──
今回の「復興・オーナー制度」というのは
漁協にたよらずに
牡蠣を直販する仕組みですよね。
小松
ええ。
──
つまり「BtoC」の販売ルートを
ご自身で、開拓していかなければならない。
単純に考えると、復興のこともあるし、
販売のことには頭を使わず、
牡蠣だけつくっていたほうが楽なのではと
思ってしまうのですが。
小松
それはたぶん、私が「臆病」だからです。
──
臆病。
小松
というのも、震災が起きる前から、
生きているうちには
いずれ、このようなこともあるだろうと
思っていましたし、
今後も、あるだろうと思ってるんです。
──
可能性は否定できないですよね。
小松
そのときに
「国や県が補助してくれないから
復興できない」
という「言い訳」だけは、したくなかった。
もちろん、何億もの借金を
自力で全額、返済しなさいって言われたら
しんどいですけど、
準備や心構えは必要だと思っています。
──
ええ、ええ。
小松
そのためにも「仕事の幅」を広げていこうと
思っていたんです。
そこで、漁協で共販するだけでなく、
産地直送でお客さまに直販していたんです。
──
「共販」というのは‥‥共同の販売?
お父さん
そうそう、あのね。
──
あ、小松さんのお父さん。こんにちは。
お父さん
つくった牡蠣は漁協に卸されるんだけど、
いろいろな人の牡蠣を
いっしょくたにして販売してるのさ。
だから、どこのスーパーへ行っても、
安い値段で
それなりの牡蠣を食べられるんだけども。
──
ええ、はい。
お父さん
いろんな生産者がつくった牡蠣を
商売人が買い付けて
ひとつのタンクに入れて袋詰するから
いろいろ、混ざってしまうんだ。
──
なるほど。
お父さん
牡蠣のつくりかたは、三者三様。
はっきり言って、同じ漁場であっても、
とれる牡蠣は同じじゃあ、ない。
──
味が違ってくるんですか?
お父さん
牡蠣というのは、そういうものさ。
──
手のかけ方がちがう‥‥とかですか?
お父さん
ウチは、大きくなった牡蠣にも温湯駆除して
身入りをよくしているの。
油が高くなろうと、品物をよくしたいからね。
──
オントウクジョというのは‥‥?
お父さん
船の上で、60度のお湯を沸かすんですよ。
で、牡蠣をイカダから引き揚げて
そのお湯につける。
そうすると、牡蠣の殻やまわりについた
ムール貝や雑草が除去できるの。
──
それらを除去することで?
お父さん
ムール貝が
牡蠣より先にプランクトンを食べてしまうのを
防ぐことができる。
──
なるほど。
お母さん
本当に大変な作業なんです。
──
あ、小松さんのお母さん。こんにちは。
お母さん
イカダに足をかけて、
200キロ以上もある牡蠣を手繰り上げて、
お湯につけるんです。
ものすごく、危険を伴う重労働なんです。
小松
だから、温湯駆除をやっていない養殖業者も
少なくありません。
海水を沸かしっぱなしにするんですけど
ここ数年、油代も高いですしね。
──
そうやって手間ひまかけることで、
牡蠣がぷっくりと、大きく太るんですね。
小松
でも、漁協の共販に出すだけだったら、
どんなに手間をかけても
それは「値段の差」にはならないんですよ。
お父さん
ひとつのタンクに混ぜ込まれて
ぜんぶ「一山いくら」になってしまうのさ。
小松
だから、業者のほうも
「手間や経費をかけてもバカバカしいや」
と考えてしまうんです。
手間ひまを掛けたほうが
いい牡蠣ができてるってわかっていても。
──
つまり、小松さんは
牡蠣にそういう付加価値をつけて、
「ヤマヨ水産の牡蠣」の名前を表に出して
直接販売してきたんですね。
小松
そうです。
「あんたのところの牡蠣を食べたら
おいしかったよ」って、
そう言っていただけることは
本当に、生産者冥利に尽きるんです。
──
うれしいですよね、それは。
小松
しかも、直販で買っていただいたほうが
市場価格より割安ですし
間違いなく新鮮な状態でお届けできます。
それに、私たちとしても、
中間マージンがないので利益も上げられる。
──
生産者とお客さん、
おたがいにとって「いい関係」であると。
小松
さらに「ヤマヨ水産」という名前で
やってますから
美味しいという口コミが広がれば広がるほど
期待を裏切りたくなくて、
作り手である私たちの気力も高まるんです。
手間がかかっても、いいものをつくろうって。
──
逆に、いい加減なものは出せないと。
小松
出せません。
──
つまり「ヤマヨの牡蠣」のブランド価値を
高めるのも、
低くしてしまうのも、自分たち次第。
小松
緊張感ありますよ。楽しいですけどね。
──
なるほど‥‥。
小松
もちろん、漁協の共販が
何から何まで良くないだなんてことを
言うつもりはないです。
その仕組みがあるから
安定的に商品を提供できるわけですし、
同業者どうしで
協力しあえることだってありますから。
──
「漁協で、ぜんぶ残らず売ってあげるから、
安心して牡蠣をつくりなさい」
という仕組みってことですものね。
小松
そうです。売れ残ったり、
価格がつかなかったりする心配はするなと。
──
ええ、ええ。
小松
ただ‥‥私も、けんかするつもりなんか
ぜんぜんないんですけど、
やっぱりどれだけ手間ひまをかけても、
お客さんの反応や
利益の部分で手応えが返って来なければ
いいものはつくれないと思うんです。
──
その努力自体を、やめてしまいますよね。
小松
私も含めて、
人間、やっぱり楽なほうへ流れがちです。
でも、やっぱり私は
楽をするより、仕事に「楽しみ」を見出しくて
直販をはじめましたし、
「消費者との結びつきを深めたい」と思って
オーナー制度を考えたんです。
──
はい。
小松
ですから、今は制度の頭に「復興」とつけて
一部を工場の再建などに
充てさせていただいておりますが、
再建してからも
「オーナー制度」自体はやめないと思います。
──
それはつまり
「楽しみを見出す」とか
「お客さんとの結びつきを深める」ことが
制度の趣旨だから。
小松
そうです。お客さまと、つながりたい。
それが、この制度をつくった思いです。
──
お客さんと、
直接やりとりするのって、おもしろいですか?
小松
いやあ、おもしろいですね。
単純に「おいしい」と言ってもらえるのも
そうですけど、
贈答品としてお送りした先から
「今度は、うちからお願い出来ますか?」
と言ってもらえたりしたときなどは
本当に、うれしいんです。
創意工夫したときの、
金額への反応も、はっきりしていますから、
やりがいを感じますし、
気の持ちようも変わってくると思います。
──
なるほど、なるほど。
小松
直販をスタートさせてみて、
親父が、昔から
「うちは、いい牡蠣をつくってるのにな」
って言っていたことを
「ああ、あの言葉は本当だったんだなあ」
って、心から思えたんです。
<つづきます>
2013-07-31-WED
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN