糸井 初代の林家三平さんが、
トイレで横に並んだ人に眼が合うと、
「どうも、三船敏郎です」とおっしゃったと
聞いたことがあります。
これは、たぶん同じだと思うんですよ。
徳光 いやぁ、同じですよね。
糸井 言いたいんです。
しかも、言えないときには
言わないですよね。
徳光 ええ、そうですね、そうですね(笑)。
糸井 徳光さんにも、そういうことを
絶えず感じるんですよ。
徳光 あぁ。うれしいですね。
糸井 たとえば、
「競艇が好きな徳光さん」を
カメラが追うという企画がありますでしょう。
徳光さんは「競艇」という遊び時間を
「どうぞお撮りください」というスタイルで
番組に提供している。
だけど、徳光さんはそこに
「テレビカメラは関係ない」と
思っているような時間を混ぜるんです。
徳光 (笑)うん。
糸井 「ちょっとここは真剣だから」って。
徳光 まったく、そうです。
糸井 「仕事で来てるんだからできるだけ手伝うけど、
 撮らなくても大丈夫だし、撮ってもいい。
 怒ってるところを撮るんだったら、どうぞ。
 だけど、俺はいまは個人的に怒るから」
という、真顔と本気とを
セットで差し出している徳光さんが、
画面の中にいます。
徳光 いやぁ、そうか。
そこまで、自分の頭の中で
整理してないんですよ。
糸井 わかります、してないんでしょうね。
徳光 整理してから見せるのは、
きっとだめだと思うんです。
おっしゃるとおり
「まぁ、適当に撮ってくれ」
という感じですが、
ぼくは、競艇の選手に対して怒ってるときは
やっぱり真剣ですよ、それは。
一同 (笑)
徳光 自分が思った通りのレースを
してくれなかったわけでありますから。
それで、こっちはちゃんと
お金も賭けてるわけじゃないですか。
糸井 我が物を差し出してるんですよね。
徳光 そうです。
「ばかやろう、このやろう、
 泳いで帰れ」

みたいなことは平気で言います。
糸井 ははははは。
徳光 そのまま撮ってもらって、
「それは出さないで」ということは
言わないわけです。
「ま、出すならそのまま出してくれ」と
いうことにします。
だって、あれですもんね、人生で、
かっこつけたりなんかすることがいちばん、
おもしろくないんじゃないかな
と思ってますから。
糸井 うん。
徳光 でしょ?
糸井 はい。
‥‥ああ、わかるなぁ。
徳光さんは、小さいときから
そうだったんですか?
徳光 たぶんそうでしょうねぇ。
自分ではですね、
言うと気障になるんですけど、
「本当に、努力ってしてないな」
と思うんですよ。
努力をしない姿を見せてきて、
そのことが、なんか
今日に結びついてるといいましょうか。

まぁ、こんな自己分析をするのは
おかしな話ですけど、
そう思えてならないんです。
糸井 努力して作った部分というのが
あったとしたら、
ほんの「瞬間」ですよね。
たとえば、ネクタイしなきゃならない場所で
ネクタイをするとき、
それは「したくないよ」とは
言いたくないからです。
徳光 そうですね。
糸井 その面倒くささに対して
「しない」と真剣になるのは、
どうも、一生懸命すぎますよね。
徳光 ええ、そうじゃないでしょうか。
糸井 反対側に行って
ムキになってるわけじゃないところが、
ぼくにとっての
徳光さんの魅力なんです。
徳光 ははは。ありがとうございます。
糸井 だからといって、
遊び人ぶってるわけでもない。
徳光 それはまぁね、
遊び人じゃないですから。
糸井 徳光さんは
「遊びは大事だよ」とも
言ってないんですよ。
徳光 そうですね。
あのね、そういうのが
いちばんいやなんですよ。
糸井 でしょう?
一同 (笑)
徳光 ぼかぁね、
糸井さんを好きなのは、
それを言わないから、
好きなんですよ。
糸井 ぼくも、それはとても
いやです。
徳光 ねぇ?
糸井さんって、
遊び人なのか中途半端な人間なのか
わかんないけども、
そういうふうに、そのまんま、
サラのまんま生きてらっしゃると、
こう、思うわけです。
糸井 そう。そのとおり。
ただ、勝手に好きなだけなことをして。
(つづきます)

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2010-12-23-THU