── |
でも、お醤油工場再建のめどがたったり、
新会社を設立したり、
傍から見ていると順調そうですが、
河野さんの危機意識は
逆に、そうとう高まっているように感じます。
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河野 |
繰り返しになりますけど、
順調というわけでは決してないですから。
倒産を免れた仲間の会社にしたって
このままでは
資金ショートして潰れてしまう会社が
出てくるでしょう。
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── |
お金が借りられずに。
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河野 |
もともと余裕のある経営をしているところなんか
被災地の中小企業には、ひとつもありません。
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── |
はい。
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河野 |
ですから、ゼロから立ち上がってゆくには
やはり金融機関の協力が必要なんです。
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── |
自力でやれる部分には、限界がある、と。
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河野 |
いま、八木澤商店には
地元金融機関の支店長代理が入ってくださって、
5カ年の経営再建計画書を
いっしょに、つくってくれてるんです。
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── |
それは、融資を受けるために。
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河野 |
でも、そういうケースは例外的なんです。
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── |
そうでしょうね。
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河野 |
たまたま、八木澤商店の場合は
情熱的な人が担当してくださっているから
本当にありがたいんですけど、
他の企業でも
そういう状況を「当たり前」にしないと。
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── |
はい。
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河野 |
地元の金融機関は
地元の中小企業に資金を貸し出すことで
成り立ってきたわけです。
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── |
ええ。
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河野 |
被災して、ぜんぶ流されて、
先行き不透明の中小企業に融資するのは
リスクがあるとしても‥‥
本来の役割を、何とか取り戻してほしい。
ただ‥‥。
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── |
ただ?
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河野 |
金融機関にその気になってもらうためには、
われわれ事業者も、変わっていかなければ。
経営に対する姿勢も、商品も、発想も‥‥
危機感を持って
改善していかなければならないと思います。
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── |
震災前と同じようになやっていたのでは、
何というか‥‥ダメだと。
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河野 |
それが私たち経営者に課せられた使命です。
たとえば、中小企業基盤整機構の制度で
仮設店舗ができ、
ようやくお店をオープンできました‥‥といっても
もともと「シャッター通り」だったわけです。
「再建する」というのであれば
人の集まる商店街じゃないと、意味ないです。
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── |
そうか‥‥。
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河野 |
かろうじて「雇用を守る」ことはできました。
でも、ここからが本当の正念場です。
個々の中小企業が、どうやって倒産せず、
どうやって経営を改善し、
どうやって
ゼロから這い上がっていくことができるか。
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── |
ええ。
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河野 |
ひとりひとりが脳みそをフル回転させて、
みんなで知恵を絞っていく必要があるんです。
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── |
はい。
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河野 |
八木澤商店に入ってくれている地銀担当者は
いまはまだ、少数派だと思います。
でも、たった一人の動きだったとしても、
休日返上でやってきて
何時間も作戦会議で知恵を絞ってくれて‥‥。
そうやって、何が何でも再建させたいと
思ってくれている人が
地元の金融機関のなかに、確かにいるんです。
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── |
その動きを、広めていきたいと。
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河野 |
そうするためにはまず、
自分たちが「金融機関を動かせる会社」に
ならなければならない。
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── |
‥‥なるほど。
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河野 |
動かない金融機関が悪い‥‥じゃなくてね。
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── |
積極的に動く‥‥という意味では
高田自動車学校の田村社長も
震災後、
いろんな取り組みをされているようですね。
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河野 |
あの人‥‥取れる資格は取れるだけ取って、
何人も雇用してますよ。
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── |
資格?
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河野 |
まず「氷屋」やってるの、知ってます?
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── |
いえ、はじめて聞きました。
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河野 |
田村さんて、もともと大船渡の人なんですけど、
行政に任せていたら
秋のサンマに「氷」が間に合わないって言って、
1億円くらいかけて
大船渡に氷工場を建てんたんです。
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── |
はー‥‥すごい。
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河野 |
たしか、もんのすごいスピードで工場を建てて
8月くらいにオープンさせてました。
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── |
じゃ、秋のサンマに間に合ったんですね。
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河野 |
他にも、自動車整備工場の免許とか、
中古車販売の免許、
あとは教育、つまりパソコン教室を開ける免許とか。
レンタカー屋もやってるなぁ。
ともかく「え、何屋さん?」てくらいな感じで。
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── |
それらをぜんぶ、震災後に。
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河野 |
そう、何でもできる体制にしたんです。
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── |
すさまじいエネルギーですね。
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河野 |
ああ‥‥そうだそうだ、
この間は
「かぼちゃのスープ」つくるとかって言ってた。
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── |
かぼちゃのスープ?
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河野 |
いやね、田村さんが
震災後に、ハンパない広さのかぼちゃ畑を
つくってたのは知ってたんですよ。
で、収穫できたら食いましょうとかって
話してたんですけど
みんなに配るだけ配って余ったら
かぼちゃのスープにして、売るんだって‥‥。
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── |
へー‥‥。
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河野 |
いま、内陸のスープ屋さんに
商品開発をお願いしているみたいです。
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── |
自動車整備から、かぼちゃスープまで。
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河野 |
原価計算、間違ってたんですけどね。
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── |
え?
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河野 |
いや、間違ってたんですよ。
スープの原価が160円くらいだっつうから
「そりゃあ、ずいぶん安くできましたね」って
感心してたんです。
原価160円だったら、一袋300円ぐらいかな?
まあ、ちょっと高いけど、売れなかないから。
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── |
ええ、ええ。
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河野 |
でも、ちょっと嫌な予感がして
「それって、もちろん原価入ってますよね?」って
聞いてみたら
「え‥‥入ってないけど。ダメ?」って。
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── |
な、なるほど(笑)。
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河野 |
そのあと、どうしたのか知りませんけど(笑)、
ともかく、
そうやって雇用を生み出そうとしている、
実際に生み出している企業が、たくさんあるんです。
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── |
そういう企業をなくしてはいけませんよね。
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河野 |
そう思います。
‥‥先日、
八木澤商店も補助金が減額になったんです。
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── |
そうでしたか。
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河野 |
正直いって、けっこうきつかったんです。
ショックを受けて、家に帰って
かみさんに「まいったわー、大変だわ」って
愚痴をこぼしたら
横で聞いてた小学校6年になる息子が
「国の補助金に頼ってるから
がっかりするんだよね」って言ったんです。
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── |
‥‥おお。
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河野 |
「そんなの、ごはんを食べて
お味噌汁を飲んだら忘れるよー」って。
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── |
‥‥すごい。
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河野 |
それを聞いて
オレ、補助金なんか出なくたって再建してやると
言ってたことを思い出して。
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── |
自分の原点を。
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河野 |
そう、思い出させてくれたんです。
息子の言葉で、一気に「前」を向きましたね。
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── |
すごいです。
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河野 |
いや、「恐ろしい」ですよ、子どもって。
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── |
ほんとですね(笑)。
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河野 |
ま、恐ろしいといえば
同じくらい、かみさんも恐ろしかったなぁ‥‥。
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── |
‥‥といいますと?
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河野 |
いやね‥‥
「今日、補助金が減額されちゃって
ショックでさぁ‥‥」
と、ダンナがガックリきてるわけですから
ふつうの奥さんだったら
愚痴を聞くような体勢をとってくれたって
いいじゃないですか。
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── |
ええ、まぁ。
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河野 |
それが
「あ、そう。
私は今日、本当にうれしい日だった!」って
切り返されたんですよ。
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── |
‥‥何が、うれしかったんですか?
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河野 |
かみさん、高校の補助教員なんです。
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── |
はい。
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河野 |
補助教員というのは、どっちかっていうと
オレみたいに
学校なんかくそっくらえだとか、
先生なんか信じるかよみたいに言ってる奴らに
寄り添う仕事なんです。
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── |
なるほど、はい。
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河野 |
でね、うちのかみさん、
これまで挨拶もしなかったような生徒たちに
その日、
「ありがとうね」って言われたんだって。
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── |
はー‥‥。
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河野 |
で、感動しちゃって
「あんたたち、こんなに成長して!」
みたいなこと言ったら
「震災を乗り越えたんだから
運命共同体でしょう、私たちは」って。
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── |
生徒たちが。
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河野 |
もう、号泣しちゃったらしいです。
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── |
それは‥‥うれしい日ですね。
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河野 |
教師として「最高の言葉」をもらったって
すっごく喜んでました。
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── |
はい。
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河野 |
だから、ヘコんでられないんですよ、私も。 |
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<つづきます> |