ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 気仙沼 波座物産 篇
セキュリテ被災地応援ファンドのこと 知らなかったんですけど、震災前の気仙沼って 「イカの塩辛」の生産高が 「全国の6割くらい」を占めていたそうです。 それだけでなく、家庭でも よくイカの塩辛をつくって食べるんだそう。 そんな気仙沼に、波座(なぐら)物産という なんとも「めんどくさい塩辛」を つくる企業があると聞き、取材してきました。 震災直後は、 気仙沼以外の工場で操業を再開することも 検討したといいます。 でも、やはり気仙沼にとどまったその理由は ひとりの職人さんの存在でした。 「めんどくさい塩辛」は その人がいないと、つくれなかったんです。 塩辛職人の、大原富夫さん。 専務の朝田慶太さんにもご同席いただき、 お話をうかがって来ました。 一部、白いごはんが恋しくなる箇所もございます。 その点、あらかじめご了承ください。
第1回 気仙沼の家庭の塩辛。
── ‥‥どうして、ここまで面倒なやりかたを?
大原 おみやげ屋さんをやっているお客さんから、
「気仙沼の家庭で食べているような
 昔ながらの塩辛は商品にならないのか?」
と聞かれたんです。
── 「気仙沼の家庭の塩辛」を
小売りの人からのリクエストで。
大原 そう、塩辛というのは
気仙沼では、家庭でもつくって食べている、
とても身近な食品なんです。

で、その紙の資料に書いてあるように
面倒な工程を経ることでしか
家庭の塩辛の味は、出せなかったんですよ。
── はー‥‥なるほど。

で、メーカーが大量生産している塩辛と
家庭でつくる塩辛とでは、
具体的には、どんな違いがあるんですか?
大原 やはり、いちばんは「添加物の量」です。

家庭の塩辛には、そんなもの入れませんが
大量生産品には入っています。

で、添加物を入れれば入れるほど、
「イカのワタ本来」の味が楽しめなくなる。
── イカのワタ、というのは‥‥。
大原 肝臓。これです。
── うわー‥‥なんだか、虹色に光ってる。
大原 これは、不要な臓や肉片を取ったあと、
薄皮を剥いだ状態。
── へぇ‥‥。
大原 イカの足の根本にくっついてるんですけど。
── あ、イカの肝臓というのは、そんな場所に。
大原 臓や肉片のついたまま、
まるごと使うところが多いと思うんですが
私たちは、
余計なものを入れたくないので
面倒ですけど、こういう状態にしてます。
── めんどくさくても、そうする理由は?
大原 やっぱり、味の問題ですね。
── こうしたほうが美味しいんですか。
大原 私どものイカの塩辛は、
ここのワタが、いちばん重要なんです。
── ここがおいしくないと、ダメ?
大原 ダメです。

ほかの塩辛は
調味料で味を付けているわけですけど、
私どもは
ワタ本来の味を楽しんでほしいので
調味料や添加物を使っていないんです。
朝田 だから、うちの塩辛は
この「ワタ」を
食べてもらってるようなものなんです。
── なるほど、それじゃ本当に大事ですね。
大原 漬け込む前には必ず、
このワタを、そのまま食べてみるんです。

その段階で苦みや渋みがあると、
製品に、そのまま出てきてしまうんです。
── 添加物で味を整えていないだけに。
大原 やはり、ワタをそのまま食べると臭いですし、
正直、好きでもありませんが、
イヤでも味わって、確かめておかないと。
── 逆に、これなら旨くなるな、というワタも?
大原 ありますね。旨味のあるワタが。
── ちなみに、波座さんの最高級品である
『昔ながらの濃厚熟成塩辛』という商品は
いわゆる、
一般の塩辛的なピンク色をしていませんが、
これは‥‥。
大原 あのピンクは、着色料なんです。

うちの『昔ながらの濃厚熟成塩辛』は
「イカのワタの色のまんま」ですので
すこし黒っぽいんですね。
── つまり、気仙沼の家庭でつくられている塩辛も、
こういう色をしているんですね。
朝田 ピンクに着色する理由は、
見た目の色を
均一にそろえるという意味もあります。

人工的に色をそろえてしまえば、
比較的、
ワタの品質にこだわらずに済みますから。
── 逆に言うと、着色しない場合には
品質的にも「ごまかしが効かない」と。
大原 一般的な塩辛製品のワタの量は
「8%から10%くらい」だと思いますが、
うちのは
20%以上入っているので、より黒い。
── ははあ。
朝田 そのぶん、品質管理に苦労するんですが、
うち独自の塩辛を
つくることができていたと思っています。
大原 震災の前までは。
── 大原さんが「新しい塩辛を」と
リクエストされたのは、いつごろですか?
大原 1993年ですね。

じつは、そのころ私、
塩辛のつくりかたを知らなかったんです。
── え。
大原 それまで、メカブをやっていたのですが、
塩辛のことは、何にも。
── そうだったんですか。
大原 まあ、でも、そういうリクエストを
いただいたので
何とか気仙沼の家庭の味を表現したいと思って
ほとんど手探りの状態から
新しい塩辛の開発をはじめたんです。
── へぇー‥‥。
大原 イカの乾燥率やワタの品質、熟成時間など
ひとつひとつ試行錯誤でしたが
時間がかかったぶんだけ
いいものができたと、いまは思っています。

ただ‥‥。
── はい。
大原 1997年に水産加工品評会に出してみたら、
水産庁長官賞という賞を
いただいてしまったんですよ。
── すごいじゃないですか。
大原 でも、それからが苦労の連続で。
── と、いいますと?
大原 すばらしい賞のおかげで
多くの人に知っていただけたのは
良かったのですが
品質の維持が、大変だったんです。
朝田 添加物をほとんど使っていない
手作りの品ですから、
味がブレやすかったんですね。

だから、以前に食べたものと
味が違うというご意見もいただきまして。
── なるほど。
大原 その後、原材料や製造工程を見なおして
商品としての品質を高め、
7年くらいかけてようやく完成したのが
『昔ながらの濃厚熟成塩辛』なんです。
── 波座さんの、看板商品。
大原 はい。
── 資料によると、これの生産量が‥‥。
大原 1日、せいぜい100キロ。
── 他の大量生産品ですと?
朝田 1日10トンとか、そういう世界。

<つづきます>
2012-09-19-WED
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待望の新工場、完成間近です!

大原さん、朝田専務をはじめ
波座物産のみなさんが待ち望む新工場は
この9月いっぱいで完成予定だそうです。
10月半ばの稼働開始を目指して
みなさん、
現在、おおいそがしで奮闘しておられます。

では、本文中で「めんどくさい塩辛」として
話題に上っている波座物産の看板商品
『昔ながらの濃厚熟成塩辛』は
いつごろ、食べられるんでしょうかね‥‥。

朝田専務に聞いてみました。

「はい、今年の12月中旬くらいには
 販売を再開できたらと考えております。
 機械設備がすべて新しくなること、
 30日から45日ほどの
 長い熟成期間が必要な商品であることなど
 やってみないとわからない問題が
 山ほどありますが、
 お正月に間に合うように、がんばります!」

楽しみにしてます!

「なお、新工場がぶじに稼働できたら
 量販店向けの塩辛2種と松前漬の3つの商品を
 まずは商品第一弾として発売します。
 もうパッケージも、完成しているんですよ」



あ、それじゃあ
そっちはひとあしお先に、いただきます。

波座物産のホームページは、こちらからどうぞ。

 
第1回 気仙沼の家庭の塩辛。 2012-09-19-WED
第2回 塩辛の「ブレンド」? 2012-09-20-THU
第3回 助かった「20年の記録」ノート。 2012-09-21-FRI
第4回 この味を引き継いでゆくために。 2012-09-24-MON
 
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