2スポーツピクトグラムの
システム。
- 乗組員A
- 50種類のスポーツピクトグラムを
デザインしていく作業には、
たのしいことも、つらいことも、
両方があったんですね。
- 廣村
- 作ること自体はたのしいんですけども、
どこに着地するのかが、
なかなか見えてこなかったんですよね。
我々が思ういいかたちはあったのですが、
それぞれの競技団体の方に見ていただくと、
その競技ごとに、今のトレンドがあるんです。
- 乗組員B
- 定番のかたちが
変わっているんですね。
- 廣村
- 我々は写真や動画を参考にしながら、
「このショットだ」と決めるんです。
より単純なかたちにデザインしていく過程で、
その競技の専門家にとっては
いいところが削がれてしまうんでしょうね。
「もうちょっと回転させたほうがいい」とか
「足はもうちょっと、こっちに上がるよ」とか、
細かな作業を半年ぐらいは続けていました。
- 乗組員A
- どこを切り取るかは大事な要素ですよね。
しかも「ズバリ、その人そのもの」
みたいにわかるデザインになっちゃうと、
きっと、マズいでしょうし。
- 廣村
- その通りですね。
だから、完成したピクトグラムには
人格が見えないわけです。
最初のうちはね、人格もあったんですよ。
- 乗組員B
- この選手がモデルだなと、
わかるようになっていたんですか?
- 廣村
- そう、あの有名選手のフォームだな、
とわかる人にはわかるぐらい。
あえてそういうかたちを残す案もありましたが、
そういうことじゃないだろうと思いまして。
- 乗組員A
- 最初にデザインとして固まったのは、
どの競技になるのでしょうか。
- 廣村
- まずは「陸上競技」から作りました。
誰かに言われたわけでもないのですが、
陸上からはじめましたね。
- 乗組員A
- 最初は「陸上競技」。
- 廣村
- 1964年の東京オリンピックの
ピクトグラムがどうできているのか
研究していたんです。
初のスポーツピクトグラムとして
よくできているんですが、
システムが成り立っていないなと
途中で思うようになったんです。
- 乗組員A
- 「システム」と言いますと。
- 廣村
- システムというのは、
すべての種目における共通項みたいなものです。
そのシステムがちょっと甘いんじゃないかと。
それから、もうひとつ。
2020大会ではアスリートの体の動きを、
もっと表現したいなと思いました。
ぼくとしては「陸上競技」が一番中心にあるので、
まずは「陸上競技」から考えてみようと。
並べてみると、格好もよく似ているんですよ。
- 乗組員B
- ああ、本当ですね。
たしかに似ていますが、
洗練された感じがします。
- 廣村
- 1964年では、競技者のウェアも
表現していたりするんですね。
1964年の競技者は、
ランニングにあわせて色を抜いています。
ところが2020年の場合には、
胴体の色が抜けているんです。
胴体を見せずに手や足で表現をすれば、
身体全体の動きを表現できるとわかりました。
手足のひねりは、
身体と離すことでより強調されるんです。
- 乗組員B
- 動きを想像させますね。
- 廣村
- ということで動きに着目してはじめましたが、
途中で壁に当たるんです。
「テコンドー」のヘッドギアだとか、
「フェンシング」の剣だとか、
アイコンになるようなものがないと
違いを表現できない競技がありました。
たとえば「柔道」を裸のままで表現すると、
「レスリング」との違いが見えづらい。
- 乗組員B
- ああ、たしかに。
- 廣村
- 一度立ち止まって、考えを改めました。
その競技の主たるビジュアルの
根源を成すものは積極的に入れていこうと。
「テコンドー」も胴の色を抜くつもりでしたが、
胴まわりの防具とヘッドギアがないと、
それらしく見えないんですよね。
- 乗組員A
- ヘッドギアに色をつけた分、
顔はないんですね。
- 廣村
- そうやって少しずつ調整していく中で
新しいルールができていきました。
ピクトグラムを考える作業では、
本来の大きな枠組みを作りながら、
個別の表現が適切になるよう表現していくんです。
そして、もうひとつ大事な分け方として、
「全身か、部分か」というのもありました。
左から「ゴルフ」と「野球」。
- 乗組員B
- 全身か、部分か。
- 廣村
- たとえば「競泳」や「水球」など、
水の中まで表現できない競技は、
どうしても上半身だけになります。
となると、上半身だけで表現すべき競技が
これらの他にもあるかもしれません。
「ゴルフ」「野球」「ボクシング」を
見ていただけるとわかるかなと思うのですが、
上半身だけで表現することで
より強く表現できているんです。
- 乗組員B
- 全身がなくても、
どの競技かすぐにわかりますね。
- 廣村
- 「ボクシング」と「セーリング」で比べると
人の縮尺率は大きく違っていますが、
同じボリューム感で
全体を見せられるよう考えていました。
左から「ボクシング」と「セーリング」。
- 乗組員A
- 数字で正解が出せるわけではない分、
難しいでしょうねえ。
- 廣村
- そうですね。
他に決めていたルールとしては、
水の表現は波で統一しようとか、
砂は点々にしようとか、
そういう共通項を取り決めていくんです。
「トランポリン」と「飛込」は
わりとよく似ているんですけど、
下のベースが違うんです。
左から「トランポリン」と「飛込」。
- 乗組員A
- 「自転車競技」は種目が多いから、
違いを表現するのに苦労されたのでは?
- 廣村
- 「自転車競技」だけで5つありますからね
(BMXフリースタイル、BMXレーシング、
マウンテンバイク、ロード、トラック)。
デザインを考える上で調べたところ、
速度を競うものにはヘッドギアもあって、
自転車の種類も違うんです。
BMXではタイヤの大きさも違います。
左から「BMXフリースタイル」、「ロード」、「トラック」。
- 乗組員B
- わー、本当ですね。
比べると違って見えます。
(つづきます)
2019-07-12-FRI