東京の子。オードリー若林さんからみた「東京」 東京特集
第四回 灰色の街、東京。
──
若林さんが普段行動されるエリアは、
基本的に変わっていないんですか?
若林
そうですね。
基本「中」には入らないように気をつけています。
僕にとって「中」はプロレスのリング、
みたいなイメージなので。
──
プロレスのリング、ですか。
若林
いろんなところから出てきた人が
常に勝負して、競い合って。
「中」は競争社会なので、
入ったらリングに立たなきゃいけないんです。
──
若林さんは、
リングに立とうとは思わないんですか?
若林
こう、いい店知っていることとか、
ステータスや肩書とかを競い合うのって、
そういうの、なんか、
「田舎くせぇな」と思いますね(笑)。
──
うわあ、いまの言い方
東京っぽかったですね(笑)。
若林
いま、めちゃくちゃ、
東京感を出しました(笑)。
──
若林さんは
競争には加わらないんですね。
若林
加わりたくないですね。
加われないと思いますし。

みんなが人間味を削ぎ落としあって、
記号で自分を表現しているのをみると
「勝手にやっていてください」
という気持ちになります。
──
著作の『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞』を
一足お先に拝読させていただいたんですが、
その中でも
「競争したい訳じゃないのに、
 競争しなきゃ生きていけないシステムだ」
と東京に対する違和感を書かれていて。
若林
そうですね。
「勝手にやっていてください」と思っていても、
東京にいると、そういうシステムに
いつの間にか巻き込まれている気がして。
そのシステムから逃れるためにも、
どうしても東京から離れたかったんです。
──
それでキューバに行かれたんですね。
若林
はい。
東京の勝ち組とか負け組とか、
そういうのに疲れてしまって。
まあ、親父が亡くなったこともあって、
一度ひとりになりたかったんですよね。
それで、競争社会ではない、
東京とは全然違う国に行ってみたいと。
──
どうしてキューバだったんですか?
若林
キューバは陽気な国だと聞いていたので、
なんとなくですけど、
競争しなきゃ生きていけないシステムでは
なさそうだな、と思ったんです。
──
そうだったんですね。
あの、本の一番最後の章のタイトルが「東京」で、
その中で「東京」という街を、
若林さんは「灰色の街」と表現されていて。
若林
そうですね。
西新宿の高層ビル群や、
東京湾沿岸を上からのぞいた景色を
思い出しながら書きました。
──
「灰色の街」は東京の「中」のことを
さすのかなと思ったのですが。
若林
ああ、そうかもしれないですね。
キューバに着陸する直前の
上空からみた景色と東京の景色は、
色味が全然違ったんですよ。
あの対比を強烈に覚えていて。
東京は暗かったんですよ、
その色が辛そうで、苦しい感じで。
──
そう、若林さんの目には写ったんですね。
若林
そうですね。
あの、人によってイメージは違いますけど、
「東京」のイメージは
生活感のある街並みではないと思うんです。

六本木ヒルズにも人は住んでいるけれど、
あそこで生まれ育った人はきっといなくて、
みんなどこから出てきたんだろうと
感じてしまうような。
生活感よりも経済中心のイメージなんです。
──
はい。
若林
経済中心の街並みは「中」の東京の話で、
色で例えるなら灰色だなあと思いました。
デジタルが発達して、
みんなが足早で、
人間味が極力排除されている、
そんな街ですよね。
──
「外」の東京は違うんですか。
若林
違うと思いますね。
「中」には辛さとか苦しさを感じるので、
だから僕は無理に
「中」に入ろうとしないんでしょうね。
(つづきます。)
2017-07-23-SUN