斉吉さんと、八木澤さんと アンカーコーヒーさんと、糸井重里で 六花亭を訪問しました。
 
第5回 行ってから、見てからなんだね。
小田 今日、お聞きしたいことがあったんです。
和枝 はい。
小田 それは「僕らに何ができるのか」ということ。

僕たちは、震災に対して
六花亭の社員と会社とでお金を集めて、
1年に2000万円、
少なくとも5年間は出そうと言ってるんです。

で、そのお金は
「導火線」みたいに使ってもらえたら
いいなと思ってるんです。
糸井 導火線。
小田 僕、糸井さんがやってることって
「導火線」だと思うんですよ。
糸井 ああ‥‥そうかもしれません。
小田 だから、僕らも
そういうふうに役に立ないかなと‥‥。
糸井 いちど、現地に行かれてみては?
小田 行って‥‥僕に、わかるだろうか。
糸井 やっぱり「空気」だと思うんです。

僕も、実際に被災地へ行くまでは
何もわかりませんでしたから。
小田 そうですか。
糸井 でも、少しづつ、少しづつ、
こういう人たちと知り合っていって‥‥
行く前と行ってからでは
僕の考えも、ずいぶん変わりました。
小田 そうなんですか。
糸井 何て言うんでしょう、
「あ、嬉しいってこういうことなんだな」
とわかったのは、行ってからです。
小田 あれだけ対象の地域が広いですけど
「風が吹いている」というか、
自分たちがいてもいいような場所というのは
見つかるもんですか。
糸井 今、僕がお会いしてる人たちは
本人を目の前にして言うのも何ですけど、
もともと
自分の会社や地域社会のリーダーだったし
どちらかというと
裕福だった人たちなんだと思うんです。
小田 ええ。
糸井 そういう人たちのほうが、
人のために働くことにも慣れてますし
立ち上がるのも早いですよね。

そのための経験も、勇気も、知識も
持っているわけですから。

つまり僕は、そういう人と会ってることが
多いんです。
小田 ええ。
糸井 それは公平じゃないじゃないかって
言われるかもしれないけど
僕は「まず個人」ですから
「前に進んでいる人に会いたい」んです。

だからまずは、そうしてるんです。
小田 ‥‥今の話、整理がつくなあ。
糸井 任天堂の社長の岩田さんとは友だちなんですが
彼とよく話すのは
何らかの問題があったときに
だいたい「賛成20%、反対20%」なんです。

あとは「有利なほうに付いていく人」。
小田 ええ、ええ。
糸井 とすれば、気仙沼のいちばん元気な20%の人と
徹底的に、親戚みたいに付き合えば
何らかの動きが出てくると思ったんですよ。
小田 なるほどね‥‥。
糸井 ですから
「今、気仙沼って、おもしろそうだぞ」と
全国の人が
思ってくれるようなことを考えたいんです。

これまで、立川志の輔さんの寄席なんかを
企画しましたけど、
それも「あの場所に立つ」ことから始まったし、
この人たちがいなければ
そもそも、僕はやってなかったと思います。
小田 震災なくても、斉吉さんには会いたいもんね。
糸井 そうそう、会いたいんですよ。

慎重に言わなきゃならないことですけど
「震災が起きて
 悪いことばっかりじゃなかった」って
被災した本人たちが
言えるようなことだってあるんですよね。

そういう人たちと何が一緒にできるか、
そのタネを探してはジタバタやって‥‥
何だろう、
「人がゼロから立ち上がっていく物語」を
集めているような感じです。
小田 うん、よくわかりました。
糸井 やはり、あの場所や、この人たちを知らないと、
申し訳ないから口に出せないとか、
過剰に同情したり、
なんだろう‥‥ヘンな自制が働いちゃうんです。

でも、被災の現地に行って知り合って
馬鹿笑いをしているうちに
ぴょーんと飛ぶようなアイディアが‥‥。
小田 そうなんでしょうね、
こんな人たちと、お会いしていたら。
糸井 おもしろいでしょ。

この間、アラン島っていう
「イギリスの離れ小島」みたいなところに
和枝さんと行ったんですよ。
小田 ええ。
糸井 そこ、岩しかないような島なんですけど
この人、着くなり
「お気の毒に‥‥」って言うんです。

「あなた被災者でしたよね」と。
一同 (笑)
和枝 でも(笑)、本当にそう思ったんです。

だって土がない、木がない、岩だけなんです。
雨が降っても
サラサラサラと海に流れていくだけで‥‥。
小田 ええ。
和枝 私たちの気仙沼は、
今は瓦礫だらけですし、地盤も下がってます。

全国のみなさんが
「気の毒だ」と思ってくださるんですけど、
あらためて考えてみると、
私たちの目の前には
世界三大漁場の豊かな海が広がっています。

震災の前からそうだったし、
今もそうなのに、
瓦礫ばっかり見ていてはダメだなって。
小田 すごいね、和枝さんは。
和枝 いえいえ。

だから、岩ばかりのアラン島が気の毒に‥‥
と言うと
アラン島の人にすっごく悪いんですけど、
私たちの海は、
もうすでに、いっぱい海草は採れますし、
カキはモシャモシャなってますし、
のぞいたらアワビもウニもいるんですよ。

そんな海が広がっているのに
文句なんか言ってる場合でねぇべっちゃ、と。
小田 うん、うん。すごい。
和枝 そのアラン島でも
人が代々、営々と暮らしているということが
すごく身にしみてわかりました。

だから私たちも、気仙沼で新しいことを
少しずつ積み上げていくのが
当然だよなと、
特別なことではないように感じたんです。
小田 本当にいい人たちを連れて来てくださって。

糸井さんが、この人たち連れてきた意味が
やっとわかったなぁ。
糸井 ただ、単純に「行きたい!」って言うから
一緒に来ただけなんですけど‥‥(笑)。
一同 (笑)
小田 本当に、よくお越しいただきました。

やっぱり斉吉さん、
ぼくもいちど、気仙沼のほうに寄せてください。
和枝 ええ!
純夫 ほんとですか?
小田 僕ね、きっと迷惑だろうなと
思ってたんですけど、
ああやって
糸井さんが言うんだからいいんだろうって
思い直しました。

斉吉さんのところに、寄せてもらいたいです。
純夫 ええ、ぜひ! ありがとうございます。
小田 あんがい僕ね、
理屈っぽいんだけど、素直なんです(笑)。

なんか、ぶら下げて行きますよ。
糸井 いいなぁ(笑)。
小田 まず、被災地に行かないことには
糸井さんと、おしゃべりできないもんね。
糸井 いやいや、そんなことはないんですけど、
でも、行ってみると本当に変わるんです。

自分がそうでしたから。

行く前は、やっぱり表情が固いんだけど
行くたびに
「良かった」って、言ってくれるんです。
小田 やっぱり行ってから、見てからなんだね。
<つづきます>
2012-10-09-TUE
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