東北の仕事論。気仙沼 藤田商店 篇
第5回 漁師の魅力を伝えたい。
──
市場の買受人と、水産加工の人と、
漁師さんがチームを組むと、
やれることが、
がぜん、増えてくるんでしょうね。
藤田
そうですね、それぞれのスキルも、
考え方も、現場も違うんで。



俺からすれば、市場側の考え方も、
水産加工で使いやすい素材も、
それまでは、わからなかったので。
──
それが、わかるようになって。
藤田
今は毎朝、市場の買受人から、
ワカメとかメカブとか魚の相場が、
LINEで送られてくるんです。



それも、ただの金額だけじゃなく、
何で今日は安いのか、
その値段がついた根拠だとか
市場まわりの情報も、
タイムリーに入ってくるんですよ。
山田
すごいですね。
藤田
市場で買い付けたものは、
すぐ水産加工所に持っていくんです。



そこで商品をつくって冷凍をかける、
そうすると
ワンフローズンの商品ができる。
山田
なるほど!
──
ワンフローズン?
藤田
いや、水産加工業者と組んだことで、
買い付けした魚を冷凍せず、
新鮮なうちに、加工できるんです。



ふつうの水産加工品は、
冷凍保存された原料を買ってきて、
解凍してから加工して、
できたらもう1回冷凍してるんです。
──
あ、つまり冷凍2回。
藤田
それだと、ドリップも出るし。
──
ドリップ。
藤田
臭みね。



つまり冷凍を1回で済ませられたら、
最終的な味、風味、品質、
それがぜんぜん変わってくるんです。
──
3人のチームワークで、
より、おいしい商品をつくることが。
藤田
できる。できています。



鮮度のいい素材を、
市場の目利きが安く買い付けてきて、
直接、水産加工所に持ってって、
加工のプロがおいしい商品をつくり、
最後は、ネットのサイトなど
独自の販売ルートで、
直接お客さんのところへ届けてます。
──
そういう会社を、立ち上げた。
藤田
商品のクオリティのことだけでなく、
中間コストを減らせるので、
利益が厚くなるし、
かわりに仕入値段にも転換できます。



ようするに、仕入値段を少し上げて、
生産者にも還元できるような、
そういう流れをつくりたいと思って。
山田
その取組みを「極上市場・三陸未来」
というブランドでやられています。
藤田
大きいのは、チームでやってるんで、
新しいことに
どんどんチャレンジできるんですよ。



自分ひとりだったら、
すごく勇気が要るようなところにも、
3人でなら、飛び込んでいける。
──
なるほど。
藤田
何でこんなにおいしいのか、
どうやってつくっているのかって、
ふつうは教えないもんです。
──
企業秘密ですもんね。
藤田
でも、俺らは一緒にやってるから、
すごく深いところまで、
オープンにしてやってるんです。



でもそれは、最終的には、
自分のところに返ってくるから。
──
震災前とくらべると、
だいぶ活動の幅が広がってますね。
藤田
人のご縁で勉強させていただいて、
そのおかげなんですけど。
──
藤田さんから
直接お客さんに届けてるってことは、
反対に、
お客さんの声も直接、届きますよね。
藤田
そのことは、ものすごく大きいです。
おいしかったよって声、最高です。
本当にうれしいし、励みになります。



ひとりひとりの漁師から集めたものを、
漁協でひとまとめにして販売すると、
誰が誰の何を食べてるかなんて、
だーれも、わからないじゃないですか。
──
そうですね。
藤田
そうなると生産者は、
高く売れた、安く買い叩かれたって、
一喜一憂するだけなんです。



でも、喜んでくださる人がいるって、
その姿が目に見えてくると、
生産現場はもっともっと活気づくし、
生産者のやりがいにつながるんで。
──
震災後に知り合った
気仙沼とか陸前高田、大船渡などの
事業者のみなさん、それに
郡山の農家さんもそうなんですが、
お会いするたびに、
自分たちで仕事をつくっていく姿が、
いいな~と思ってます。
藤田
だから、俺、「発信」って意味でも、
魚を採るだけじゃなく、
しゃべれる漁師も必要だと思います。



だって、せっかく
おいしいものをつくってるのに、
何にも説明しないで、
漁師ってのは口下手だとかどうとか、
そういうイメージが。
──
ありますね。何となく。
藤田
それじゃダメだと思います。
──
その点、藤田さんはね。
藤田
まあ、俺は。
──
お父さんの血もありますし(笑)。
山田
震災前から、
すでに「しゃべれる漁師」でした。
──
しゃべって踊れる。
藤田
踊れはしない(笑)。
──
昔からそうだったんですか。
藤田
いやいや、ずっと口下手で。
──
板前時代も?
藤田
ぜんぜん。
──
やっぱり「伝えたい」って思ったら、
そうなるんですかね、
ちょっと無理して、がんばってでも。
藤田
伝えなきゃなんないことがあるから。
──
自分と同年代くらいの人たちって、
その地域の中心になって
活躍しはじめると思うんですけど、
藤田さんも、たとえば、
子どもたちの前で話をすることも、
あるんでしょうか。
藤田
ありますよ。体験学習なんかでは。
──
そういうときは、
どんなお話をされているんですか。
藤田
いろいろだけど、そうですね、
ま、ひとつには継ぐ継がないの話。
──
後継者育成の問題。
藤田
つまりね、漁師の親って、
朝起きたら家にいないことが多くて、
朝めしのときにも、
お父さんは海に出てていないよ。
文化祭だ、授業参観だ、
運動会だから来てって言っても、
「ワカメでいそがしい」とか、
「ホタテの水揚げだ」とかって。
──
ええ。
藤田
やっと晩めしにいるなあと思ったら、
肩痛ぇ、腰痛ぇ、揉んでけろ。



休みにどこかさ行くべって言っても、
銭こねえ。
──
えっ?
藤田
お金がない、と。そんなんで
漁師って仕事に魅力が持てますかね。
──
たしかに。
藤田
そんなんで、誰が継ぐんですかって。



でも、俺が何で継いだかっていうと、
うちの親父、たとえば開口で
2時間でウン十万とってきたぞって、
俺の耳元でささやくんですよ。
──
うわー(笑)。
藤田
ワカメもメカブも何十万だ、とかね。



子どものころから、漁業というのは
大変そうだけど、
そのぶんもうかるものなんだなって、
そういう魅力を感じてたんです。
山田
それは、あこがれちゃいますね。
藤田
やっぱり、世の中の漁業って、
魅力をちゃんと伝えられてないです。



当然、やってる人とやってない人の
収入の差は激しいですよ。
誰も彼ももうかってるわけじゃない。
──
ええ。
藤田
でも、本気になってやってるやつは、
めちゃくちゃ稼いでます。



生きものを扱ってるっていうことで、
おもしろい部分もあるしね。
──
たとえば、どういうことですか。
藤田
苦労して付けた種が大きく成長して、
いいワカメになった、
それが高く買い取りになれば、
うれしいですし、
誇らしいですし、
収穫のときは、成人した子どもを
嫁に出すような気持ち。
──
そこまで気持ちが入ってるんですね。
いやあ、すごい。



その他、震災後に変わったことって、
何かありますか。
藤田
とにかく、はたらいてますよね。



昔は、夕方の5時から飲みはじめて、
10時に寝るって感じだったけど、
今は、晩メシ後から9時くらいまで、
パソコン仕事したりしてるから。
山田
じゃ、お酒の量も減った?
藤田
うーん‥‥減ったかなあ。
──
それは、いいほうに変わりましたね、
身体というか、健康的には。
山田
飲むんですよ。ザルのように‥‥。
藤田
いやいや、まあまあ。
山田
だって、民宿が出す酒瓶の数ぐらい、
個人宅から出るんです。
藤田
ただ、酒の量が減ったって言っても、
9時にパソコン仕事を終えたら、
そのあと、
10時ころまではガチで飲むんで。
──
ガチで!
藤田
やっぱり、明日への活力なんでね。
──
震災後は、外へ出てく機会も、
けっこう増えてる感じでしょうか。
藤田
そうですね。出ていかないとね。
──
毎日、内側にこもって、
昨日と同じことをやってるだけじゃ、
ダメですよね、自戒を込めて。
藤田
あの震災は、本当に大変だったけど、
いろんな人が、
気仙沼を訪れてくれるようになった。



だから、そこでうまれる出会いが、
これからの気仙沼を、
つくっていくんだろうなと思います。
<終わります>
2019-03-15-FRI