ゼロから立ち上がる会社に学ぶ 東北の仕事論。 気仙沼 波座物産 篇
第3回 おいしく、食べてほしい。

── 先ほど、ものすごいスピードの出る船に乗って
牡蠣棚を見せていただきまして。
小松 すみません、親父の運転が荒くて(笑)。
── はい、遊園地のアトラクションみたいで、
すごくおもしろかったです。
小松 波しぶき、ドッカーンかぶってましたよね‥‥。
── 気持ちよかったので大丈夫です(笑)。

ちなみに、小松さんの考える「いい牡蠣」って
どんな牡蠣ですか?
小松 やはり「食べておいしい」が、いちばんですね。

生産者的な見かたとしては
「膨らみがあって、乳白色をしている」ものを
「いい牡蠣」としています。
お父さん あとはやっぱり「鮮度」だよ。新鮮なもの。

うちの牡蠣は、朝めし前に獲って、剥いて、
すぐ袋詰めにして、冷やしてるんだ。

ほうぼうから大量に集める場合には
午後3時くらいから入札、
仲買人が持ち帰って、次の日に袋詰するから
1日、経ってしまうのさ。
小松 私どもは、剥きたてをすぐ袋詰めしますので
牡蠣がまだ生きているんです。
── 袋の中でも、まだ生きてる?
小松 はい。牡蠣が生きているかどうかというのは
袋の中の水を見ればわかります。

牡蠣が生きていると
呼吸するので、水がどんどん汚れていくんです。
── へぇー‥‥。
お父さん 「袋の水が汚れてるから鮮度がよくない」
って思われがちだけど、
本当は、それが「牡蠣が生きている証拠」なの。
お母さん でも、そうやって、こだわってつくると
「おいしいよ」って
電話なんかくださる人がいたりして‥‥。
── うれしいでしょうね。
小松 生産者冥利に尽きますし、はげみになります。

あとは、やはり「環境」のこと。
大島のこのあたりは、海水がいいんです。
そのことが、すごくありがたいです。
お父さん 川の水と潮水の混じり具合がいいらしいんだ。
── その恵まれた環境を利用して
種選びなど、いい牡蠣をつくるための方法を
お父さんの代から、積み上げてきたんですね。
小松 もっともっといい牡蠣をつくるための方法を
毎日毎日、模索しています。
そして、私たち人間が
その努力を、自然の掌の上で続けられるかどうか。

それだけだなあと思って、やってます。
── あの、牡蠣のオーナーになった人のなかには
ヤマヨ水産の牡蠣を
一度も食べたことのない人だっていますよね。
小松 たぶん、ほとんどのかたがそうだと思います。
だからこそ、緊張しますよね。

だって失敗‥‥つまり美味しくなかったら
愛想つかされてしまいますから。
── たしかに。
小松 おかげさまでオーナー制度は、
ここまでは「口コミ」で広がってきたのですが、
逆に考えれば
悪評だって同じように広まってしまいますから。
── ええ。
小松 だから、私たちにできるのは
「美味しい牡蠣を届けること」だけ、なんです。
── いざ出荷となったら、ドキドキしそう‥‥。
小松 そうですね、本当に。
よろこんでもらえたらいいんですけど。
── オーナーのみなさんには、
届いた牡蠣を
どんなふうに食べてもらいたいですか?
小松 やっぱり、自分たちがオーナーになったから
この牡蠣ができたんだと思って
おいしく食べてもらえることがいちばんです。
── 関係者というか、当事者というか、
ヤマヨ水産の牡蠣のオーナーのひとりとして。
小松 はい。

ただ単に、気仙沼大島の方の海で獲れたという
だけではなくて、
「思い入れ」を持ってもらえる牡蠣になったら
いいなあって思います。
── 自分が復興に関わった牡蠣だぞー、と。
‥‥うれしいでしょうね、それ。
小松 そう思ってもらえたら
牡蠣の味も、もっと美味しくなると思います。
── 牡蠣って生き物で、具体的に育つものだから
復興の道のりを
いっしょに歩いてる感じがすごくしますね。
小松 その言葉は、とてもうれしいです。

やはり私たちにできることは
一日一日の積み重ねでしかありませんから。
── なるほど。
小松 牡蠣って、いくら早く収穫したいと思っても、
成長を待ってあげなくてはなりません。

復興についても、同じだと思うんです。

問題があったら、腰を据えて
ひとつひとつ正面から取り組んでいくという、
その方法しかないと思っています。
── 「見学ツアー」みたいなことも考えていると
おっしゃってましたが、
もし、そういう企画が実現したら
オーナーさんの当事者意識も高まりそうです。
小松 ええ、私たちにとっては日常のことですけど、
牡蠣がどう育っていくのか、
見学していただくのもいいかもしれませんね。
── つくる工程を知っていたほうが
届いたときの楽しみが増すような気もするし。
小松 そう考えると、牡蠣って、
私たちにとって「たんなる商品」じゃなくて
お客様とつながるためのものなんだなあって
改めて、思えてきました。
── やっぱり「お客様とつながる」なんですね。

最後におうかがいしたんですけど
みなさん、牡蠣をどうやって食べるのが
お好きなんですか? 

次に食べるときのためにも、
プロの意見を、ぜひ、お聞かせください。
小松 私は‥‥そうですねぇ、
生でも、フライでも、なんでも好きなんですが、
強いて言えば、
ちょっと小ぶりの牡蠣を、
生で食べるのが、やっぱりいいなぁと思います。

酢醤油で。
── なるほど、酢醤油ですか‥‥おいしそう。
お父さん 俺はね、一斗缶のフタみたいなものに
剥いた牡蠣を置いて、
焼いて食べるのが、いちばんいいなぁ。

ネギと味噌をサッとやってさ。
牡蠣のうまみを、いちばん味わえるよ。
お母さん 昔ながらの食べかただ。
── あ、そうなんですか。
お母さん うん、「牡蠣の味噌焼き」っていって。
私は、牡蠣のグラタンが好きですけど。
── おお、それもよさそうです。
お母さん ふつうのグラタン皿を使うんじゃなくて、
牡蠣の殻でつくるんですよ。

殻にバターを塗って、
ふり洗いをした牡蠣を乗せて、
塩コショウして、
そこに、マヨネーズをかけるんです。

で、最後にパン粉を振って、
あとはオープンで焼いて出来上がり。
── 聞くだに、おいしそう‥‥。
お母さん ツウの人は、柚子をかけて刺身にして食べたり。
── はー‥‥。
お父さん いや、俺に言わせるとさ、
柚子かけて、どうのこうのってやってるけども、
それだと牡蠣の本当の味がさ‥‥。
お母さん まあまあ、人の好みだから。
お父さん 柚子を掛けると、味がそっちのほうに‥‥。
── 引っ張られてしまうと。
お母さん あんた「味噌とネギ」でしょうが。
お父さん いや、柚子であんなことしてしまったら、
牡蠣の味が消えちゃってさ。
お母さん いいじゃない、人の好みなんだから。
お父さん いーや、ダメ、ダメ!
小松 自分は「味噌とネギ」なのに‥‥。
── いや、いろいろ、たいへん参考になります。
小松 ま、最後の親父の意見は
あくまで「個人の感想」ということで。
── 承知しました(笑)。

ともあれ、今のおすすめを聞いていたら、
すごく楽しみになってきました。
小松 すみません、
最後、おかしな展開になってしまって。
── とんでもないです、じつに楽しかったです。
今日は、ありがとうございました。
小松 こちらこそ、ありがとうございました。
<おわります>
2013-08-01-THU
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