3どこを足す。
どこを削る。
- 乗組員A
- 廣村さんが手がけたスポーツピクトグラムの
デザインを拝見してみると、
感覚的なものと、理屈と、
両方を組み合わせていますよね。
- 廣村
- 最初はなるべくシンプルに表現したいので、
どんどん絞り込んでいくんですけども、
途中から、その競技に見えてこない
臨界点みたいなものが出てきました。
そのときにはみんなで協議をして、
「残すべきか、削るべきか」を
まとめていく作業をしていました。
- 乗組員A
- 作業していくうちに、
わからなくなってきません?
- 廣村
- 考えていくうちに、
どんどんわからなくなっていくので、
「そうは言ってもこれがいいんじゃないか」
という案を中心にしながら、
「もしかしたら、こういうのもあるかな?」
という案も競技団体のみなさんには
見てもらって意見を伺うんです。
- 乗組員B
- 競技団体のみなさんは、
自分の競技だけを確認するのでしょうか。
それとも、周辺の競技も見るのでしょうか。
- 廣村
- 周辺の競技も見てもらいました。
「全体をこういう考え方で作っています」
ということを見てもらえたら、
ディテールまで表現できないことも
理解していただけるので。
- 吉原
- やはり各競技団体のみなさんは、
自分の競技に一番の関心がありますから。
なので、個別最適も大切ですが
全体最適にて判断してほしいとお願いしました。
説明させていただくときにも
まずは全競技について説明をした上で、
自分の競技を見ていただきました。
- 廣村
- それぞれの競技団体のみなさんは、
自分の競技をいつも見ているから、
「らしさ」みたいなものがわかるんです。
たとえば、「空手」のデザインを見て、
「いやいや、手はこの向きだから」
「足はもうちょっとこうなるよ」とか
教えてもらえることで気づくことがありました。
- 乗組員A
- 空手の「形」って、
まさに、かたちの競技ですもんね。
- 吉原
- スポーツピクトグラムの発表会には
清水希容選手が来てくださって、
このデザインにぴったりの
形を見せていただきました。
- 廣村
- 実際に清水選手にお会いして、
「こんなに小柄な人なの!」と思ったんです。
動画では拝見していましたが、
もっと大きい選手かなと思っていました。
それだけ大きく見える表現なんですね。
- 乗組員A
- 廣村さんがデザインするにあたって、
よく知っている競技と
あまり知らない競技とでは、
どちらが難しいのでしょうか。
- 廣村
- それは、どちらとも言えないです。
自分が知っている競技でも、
「なるほどな」と思うこともありますしね。
全部、難しかったのですが、
あえて難しかった要素を挙げるなら、
男女差が出ないようにすることかな。
- 乗組員B
- ああ、たしかに性別がわからないです。
- 廣村
- 女子だけの「ソフトボール」とか
「アーティスティックスイミング」とかは
考え方もわかりやすいんですよ。
ですが、男女とも出場する競技では、
性別がわからないようにしています。
- 乗組員B
- 最初は陸上競技から考えたと
おっしゃっていましたが、
最後に決まったのはどの競技ですか。
- 廣村
- オリンピックで最後に決まったのは、
「空手 組手」だったかな。
- 吉原
- かなりやり取りを重ねた記憶がありますね。
- 廣村
- たくさんのパターンを出しました。
足がどこまで上がっているかとか、
手の位置はそこじゃないとか、
突きはもっと出すものだとか。
- 乗組員B
- 「空手」は新競技ということもあって、
事例もないですもんね。
- 廣村
- あとは、「セーリング」も難しかったです。
1964年のデザインを見ると、
人がいなくてボートだけでした。
今大会では人間も出したいなと思ったのですが、
人を入れるとボートが切れてしまう。
でも、ボートが切れるとうまく見えないんです。
- 乗組員B
- 難しいですね。
- 廣村
- 細かいことを言うと、
両手に持っている棒と綱がありますよね。
ぼくらも最初の段階では
「1本でいいじゃない」とか思うのですが、
調べてみると、そうもいきませんでした。
片方では舵を切って、
もう片方では帆を調整しているんだそうです。
競技団体の方からのリクエストもあって、
自然の力を利用して進んで行くために、
船からお尻をつき出して
コントロールしていくものだと。
- 乗組員B
- ピクトグラムを見ると、
たしかにお尻が出ています。
- 廣村
- グーッと反っているシーンで、
ぼくらも資料でよく見ていました。
お尻をつき出している分、
倒れないように船も傾けていて、
もっとも見映えのする場面だそうですよ。
でも、デザインする立場からすると、
ただでさえ船が大きいのに、
余計にはみ出る要素が増えてしまうなあと。
- 一同
- (笑)
- 乗組員B
- 競技に詳しくないと
わからないポイントですよね。
- 乗組員A
- かなり苦労されたと思うのですが、
お話はすごくおもしろいです。
- 廣村
- 写真を見せていただくんですが、
「ここ!」っていうポイントが難しくて。
しかも、写真では隠れることがあって
見えなかったりもするんです。
隠れて見えなくなるなら、
出さなくてもいいのではと思うのですが、
「お尻を出さないと意味がない」と。
- 乗組員B
- 「セーリング」のお尻問題。
そのお話を聞いた上で、
実際の競技を見たくなりました。
「あ、あのお尻だ!」ってなりますかね。
- 乗組員A
- デザインを細かく見ていくと、
腕の微妙な筋肉の表現といいますか、
太さに違いがありますよね。
- 廣村
- 競技によっては、かなり重要なポイントですね。
頭の大きさに対して体の大きさはどうか、
頭に対して腕の太さはどうか、
腕の根っこのアール(丸み)はどうか、
と決めていくんです。
第一関節から第二関節にかけての膨らみが、
動きに大きく影響する競技もありますから。
腕を単純な直線で表さずに、
微妙にカーブをつけたりしましたね。
- 乗組員A
- 「ボクシング」のこの腕の太さは、
やっぱり必要なんでしょうね。
- 廣村
- 「ボクシング」の腕のデザインは、
上半身だけで表現しているのも
影響していますね。
なるべく要素は少なくしたいので、
本当はグローブをまあるく表現したいんだけど、
丸だとグローブに見えなくて、
ドラえもんになっちゃうんです。
- 一同
- ああー。
- 廣村
- 大きな拳にならないといけないんですよ。
その点は1964年がよくできていて、
ちょっと凄んでいるポーズでしたね。
- 乗組員A
- 1964年のデザインには、
ヘビー級の雰囲気があります。
- 廣村
- 2020年は他の競技との調整もあって、
さっぱりさせたいなと思い、
シンプルな表現に変えました。
2020年では「これから打つぞ」みたいな。
- 乗組員A
- その競技ならではのポイントを表現するために、
細かいところまで気を遣われたんですね。
- 廣村
- その分、削れるところは
極力シンプルにしていきましたね。
(つづきます)
2019-07-13-SAT