糸井 |
失うばかりでなく、得るものも、あった。
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藤田 |
まだ、おぼろげで
言葉にもできていないんですけど‥‥
あったと思います。
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糸井 |
ぼくら、たいした被害のなかった側から
言えることではないですし、
表現のしかたも難しいんですけれど、
被災した人の中には
「いいことも、あったんだよ」って
おっしゃるかたが、けっこういるんです。
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藤田 |
そうですか。
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糸井 |
強がりじゃなく「実際にあるんだ」って。
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藤田 |
私の場合、何か得るものがあったとすれば、
「いい仲間に恵まれていた」
ということが、大きかったと思います。
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糸井 |
それは、大きいですよね。
震災後、仲間と「集まる」ことで
人が、勇気をもらったり、前に進んでいるのを
いろんな場面で見たりしたので。
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藤田 |
そういう意味で、いま、いちばん怖いのは
「対立」や「すれ違い」だと思っています。
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糸井 |
僕もそう思います。
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藤田 |
たとえば、福島県の農作物については
こちらの思いが届かずに
悪くすると
消費者と「対立」しているかのような状況に
陥ってしまう可能性があります。
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糸井 |
ええ‥‥悲しいことですけど。
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藤田 |
私たち生産者としては
「応援する気があるなら、食べてほしい」
だなんて、絶対に言えません。
なぜなら、原発事故が起きようが起きまいが
どの農作物を手にとるか、
その選択をするのは、お客さまの側ですから。
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糸井 |
ええ。
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藤田 |
だから、私たちにできることは
ただ「よりよいものを作ること」なんです。
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糸井 |
‥‥そうなんでしょうね。
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藤田 |
これからも福島の農業で生きていくには
お客さまに
選んでいただけるものを作ることが、第一。
そのとき「放射性物質の検査」は
そのための「ひと手間」が増えただけだと
思ってやっています。
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糸井 |
つまり「ハンデ1」なんだ、と。
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藤田 |
はい。その「ハンデ1」を乗り越えるために
「私たちにできることは何か」
ということを、徹底的に考えました。
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糸井 |
ほう。
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藤田 |
やはり「私たちにできること」として
最低限必要なのは「放射性物質の検査」です。
さっきの「あおむしくらぶ」のページでは
品目別のQRコードから
放射性物質の検査結果を参照してもらうんですけど
それだけじゃつまんないので‥‥。
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糸井 |
「つまんない」という動機がいいですね。
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藤田 |
いや、放射性物質のことだけを考えていると、
ほんと、疲れてくるんですよ。
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糸井 |
「後ろ向き」ですものね。
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藤田 |
そこで、放射性物質の検査結果といっしょに
栄養価や糖度も調べて、紹介しているんです。
つまり、QRコードから飛んでいく「先」を
「PRの場所」にしちゃおうと。
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糸井 |
「前向き」ですねぇ!
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藤田 |
たしかに、他の生産地からしてみると
「ハンデ1」なんですけど、
放射性物質の検査は
「福島では、当然やるべきこと」として
もう、組み込んで考えています。
そこへ、何を「プラス」していけるか。
そっちを考えたほうが
私たちも、やっていて楽しいんです。
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糸井 |
この感じ‥‥いいです(笑)。
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藤田 |
そう考えるようになってからは
放射性物質の検査は
私の営農の中の「ひと手間」でしかないので
ハンデとも思わなくなりました。
そんなことより「プラスα」の部分で
いかに「自分たちの腕を見せるか」ですから。
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糸井 |
そう思えたのって、いつごろですか?
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藤田 |
昨年の10月くらいです。
震災直後の4月の段階でも
次の新しいブランド野菜はどうしようかと
話し合ってましたが、
同時に、放射性物質への対策を勉強したり
試行錯誤したりしていて
「なんか、すごい疲れるなあ」って。
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糸井 |
マイナスをゼロに戻す話ですものね。
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藤田 |
はい、そうなんです。
「ゼロにするだけ」だと疲れてくるんです。
なので「ついでだから、プラスにしようよ」
という発想が出てきたんだと思います。
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糸井 |
そう思えたのが「10月」ですか。
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藤田 |
ええ、米の収穫が終わったくらいです。
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糸井 |
なるほど‥‥。
ちなみに、このあたりのお米って
放射性物質の影響は、どうだったんですか?
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藤田 |
郡山市では、ほぼ「ND」(不検出)です。
個人的にも、茨城大学の高妻先生にお願いして、
「米ぬか」を、ゲルマニウム半導体検出器で
2時間以上、
しっかり調べていただいて、「ND」でした。
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糸井 |
おお、よかった。
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藤田 |
放射性物質というのは
白米より玄米、玄米より米ぬかのほうに
多く蓄積するんですね。
米ぬかで「ND」ですから
自分たちの米も、いけるんじゃないかと。
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糸井 |
その結果は、勇気をくれますね。
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藤田 |
本当に。
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糸井 |
仲間のみなさんも、大丈夫だったんですか?
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藤田 |
はい。郡山自体で、恐れていたほどには
影響がなかったとわかったので
「それだったら
もっと、楽しいことをやっていこうよ」
という雰囲気になっていったんです。
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糸井 |
学校の試験の発表じゃないですけど
「合格した」ことで、
みんなの顔が輝きはじめたんですね。
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藤田 |
ただ、同時に「覚悟」もしていたんです。
検査の結果が「ダメ」だったときには
すぐに気持ちを切り替えて
別の一手を打とうと思っていました。
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糸井 |
経営者ですね、そこは、やっぱり。
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藤田 |
そうですね。
みなさん、同じだったと思いますけれど。
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糸井 |
その、ダメだったときの「次の一手」を
おうかがいできます?
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藤田 |
ええ、たとえば‥‥。
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糸井 |
「ダメ」にも「2種類」、ありますよね?
数字的に基準値以下の「セーフのダメ」と、
基準値から出ちゃった「アウトのダメ」と。
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藤田 |
昨年の暫定基準では
「1キロあたり、500ベクレル」でしたが
予備的検査をやってみて
そこまで検出される可能性は
ほとんどないだろうと、わかっていました。
ですから、可能性があるとすれば
「セーフのダメ」だと、思っていたんです。
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糸井 |
その場合は‥‥。
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藤田 |
「メイド・イン・福島」は厳しいので
「メイド・バイ・福島」をやろう、と。
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糸井 |
メイド・バイ・福島。
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藤田 |
福島の農業者の米や野菜を、別の地域でつくる。
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糸井 |
なるほど。別の県に出ていく。
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藤田 |
はい。
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糸井 |
広い「福島県」を「もっと広く使う」、
というやりかたも考えられますよね。
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藤田 |
はい、そうですね。
でも、私たちとしては、新潟でも、栃木でも‥‥
「世界」でもいいなって思ってました。
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糸井 |
つまり「自分たちが動いていく」んだ。
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藤田 |
基点は福島に置きながらも
「メイド・バイ・福島」というかたちでやって、
お客さまからいただく代金のうちの
いくらかを
農地の除染に使うことができたら
福島の復活も
早まるんじゃないかと、考えていたんです。
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糸井 |
そこまでの決意で、結果を待っていた。
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藤田 |
はい。
<つづきます> |