ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 郡山 ふじた農園 篇
第4回 糖度「19.5」のトウモロコシ。
糸井 僕は今、藤田さんの「とても前向きな姿」を
見ているんですけれど、
そうでない時期も
当然ながら、あったわけですよね。
藤田 ええ。
糸井 今、いちばん怖いのは「対立」や「すれ違い」だと
おっしゃっていましたが、
誠実な態度で「本当の話」をしたとしても、
わかってもらえないことだって、あったでしょう。
佐藤 そういう意味では、
「風評被害」というものの難しさを、
痛感していますね。
糸井 やはり、そうですか。
佐藤 メディアでは、どうしても
「どこそこの何々から、何百ベクレル出た」
みたいに、
センセーショナルに報道されてしまいます。

それって、事実の「ごく1部」です。

でも、そういうセンセーショナルな報道で
われわれが
毎日、たしかな情報を積み重ねていっても、
検査結果を、ありのままに発信していても、
一気に「ゼロ以下」に戻ってしまう。
糸井 ‥‥ええ。
佐藤 ひとつ、毎日、放射線の検査結果を更新するサイトを
関わってわかったのは、
基準値の複雑さも
不安を煽る要因になっているんだな、ということ。
糸井 ‥‥というと?
佐藤 たとえば、ついこのあいだまで
「1キロあたり、500ベクレル」が暫定規制値でしたが
この4月からの新基準値では
「1キロあたり、100ベクレル」になりましたね。
糸井 はい。
藤田 そのことに不信感を持った人も多いと思います。

これまでは「500」で大丈夫だったのに
これからは「100」以下じゃないとダメだなんて、
前の基準は何だったんだ‥‥と。

いったん、そう疑ってしまったら
「100」という数値も、信用できませんから。
糸井 たしかに。
佐藤 食糧には、自然の放射性物質が
わずかながら含まれているんですけど
「ゼロじゃなきゃ絶対にダメ」と
思い込んでしまっている人も、少なくないです。
糸井 つまり
「すべてゼロ」なんてありえないわけですが、
放射性物質が含まれないように
最善の配慮をしていても、
「ゼロでなければ」という考えかたにとっては
「安全が守られていない」ように見えてしまう。
藤田 そこが、いちばん難しいところです。

私たちの農作物を
手に取っていただけない‥‥ということも、
当然、選択の自由です。

でも、ひとつ言えるのは
私たちは、自分の農作物の栽培過程を知っていて、
きちんと検査して
放射性物質が検出されていないことを知っていて、
私と、私の家族は
私が作った農作物を食べている、ということです。
糸井 ‥‥そうなんだよなぁ、ほんとに。
佐藤 正直、インターネット上などでは
ひどい罵倒を受けることも、あるんです。
藤田 私も、そういう発言に対して
過剰に反応していた時期が、ありました。
糸井 そうですか。
藤田 ツイッター上で、ものすごい怒りをぶつけたり‥‥。
糸井 大変でしたでしょう。
藤田 本当に心身が疲弊して、消耗するんです。

でも、そんなときに
公害の「水俣病」の問題にずっと関わってきた
吉本哲郎さんの講演を聞いたんです。
糸井 ほう。
藤田 当時、水俣市の海産物や農作物が
風評被害にあったことなど、
状況は、福島とかなり似ているなと思いました。
糸井 そうなんですか、水俣と。
藤田 吉本さんによると、水俣市の経験からして
その地で農業を続けていくには
「みっつのこと」が、必要だというんです。
糸井 ほう。
藤田 ひとつ目が「諦める」ということ。
ふたつ目が「覚悟する」ということ。

このふたつは、つまり
「自分たちの思いもよらないことが
 起こるだろうから
 事実を受け入れる心構えを持とう」
ということだと、思うんですね。
糸井 なるほど。
藤田 そして、みっつ目におっしゃったのが、
「本物をつくる」ということでした。
糸井 藤田さんたちと、いっしょだ。
藤田 そうなんです。

私たちは、自信を持って
全国のみなさんに選んでいただけるような
農作物を作っていきます。

そして、そういう生きかたを、貫いていく。

静かに、そうすることができるようになったら
私は、どんなことがあっても
他の人に怒りをぶつけずに済むと思いました。
糸井 うん、うん。
藤田 私は、誰かと対立なんて、したくないです。

そのためにも、
吉本さんのみっつの考えを心に留めて、
風評や誹謗中傷にあっても感情的にならずに
ただ、事実をお伝えしていこうと決めました。
糸井 ‥‥はい。
藤田 以前、糸井さんがおっしゃっていたことで
自分が参考にする意見としては
「よりスキャンダラスでないほう」
「より脅かしてないほう」
「より正義を語らないほう」
「より失礼でないほう」
「よりユーモアのあるほう」を選ぶ、って。
糸井 たしか、去年の4月くらいだったかな。
藤田 あれ、すごく腑に落ちたんです。

個人的には
「いっしょにお酒を飲んで楽しそうな人」
というのを
加えたいところなんですけど(笑)。
糸井 「よりユーモアのあるほう」もそうですが
そういう部分がないと
なんか退屈しちゃうんですよね、単純に。
藤田 わかります。

私たちが、農作物の放射線量の情報を提供するのは
なんら間違ってないですけど、
それだけだと、やっぱり「おもしろくないん」です。
糸井 おもしろいことをやろうすると
よく「不真面目だ」って、思われがちなんですけど、
こっちは「大真面目」なわけで。
藤田 そうなんですよね。私たちだって、
年がら年中、悩んでいるわけじゃないですし。

昨年も、今年の春にも、
郡山の「町」を会場にした「巨大合コン」が
開催されてまして、
合計で1000人以上の男女が参加して
すごい盛り上がってるんです。

大変なときに‥‥という意見もあるでしょうが、
こんなときだからこそ、という気持ちで。
糸井 そういう部分が、伝わっていくといいのになぁ。
藤田 安全な農作物を作っていることは
自分自身が、いちばん知っているわけですから
その事実を、
いかに「おもしろく」提供していくか‥‥です。
糸井 作っているものには、自信あるんですものね。
藤田 はい、それは。

先日、野菜ソムリエ協会の専務理事と
話をしたときも
放射性物質の対策をしっかりやるのは「当然」で
「そもそも
 おいしくなきゃ意味がない」という話になって。
糸井 それは、本当にそう思います。

僕、永田農法で知られる
永田照喜治先生の後ろをついて回った時期が
あるんですが、そのときも
「いくら安全でも、
 おいしくない野菜は、誰も食べない」と
おっしゃっていました。

そりゃそうですよね、ふつうに考えたら。
藤田 ‥‥私の先輩のトウモロコシ畑には
カブトムシが飛んでくるんです。
糸井 つまり‥‥それだけ、あまい?
藤田 そうなんです。

あるとき、ためしに糖度を測ってみたら
「19.5」もあったんです。
糸井 えっ、「19.5」? それ‥‥すごいですね。
藤田 ふつう、トウモロコシの糖度って
せいぜい「15」くらいなんです。
糸井 いや、それ、ちょっと予約したいです。

「糖度19度以上もあるトウモロコシ」って
うーん‥‥聞いたことないわ。
藤田 生で食べられるんですよ。
糸井 ほとんど「果物」のレベルですよね。
藤田 おっしゃるとおりで、
糖度でいったら、ブドウと同じくらいです。
糸井 ‥‥ものすごーく興味あるなぁ、それ。

<つづきます>
2012-07-16-MON
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