──
先ほど、ものすごいスピードの出る船に乗って
牡蠣棚を見せていただきまして。
小松
すみません、親父の運転が荒くて(笑)。
──
はい、遊園地のアトラクションみたいで、
すごくおもしろかったです。
小松
波しぶき、ドッカーンかぶってましたよね‥‥。
──
気持ちよかったので大丈夫です(笑)。
ちなみに、小松さんの考える「いい牡蠣」って
どんな牡蠣ですか?
小松
やはり「食べておいしい」が、いちばんですね。
生産者的な見かたとしては
「膨らみがあって、乳白色をしている」ものを
「いい牡蠣」としています。
お父さん
あとはやっぱり「鮮度」だよ。新鮮なもの。
うちの牡蠣は、朝めし前に獲って、剥いて、
すぐ袋詰めにして、冷やしてるんだ。
ほうぼうから大量に集める場合には
午後3時くらいから入札、
仲買人が持ち帰って、次の日に袋詰するから
1日、経ってしまうのさ。
小松
私どもは、剥きたてをすぐ袋詰めしますので
牡蠣がまだ生きているんです。
──
袋の中でも、まだ生きてる?
小松
はい。牡蠣が生きているかどうかというのは
袋の中の水を見ればわかります。
牡蠣が生きていると
呼吸するので、水がどんどん汚れていくんです。
──
へぇー‥‥。
お父さん
「袋の水が汚れてるから鮮度がよくない」
って思われがちだけど、
本当は、それが「牡蠣が生きている証拠」なの。
お母さん
でも、そうやって、こだわってつくると
「おいしいよ」って
電話なんかくださる人がいたりして‥‥。
──
うれしいでしょうね。
小松
生産者冥利に尽きますし、はげみになります。
あとは、やはり「環境」のこと。
大島のこのあたりは、海水がいいんです。
そのことが、すごくありがたいです。
お父さん
川の水と潮水の混じり具合がいいらしいんだ。
──
その恵まれた環境を利用して
種選びなど、いい牡蠣をつくるための方法を
お父さんの代から、積み上げてきたんですね。
小松
もっともっといい牡蠣をつくるための方法を
毎日毎日、模索しています。
そして、私たち人間が
その努力を、自然の掌の上で続けられるかどうか。
それだけだなあと思って、やってます。
──
あの、牡蠣のオーナーになった人のなかには
ヤマヨ水産の牡蠣を
一度も食べたことのない人だっていますよね。
小松
たぶん、ほとんどのかたがそうだと思います。
だからこそ、緊張しますよね。
だって失敗‥‥つまり美味しくなかったら
愛想つかされてしまいますから。
──
たしかに。
小松
おかげさまでオーナー制度は、
ここまでは「口コミ」で広がってきたのですが、
逆に考えれば
悪評だって同じように広まってしまいますから。
──
ええ。
小松
だから、私たちにできるのは
「美味しい牡蠣を届けること」だけ、なんです。
──
いざ出荷となったら、ドキドキしそう‥‥。
小松
そうですね、本当に。
よろこんでもらえたらいいんですけど。
──
オーナーのみなさんには、
届いた牡蠣を
どんなふうに食べてもらいたいですか?
小松
やっぱり、自分たちがオーナーになったから
この牡蠣ができたんだと思って
おいしく食べてもらえることがいちばんです。
──
関係者というか、当事者というか、
ヤマヨ水産の牡蠣のオーナーのひとりとして。
小松
はい。
ただ単に、気仙沼大島の方の海で獲れたという
だけではなくて、
「思い入れ」を持ってもらえる牡蠣になったら
いいなあって思います。
──
自分が復興に関わった牡蠣だぞー、と。
‥‥うれしいでしょうね、それ。
小松
そう思ってもらえたら
牡蠣の味も、もっと美味しくなると思います。
──
牡蠣って生き物で、具体的に育つものだから
復興の道のりを
いっしょに歩いてる感じがすごくしますね。
小松
その言葉は、とてもうれしいです。
やはり私たちにできることは
一日一日の積み重ねでしかありませんから。
──
なるほど。
小松
牡蠣って、いくら早く収穫したいと思っても、
成長を待ってあげなくてはなりません。
復興についても、同じだと思うんです。
問題があったら、腰を据えて
ひとつひとつ正面から取り組んでいくという、
その方法しかないと思っています。
──
「見学ツアー」みたいなことも考えていると
おっしゃってましたが、
もし、そういう企画が実現したら
オーナーさんの当事者意識も高まりそうです。
小松
ええ、私たちにとっては日常のことですけど、
牡蠣がどう育っていくのか、
見学していただくのもいいかもしれませんね。
──
つくる工程を知っていたほうが
届いたときの楽しみが増すような気もするし。
小松
そう考えると、牡蠣って、
私たちにとって「たんなる商品」じゃなくて
お客様とつながるためのものなんだなあって
改めて、思えてきました。
──
やっぱり「お客様とつながる」なんですね。
最後におうかがいしたんですけど
みなさん、牡蠣をどうやって食べるのが
お好きなんですか?
次に食べるときのためにも、
プロの意見を、ぜひ、お聞かせください。
小松
私は‥‥そうですねぇ、
生でも、フライでも、なんでも好きなんですが、
強いて言えば、
ちょっと小ぶりの牡蠣を、
生で食べるのが、やっぱりいいなぁと思います。
酢醤油で。
──
なるほど、酢醤油ですか‥‥おいしそう。
お父さん
俺はね、一斗缶のフタみたいなものに
剥いた牡蠣を置いて、
焼いて食べるのが、いちばんいいなぁ。
ネギと味噌をサッとやってさ。
牡蠣のうまみを、いちばん味わえるよ。
お母さん
昔ながらの食べかただ。
──
あ、そうなんですか。
お母さん
うん、「牡蠣の味噌焼き」っていって。
私は、牡蠣のグラタンが好きですけど。
──
おお、それもよさそうです。
お母さん
ふつうのグラタン皿を使うんじゃなくて、
牡蠣の殻でつくるんですよ。
殻にバターを塗って、
ふり洗いをした牡蠣を乗せて、
塩コショウして、
そこに、マヨネーズをかけるんです。
で、最後にパン粉を振って、
あとはオープンで焼いて出来上がり。
──
聞くだに、おいしそう‥‥。
お母さん
ツウの人は、柚子をかけて刺身にして食べたり。
──
はー‥‥。
お父さん
いや、俺に言わせるとさ、
柚子かけて、どうのこうのってやってるけども、
それだと牡蠣の本当の味がさ‥‥。
お母さん
まあまあ、人の好みだから。
お父さん
柚子を掛けると、味がそっちのほうに‥‥。
──
引っ張られてしまうと。
お母さん
あんた「味噌とネギ」でしょうが。
お父さん
いや、柚子であんなことしてしまったら、
牡蠣の味が消えちゃってさ。
お母さん
いいじゃない、人の好みなんだから。
お父さん
いーや、ダメ、ダメ!
小松
自分は「味噌とネギ」なのに‥‥。
──
いや、いろいろ、たいへん参考になります。
小松
ま、最後の親父の意見は
あくまで「個人の感想」ということで。
──
承知しました(笑)。
ともあれ、今のおすすめを聞いていたら、
すごく楽しみになってきました。
小松
すみません、
最後、おかしな展開になってしまって。
──
とんでもないです、じつに楽しかったです。
今日は、ありがとうございました。
小松
こちらこそ、ありがとうございました。
<おわります>
2013-08-01-THU
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN