── |
ちなみに、国産の真イカしか使ってないと
おっしゃっていましたが
そのイカ、どこで獲れたイカなんですか?
|
朝田 |
宮古で水揚げされた真イカです。
日本で獲れる真イカのなかでも、
格別に美味しい部類に入ると思います。
|
|
── |
そうなんですか。
|
朝田 |
ちなみに、ワタの部分は
セントウイカという別物を使っています。
|
── |
あ、別のイカのワタを。
そういう意味でも「ブレンド」ですね。
|
大原 |
家庭などでは、ふつう
同じイカの肉と臓でつくりますけどね。
|
── |
一言でいうと、どういうイカなんですか、
セントウイカって。
|
大原 |
まぁ、真イカは真イカですけど。
|
── |
え。
|
朝田 |
「セントウイカ」というのは
「船で凍結」させている、という意味で
「船凍イカ」なんです。
|
── |
ああ、なるほど。
てっきり、ものすごく攻撃的なイカかと‥‥。
|
朝田 |
いえいえ、そうじゃないです(笑)。
穫れてすぐに船上で凍結させるので、
鮮度が抜群にいいんです。
|
大原 |
値段も、抜群にいいですけどね。
|
朝田 |
はい、たしかに高いんですけど、
ワタは鮮度が命なので、
うちでは、セントウイカだけを使っています。
|
大原 |
まあ、そのことひとつ取ってみても
わかるように
いろいろとこだわってやってきたんですけど
この塩辛、ゴールがないんです。
|
|
── |
いまだに試行錯誤の連続だと?
|
大原 |
やめようと思ったことだって何度もあります。
なかなか、うまくできなくて。
|
── |
何しろ「7年」ですものね‥‥。
|
大原 |
他の人だったら
もっと早く完成してたかもしれないです。
|
── |
そう思われますか。
|
大原 |
やはり、はじめは塩辛のつくりかたも
わからなかったので
たっぷりと、時間がかかりました。
だから今でも
手を抜くなんてことは、できないです。
|
── |
ちなみに、看板商品である
『昔ながらの濃厚熟成塩辛』のお値段って
いかほどなんでしょうか。
|
大原 |
高いですよ。
|
朝田 |
80gで、400円くらいします。
|
── |
一般的な塩辛というのは‥‥。
|
朝田 |
350gで、298円とか。
|
── |
つまり、ええと、
ざっくり計算しても、6倍近いお値段。
|
朝田 |
お店によっては、高すぎるといって
相手にしてもらえないこともありました。
|
|
── |
どのようなお店で売られていたんですか?
|
朝田 |
成城石井さん、紀ノ国屋さん、
明治屋さんをはじめ、
やはり高級な商品も置いてらっしゃるお店が
多かったです。
とくに、成城石井さんなどは
ずいぶん長く置かせていただいていたので
ファンのかたも多くて‥‥
生産を再開したら
ぜひまたと、おっしゃってくださって。
|
── |
それは、うれしいですね。
そういえば、なんですけど
さきほどお話に出た
大原さんがつけ続けてきたノートって
この震災で‥‥。
|
大原 |
無事でした。
|
── |
おお、よかった。
|
大原 |
毎日の乾燥率をはじめ
試行錯誤の結果を書きとめたりして
何年も、何冊も、つけ続けてきたのですが‥‥。
|
── |
何年も、何冊も。
|
大原 |
幸い、助かったんです。
|
朝田 |
ここにいる息子の浩司くんが探し出したんです。
|
|
大原 |
一人で探しに行ったら息子に怒られてね(笑)。
でも、腰まで水に浸かりながら、やっと。
|
── |
まだ、水が引いてなかった時期に。
|
大原 |
ええ。
ノートは濡れてましたけど、残されていました。
2階に置いてあったんで、それで助かりました。
|
|
── |
斉吉商店さんの「返しだれ」とか
陸前高田の八木澤商店さんの「もろみ」とか、
この震災で
奇跡的に助かった「大切なもの」の話を
いくつか聞きましたが
大原さんのノートも助かったんですね‥‥。
|
大原 |
一部は1階にも置いてあったんですが
それも、泥を掻きだして見つけました。
|
── |
ノートって、やはり「見返すもの」ですか。
|
大原 |
波座物産に入社して20年のことを
すべて、記録していたノートだったんです。
乾燥率だけじゃなく、
こういう商品はつくれないだろうか、
こうやったらはダメだった、
こうやってみたらよかったとか‥‥ぜんぶ。
だから、
何か新しい試みを始めるときに見返すと、
やりかたを、いろいろ検討できるんです。
過去の経験が、ぜんぶ書いてあるから。
|
|
── |
過去20年分のデータベース。
|
大原 |
失敗の積み重ねも、いつかは成功の元になる。
他の人がどうかはわかりませんけど、
私は、まるっきりのゼロから
新しいものなんて、つくれないですから。
|
── |
いやぁ、でも、本当に良かったですね、
津波に流されなくて‥‥。
|
大原 |
すごく嬉しかったですね。
|
── |
震災のことについては、どうですか。
|
大原 |
過去には、こんなに面倒で、こんなに高くて、
そんなに売れないだろうって
あきらめようと思ったことも、あったんです。
でも、震災後、「あの塩辛ねえのが?」って
たくさんの人から言われて‥‥
やっぱり、工場は壊れてしまったけど、
もう一回つくんなきゃなって、思いました。
|
── |
ちなみに、大原さんご自身は
塩辛はお好きだったんですか?
|
大原 |
大好きでした(笑)。
|
|
── |
好きだから、つくれたんでしょうね。
それだけ「めんどくさい」塩辛づくりを。
|
大原 |
そうかもしれないです。
|
── |
今じゃあもう、
ご自分の塩辛が、いちばんだと?
|
大原 |
そうなりますよね、やはり。
おいしいと言ってくれる人がいると、
作り甲斐もありますし。
|
── |
どうやって食べるのがお好きですか。
|
大原 |
あったかいご飯に載せて食べるのが
いちばんかなぁ。
|
── |
ああ、おいしそう。
|
朝田 |
お茶漬けにしても、最高ですよ。
|
|
── |
それも、いいですねぇ‥‥。
<つづきます> |