も
ずっとそこで働いてたんですけど、
50になるとき
「俺はもう、イヤだ」と言い出して。
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小田 |
それで、輸出入の仕事を。
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小野寺 |
ええ、で、僕は気仙沼に帰って来てからも
「コーヒーを飲みたいときに
飲みたい」という気持ちがあったんです。
家でもなく、会社でもないサードプレイス、
自分自身になれる第三の場所が
気仙沼にないんなら
僕がつくらなきゃなあと、そう思いまして。
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小田 |
なるほど。
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小野寺 |
アンカーコーヒーで扱っているコーヒーは、
もちろん世界最高水準です。
でも、僕らはコーヒーを売ってるんじゃなくて
「コーヒーショップ」という
「ライフスタイルを販売している」という
考えかたでやっています。
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小田 |
今は、ますます
そういう場が必要なのかもしれないですね。
みんなが元気を取り戻す場所、というかな。
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小野寺 |
そうなれたら、いいです。
こいつがやれるんだから
俺だってやれるんじゃないかと
思ってくれる人が
出てきてくれたらいいなあと、思ってます。
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小田 |
今、何店舗ですか。
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小野寺 |
6店舗です。
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小田 |
もう6店舗?
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小野寺 |
震災前は5店舗だったんですけど、
そのうち、
気仙沼市内の2店舗とも、やられました。
焙煎所もなくなってしまいまして
まだ復旧していません。
でもその後、仮設店舗というかたちで
気仙沼に1店舗、
仙台にフランチャイズを、2店舗‥‥。
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小田 |
お顔を見てると
なんか、僕のほうが圧倒されちゃうな。
九代目のほうは?
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河野 |
やはり、気仙沼あっての八木澤商店でした。
つまり、
水産加工品に使う原料としての味噌醤油を
かなりの量、
ご注文いただいていたんですが
お客さまも被災されて、
7割が、津波で壊滅してまったんです。
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小田 |
じゃあ、商売の構造を変えざるを得ない?
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河野 |
そうですね、まさに。
今までは、地元の原料を地元で加工して
地元の人たちに消費してもらう‥‥
というのが
基本的なやりかただったんですが、
お客さんから農地から、
何もかも、なくなってしまいましたから。
それで
「OEMでつくっていただいた商品を
外に売る」
という、これまでと真逆のことを‥‥。
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小田 |
OEMでつくったものというのは、
ある程度、それらしき商品になりますか。
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河野 |
やはり、難しいですね。
はじめのうちは「気の毒だから」と
買ってくれるんですが、
だんだん「おたくの味じゃない」という話に
なってくるんです。
実は、OEMでつくった商品を何万本も、
売るのを諦めたこともあって。
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糸井 |
え、ほんとに?
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河野 |
はい、味がちがうから。
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糸井 |
商品は、何だったんですか?
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河野 |
つゆです。
本格的な工場の建設が
ようやく、はじまったんですけれど
やはり
自分たちでつくらないとダメでした。
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小田 |
そうですか‥‥。
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河野 |
お客さまに
「おたくの味じゃない」と言われてしまうのは
信用問題ですから、売るのをやめました。
在庫は、八木澤商店の商品としてではなく
メッセージをつけて
支援物資として、お配りすることにして。
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糸井 |
僕なんかは震災後に八木澤商店を知ったので
はじめて使ったのは
味噌や醤油じゃなくて「ポン酢」なんですが‥‥
ここのポン酢は、高くておいしいんです。
で、すぐになくなるんです(笑)。
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小田 |
でも、そういう商品が
いちばん「誤魔化しようがない」でしょう。
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河野 |
はい、うちのポン酢は
賞味期限が「3ヵ月」なんですね。
あの商品を、あの価格帯で
売り切る自信を持っているスーパーさんは
なかなか、ないと思います。
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小田 |
ポン酢って‥‥原材料は何ですか?
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河野 |
基本的には
ゆず果汁と、お醤油と、みりんと、出汁と。
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小田 |
出汁がポイントなのか、そうすると。
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河野 |
はい。
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糸井 |
少し薄口に感じるくらいが、おいしくて。
すぐなくなっちゃうんです、ひと瓶が。
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小田 |
で、高いと。
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糸井 |
そうです。ものつくりの憧れですよね。
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河野 |
だから、やはりこれからも、
付加価値の高い商品をつくっていきたくて。
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糸井 |
うん、うん。
あのポン酢、使っている僕たちが
「あ、もうなくなっちゃった。
おいしいんだね」って喜んでるんです。
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小田 |
なくなったのに?
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糸井 |
そう。
「なくなったのに、うれしい」というのは
付加価値として、ものすごく高いですよね。 |
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<つづきます> |