ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 郡山 ふじた農園 篇
第5回 マスクメロン方式のカボチャ。
糸井 藤田さんと高妻先生の関係みたいに
地元の人と科学の専門家とが
同じ方向を見て、いっしょに行動を起こして
そのまわりに
人の輪が広がっていくのを見たりすると、
本当に気持ちがいいんですよね。
藤田 今は、いろんな場所に呼んでいただいて、
福島の農業の実情について
お話させていただく機会も多いんですね。

そうすると、
「実際は、そうだったんだ」と驚く人も
たくさんいらっしゃるんです。
糸井 ええ。
藤田 ですから、インターネットや紙媒体を通じた
情報提供も広げていきたいんですけど、
直接的なコミュニケーションも
やっぱり、大事なんだなあって思っています。

一発逆転なんて、絶対に起こらないですから
今後も、地道に行動し続けていこうと。
糸井 ゆっくりした速度で、倒れてしまわないですか?
たとえば‥‥「経済的に」とか。
藤田 経営者としての視点を、常に持っていますので。
糸井 そこは、やっぱり。
藤田 私のところに関して言えば、
意外と、売上は落ちていないんですよ。
糸井 え‥‥ほんとですか?
藤田 うちは「米」がメインなんですけれど、
農協に出した分、
お客さまに直接お売りしている分、
ともに「放射線不検出」という検査結果に
納得して、買っていただけましたから。
佐藤 ただ、それもやはり作物の種類によりますよね。
果樹農家さんなどは、本当に大変でしたし。
糸井 去年の桃、すごくおいしかったんですけど。
佐藤 そう、去年はおいしかったです‥‥本当に。
糸井 もう「こんなに?」っていうくらい、ねぇ。
佐藤 贈答品としての需要も高かったんですけど
放射能も問題なく、
味だっておいしいというのは知っていても
その部分が‥‥やはり。
藤田 ただ、福島県は広いですし、
いろんな業種のかたがいらっしゃいますんで
画一的な方法はないと思いますが、
たとえば
「いままで、高価すぎて手の出なかった桃が
 手頃な値段で買えるようになって、
 客層の幅が広がった」
と、ポジティブに考える果樹農家さんだって
いらっしゃるんです。
糸井 ああ、そうなんですか。
藤田 チャンスとまで言えるかはわかりませんけど
前向きにとらえられる要素はある。

福島を応援してくれる人も、たくさんいます。

だから、私たちにできることは、
やっぱり、
一生懸命いいものを作っていくことなんです。
糸井 うん、うん。
藤田 私たちが、
原発事故の影響を受けてしまっていることは
紛れもない事実です。

でも、その事実を「どう切り取るか」で
見方だとか、打つ「手立て」は
ぜんぜん、変わってくるんだと思います。

どうしても
暗いほう、暗いほうへと考えてしまいますが、
そうした側面を見るだけでは、ダメです。
糸井 福島県の中の人も、外の人も、
どちらの人も
じょうずに「気晴らし」をすることできたら
すっごくいいなと思いますね。

気持ちが元気になりますから。
藤田 ええ。
糸井 ずっと「考え中」のまんまだと
眉間にシワが寄ったままに、なりますもんね。
藤田 それじゃ、ダメです。
糸井 そう思います。
藤田 私には、子どもがふたり、いるんです。
糸井 そうですか。
藤田 この家で、いっしょに暮らしています。

原発事故の直後は
いったん東京の妻の実家に避難していましたが
すぐ、郡山へ戻ってきました。

でも、やはり子どもへの懸念はありました。
糸井 そうでしょう、それは。
藤田 食べ物のこと、飲み水のこと、
外で遊ばせていいかどうか、ということ。

でも、だいぶ放射線量が下がってきたとき、
運動や食事を制限することによる
ストレスのほうが、心配になったんです。
糸井 そっちの問題だって大きいですものね。
藤田 もちろん、放射線リスクのほうを
重視する人がいらっしゃるのも、わかります。

でも、私たち家族は
この郡山で暮らすことに決めました。
糸井 そこについて「眉間にシワを寄せる」のは
やめにした‥‥と。
藤田 うちの子どもが、外で遊んでいたときに
近所の小学生が来て
「葉っぱは
 危ないからさわっちゃだめだよ」って
忠告してくれたことがあって。
糸井 放射性物質がついているから、と?
藤田 そのときは、そんなに小さいうちから
放射能のことを
口にしなければならないなんて
本当に、つらいことだなと思いました。

でも、この子たちが、小さいうちから
放射線の知識を蓄えている、ということを
積極的な方向につなげていくことが
私たちの仕事なんだな、と思い直しました。
糸井 なるほど。
藤田 屋外で遊べないんだとしたら
室内競技のメッカにしちゃえばいいんです。

サッカーが難しいと言うなら
フットサルの設備を思いっきり充実させて
日本一の地域に育てればいい。

そう考えたほうが、ぜったい楽しいんです。
糸井 あの‥‥藤田さんも属している
さっきの「あおむしくらぶ」というのは
どんなグループなんですか?

どうも、藤田さんの考えの芯の部分に
そのグループのことが、あるような気がして。
藤田 農業者の任意団体みたいな組織ですね。

郡山には
土地を象徴するような野菜がないので、
「自分たちで
 郡山の特産品を作り上げよう」
という目的で発足しました。
糸井 さっき、僕が「予約」した
「あまーいトウモロコシ」をつくったり?
藤田 ええ、その他にも、生で、つまり
サラダや刺身にして食べられるナスとか、
漬物にして食べられるネギとか。
糸井 ああ‥‥おもしろそう。
藤田 本当に、おもしろいことをやっていますよ。

自分たちが食べても美味しくて、
お客さまに
よろこんでもらえるものを作ってますから。
糸井 ちなみに今は、何か考えてるんですか?
藤田 今、私たちは「カボチャ」を
ブランド野菜として、取り上げていこうと。
糸井 それ、何か特徴があるんですか?
藤田 ふつう、カボチャというと
1株につき、2つや3つは獲れるんですが、
これは「1株に1つだけ」なんです。
糸井 ‥‥つまり、マスクメロン方式?
藤田 はい。
糸井 うわー‥‥。
藤田 特徴はもう、「とにかくうまい!」これだけ。
糸井 すごい。
藤田 7月中旬くらいには、収穫になると思います。
糸井 おれ‥‥そっちも予約していいですか。

さっきの
「糖度19.5のトウモロコシ」に追加で。
藤田 ありがとうございます(笑)。
糸井 いや、そのカボチャには憧れるわ‥‥。
藤田 僕らも、楽しみにしてるんです。
糸井 でも、そういう発想をできる人たちだから、
原発事故があっても
前向きな行動を取れたんでしょうね。
藤田 そうかもしれないです。
糸井 で、「そのカボチャ食べたい!」みたいな、
具体的なことなんでしょうね。

この状況を突破していくのは。
佐藤 はい。
藤田 できましたら、お送りしますので。
糸井 はい。楽しみに、待っていますね。

<おわります>
2012-07-17-TUE
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