糸井 |
僕は今、藤田さんの「とても前向きな姿」を
見ているんですけれど、
そうでない時期も
当然ながら、あったわけですよね。
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藤田 |
ええ。
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糸井 |
今、いちばん怖いのは「対立」や「すれ違い」だと
おっしゃっていましたが、
誠実な態度で「本当の話」をしたとしても、
わかってもらえないことだって、あったでしょう。
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佐藤 |
そういう意味では、
「風評被害」というものの難しさを、
痛感していますね。
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糸井 |
やはり、そうですか。
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佐藤 |
メディアでは、どうしても
「どこそこの何々から、何百ベクレル出た」
みたいに、
センセーショナルに報道されてしまいます。
それって、事実の「ごく1部」です。
でも、そういうセンセーショナルな報道で
われわれが
毎日、たしかな情報を積み重ねていっても、
検査結果を、ありのままに発信していても、
一気に「ゼロ以下」に戻ってしまう。
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糸井 |
‥‥ええ。
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佐藤 |
ひとつ、毎日、放射線の検査結果を更新するサイトを
関わってわかったのは、
基準値の複雑さも
不安を煽る要因になっているんだな、ということ。
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糸井 |
‥‥というと?
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佐藤 |
たとえば、ついこのあいだまで
「1キロあたり、500ベクレル」が暫定規制値でしたが
この4月からの新基準値では
「1キロあたり、100ベクレル」になりましたね。
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糸井 |
はい。
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藤田 |
そのことに不信感を持った人も多いと思います。
これまでは「500」で大丈夫だったのに
これからは「100」以下じゃないとダメだなんて、
前の基準は何だったんだ‥‥と。
いったん、そう疑ってしまったら
「100」という数値も、信用できませんから。
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糸井 |
たしかに。
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佐藤 |
食糧には、自然の放射性物質が
わずかながら含まれているんですけど
「ゼロじゃなきゃ絶対にダメ」と
思い込んでしまっている人も、少なくないです。
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糸井 |
つまり
「すべてゼロ」なんてありえないわけですが、
放射性物質が含まれないように
最善の配慮をしていても、
「ゼロでなければ」という考えかたにとっては
「安全が守られていない」ように見えてしまう。
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藤田 |
そこが、いちばん難しいところです。
私たちの農作物を
手に取っていただけない‥‥ということも、
当然、選択の自由です。
でも、ひとつ言えるのは
私たちは、自分の農作物の栽培過程を知っていて、
きちんと検査して
放射性物質が検出されていないことを知っていて、
私と、私の家族は
私が作った農作物を食べている、ということです。
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糸井 |
‥‥そうなんだよなぁ、ほんとに。
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佐藤 |
正直、インターネット上などでは
ひどい罵倒を受けることも、あるんです。
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藤田 |
私も、そういう発言に対して
過剰に反応していた時期が、ありました。
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糸井 |
そうですか。
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藤田 |
ツイッター上で、ものすごい怒りをぶつけたり‥‥。
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糸井 |
大変でしたでしょう。
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藤田 |
本当に心身が疲弊して、消耗するんです。
でも、そんなときに
公害の「水俣病」の問題にずっと関わってきた
吉本哲郎さんの講演を聞いたんです。
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糸井 |
ほう。
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藤田 |
当時、水俣市の海産物や農作物が
風評被害にあったことなど、
状況は、福島とかなり似ているなと思いました。
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糸井 |
そうなんですか、水俣と。
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藤田 |
吉本さんによると、水俣市の経験からして
その地で農業を続けていくには
「みっつのこと」が、必要だというんです。
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糸井 |
ほう。
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藤田 |
ひとつ目が「諦める」ということ。
ふたつ目が「覚悟する」ということ。
このふたつは、つまり
「自分たちの思いもよらないことが
起こるだろうから
事実を受け入れる心構えを持とう」
ということだと、思うんですね。
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糸井 |
なるほど。
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藤田 |
そして、みっつ目におっしゃったのが、
「本物をつくる」ということでした。
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糸井 |
藤田さんたちと、いっしょだ。
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藤田 |
そうなんです。
私たちは、自信を持って
全国のみなさんに選んでいただけるような
農作物を作っていきます。
そして、そういう生きかたを、貫いていく。
静かに、そうすることができるようになったら
私は、どんなことがあっても
他の人に怒りをぶつけずに済むと思いました。
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糸井 |
うん、うん。
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藤田 |
私は、誰かと対立なんて、したくないです。
そのためにも、
吉本さんのみっつの考えを心に留めて、
風評や誹謗中傷にあっても感情的にならずに
ただ、事実をお伝えしていこうと決めました。
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糸井 |
‥‥はい。
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藤田 |
以前、糸井さんがおっしゃっていたことで
自分が参考にする意見としては
「よりスキャンダラスでないほう」
「より脅かしてないほう」
「より正義を語らないほう」
「より失礼でないほう」
「よりユーモアのあるほう」を選ぶ、って。
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糸井 |
たしか、去年の4月くらいだったかな。
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藤田 |
あれ、すごく腑に落ちたんです。
個人的には
「いっしょにお酒を飲んで楽しそうな人」
というのを
加えたいところなんですけど(笑)。
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糸井 |
「よりユーモアのあるほう」もそうですが
そういう部分がないと
なんか退屈しちゃうんですよね、単純に。
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藤田 |
わかります。
私たちが、農作物の放射線量の情報を提供するのは
なんら間違ってないですけど、
それだけだと、やっぱり「おもしろくないん」です。
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糸井 |
おもしろいことをやろうすると
よく「不真面目だ」って、思われがちなんですけど、
こっちは「大真面目」なわけで。
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藤田 |
そうなんですよね。私たちだって、
年がら年中、悩んでいるわけじゃないですし。
昨年も、今年の春にも、
郡山の「町」を会場にした「巨大合コン」が
開催されてまして、
合計で1000人以上の男女が参加して
すごい盛り上がってるんです。
大変なときに‥‥という意見もあるでしょうが、
こんなときだからこそ、という気持ちで。
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糸井 |
そういう部分が、伝わっていくといいのになぁ。
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藤田 |
安全な農作物を作っていることは
自分自身が、いちばん知っているわけですから
その事実を、
いかに「おもしろく」提供していくか‥‥です。
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糸井 |
作っているものには、自信あるんですものね。
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藤田 |
はい、それは。
先日、野菜ソムリエ協会の専務理事と
話をしたときも
放射性物質の対策をしっかりやるのは「当然」で
「そもそも
おいしくなきゃ意味がない」という話になって。
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糸井 |
それは、本当にそう思います。
僕、永田農法で知られる
永田照喜治先生の後ろをついて回った時期が
あるんですが、そのときも
「いくら安全でも、
おいしくない野菜は、誰も食べない」と
おっしゃっていました。
そりゃそうですよね、ふつうに考えたら。
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藤田 |
‥‥私の先輩のトウモロコシ畑には
カブトムシが飛んでくるんです。
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糸井 |
つまり‥‥それだけ、あまい?
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藤田 |
そうなんです。
あるとき、ためしに糖度を測ってみたら
「19.5」もあったんです。
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糸井 |
えっ、「19.5」? それ‥‥すごいですね。
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藤田 |
ふつう、トウモロコシの糖度って
せいぜい「15」くらいなんです。
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糸井 |
いや、それ、ちょっと予約したいです。
「糖度19度以上もあるトウモロコシ」って
うーん‥‥聞いたことないわ。
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藤田 |
生で食べられるんですよ。
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糸井 |
ほとんど「果物」のレベルですよね。
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藤田 |
おっしゃるとおりで、
糖度でいったら、ブドウと同じくらいです。
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糸井 |
‥‥ものすごーく興味あるなぁ、それ。
<つづきます> |