ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 セキュリテ被災地応援ファンド 1周年記念シンポジウム 篇
第5回 復興とは、みんなの復興の集まり。
猪尾 八木澤商店の河野さんは
ご存知のとおり
ものすごくエネルギッシュな方なんですが
「最近、ちょっとくたびれてきた」と。
河野 たぶん、私だけではなくて、
自分の家族や、自分の家を失った人たちは
ずーっと、
前だけを見て走り続けてきたんです。
息を止めて、
全力疾走してきたと思うんですね。
でも、震災から1年が経ち、
ここでガクッとちから尽きないように、
これからは
マイペースでやっていかなきゃならないと
思うようになりました。
震災に襲われて1年が経ちましたが
なかなか立ち上がることのできない人も
まだ、たくさんいらっしゃいます。
でも、そんななか、
こうして応援ファンドに手を挙げさせて
いただいたことは、
本当に、ありがたいと思っています。

河野さんのおっしゃるように
ゆっくりですが、
確実に前進していこうと決意しています。
和枝 これからは
「新しいもの」を積み上げていかなくちゃ
いけないんですよね。
そのことを、切実に感じています。
斉吉商店としては、
今年からは「もう、これが日常だ」と思って
やっています。
目標に「工夫と整理整頓」を掲げて、
こつこつ、がんばっていきたいと思います。

‥‥私たち、がんばることでしか
みなさんに恩返し、していけませんのでね。
小野寺 もともと、店があった土地は
使えるようになるまで5年以上かかると
思うんですけど、
たとえば、国からの補助金には
いついつまでに使わなければならない、
という「期限」があるんです。

つまり、今の状況では、
もともとの土地に対して補助金を使えない。
ですので、当面の再建は
他の場所、土地を探さなければなりません。
そして、数年後に
もともとの土地を整える段階になって、
ファンドのお金が役立ってくると思います。

ですから、これから、われわれの後にも
みなさんの関心や応援を
必要とする会社が、出てくるんですよね。
3年後、4年後になるかもしれませんが、
そういう会社のためにも
我々は
今、立ち上がっていかなければならない。
「復興」という言葉が意味を持つとすれば
それは
「1社1社の復興の集まり」でしか
ないんじゃないのかな、と強く思います。
石渡 私は、復興の鍵は「人」だと思います。

私ども、こうしてたくさんのみなさんに
支えられて思うのは、
みなさんの力をお借りできたら
どんな問題でも、解決できるんじゃないか。
人は考えるほどアイデアが出ますし、
ともに協力し合えばどんな山でも登れます。
そういう意味で、
やはり、復興には人が不可欠だと思います。
 
「えこひいき」でいい。
小松 ところで、この仕組みの名前は
「セキュリテ被災地応援ファンド」といいますが
「被災地」という言葉を
「いつまで使っていいのかな」
と、
思っているんです。
小野寺 ぜんぜん使っていいと思いますよ。
だって、未だに、あの状況ですし。

子どものころに聞いた話なんですけど、
忍者は、生き残るために
今、自分がどれほどの傷を負っているのか、
自らの身体のコンディションを
正確に受け止めることが必要なんですって。
それならば、
まさしく被災地に住んでいる我々は
自分たちの「現実」を直視して
進んで行かなければならないと思います。
「被災地」という言葉は、
我々の「ありのままの現実」として
受け止めています。
猪尾 新たにファンドを募集したい、という
事業者さんは
まだまだ、たくさんいらっしゃいます。
みなさん
エネルギッシュで、前向きなかたばかりです。
私どもも
お一人お一人のお顔を思い浮かべながら、
ひとつひとつ、
積み重ねていきたいと思っていますので
今後とも
ぜひ、応援していただけたらと思います。
山田 被災地の復興は
やはり、すごく長い時間のかかることなので、
「応援しなきゃ」とか、
「助けなきゃ」とか、
「ずっと忘れない」みたいに
いつまでも肩に力をいれて、眉間にシワを寄せて、
というままだと
長くは続かないと思うんですよね。

事業者さんと話すとわかるんですが
逆にこちらが元気づけられることのほうが、
すごく多いんです。
現地に会いに行くのも、それ自体が楽しい。
だからやっぱり、
これって、
自分がやっていて「うれしいこと」なんです。
近況が気になったりとか、また顔を見に行こうだとか、
自分が好きな人たちとつながって
長くお付き合いしていきたいというのは
人間の本質的な部分じゃないかと思います。

そして、この応援ファンドの仕組みのいいところは、
自分で応援したい会社を選べるところです。
被災地の状況を見てしまうと
つい「東北全体を応援しなきゃ」みたいに
思ってしまいがちですが、
それって、僕たち個人ではどだい無理な話ですし、
全体を考えすぎると、
どうしても、ぼんやりしちゃうんですよね。

ですから、僕は以前からよく
「えこひいきのススメ」ということを言っているんですが、
個人レベルの被災地との関わりは、公平性を気にせず、
「えこひいき」でいいんじゃないかと。
自分のこころに響いて、
応援したいと思った会社や人、特定の地域と長くつながる。
具体的に応援する人たちの顔が浮かぶほうが
応援する側としても力が出るし、
長く無理なく続きますよね。

一人一人の応援する力が最大化されること、
そして、それらが全国でたくさん積み重なることが、
復興へのいちばんの後押しに
なるんじゃないかと思います。
猪尾 山田さん、ありがとうございました。

それでは最後に、
改めて事業者の皆様に拍手をお願いします。
会場 (拍手)
全員 ありがとうございました。

<おわります>
2012-07-06-FRI
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