5スポーツピクトグラムとは
何ぞや。

- 乗組員B
- 今回の実作業としては、
何人ぐらいのチームだったんですか?
- 廣村
- ぼくと、組織委員会と電通さんという
チーム体制で作っていましたが、
途中出入りしていた人はいましたが
実作業は10人ぐらいでしょうかね。
- 乗組員A
- 組織委員会である吉原さんとしては、
デザインの実地とはまた違う
ご苦労があったのではないでしょうか。
- 吉原
- そうですね。
IOC(国際オリンピック委員会)ですとか、
IPC(国際パラリンピック委員会)ですとか、
競技団体との調整があるので、
今大会のスポーツピクトグラムを
どういうコンセプトで作っているか、
全体のストーリーをお話ししていくのが役目でした。
いろいろお知恵を借りながら
ご説明させていただきましたね。
ピクトグラムとはミニマムで作っていくもので、
シンプルに仕上げていきたいとお伝えして、
ご理解をいただかないといけませんでした。
細かなディテールまでは手が入れられないことを
丁寧に説明していくことには時間がかかりました。

- 廣村
- ピクトグラムというものは、
できてしまえば「こんな感じだよね」と
思うかもしれないけれど、
まだできていないときにはみんな、
個人個人の想いを持っているので、
いろんな意見を言われるんですよ。
デザイナーは大きく俯瞰して見ないといけないので、
まとめていくための作業に時間を使いました。
そのご理解をいただくために、すごくお願いをして。
- 乗組員B
- 吉原さんは、いつ頃から
組織委員会に加わってるんですか?
- 吉原
- この7月で2年になるので、
ピクトグラムの作業がはじまったのと、
同じようなタイミングですね。
私は電通のクリエイティブ局で
アートディレクターをしていたのですが、
オリンピックの仕事をやってみないか?
と急に言われまして。
- 乗組員B
- あ、そうなんですか。
組織委員会に出向になる前、
アートディレクターとしては
どういったお仕事をされていたのでしょうか。
- 吉原
- 広告やパッケージ、ロゴ、
ブランディングの作業などをしていました。
内々にお話があったのは2年前、
ゴールデンウィークが明けてすぐでしたね。
招集されていく感じがしました。
- 廣村
- 吉原さんは今、
デザインに関するセクションの
いろんなことに関わっているんでしょ?
- 吉原
- 組織委員会ではマーケティング局の
ブランド開発部に所属していまして、
デザインに関しては全体を見る立場ではありますね。
- 廣村
- 競技によって色をわけたりとか、
モニターで映ったときにどう見えるかとか、
そういうことを担当されているんですよ。
それはそれで大変な作業だよなあ。
- 吉原
- 会場の装飾については、
華やかな空間の中で競技されているのを、
みなさんも過去の大会で
よく目にしていらっしゃると思います。
まさに今、そういう設計をしている段階ですね。
- 乗組員A
- 壁ひとつのデザインで
全然違って見えますもんね。
- 吉原
- アスリートのために、
一番いい舞台を作ることを考えています。
たとえば、壁や照明によって、
ボールが見えにくくならないようにするとか、
そういう影響も考慮しながら設計しています。
あとは、アスリートのパフォーマンスを
一番いい場所で撮れるように、
カメラ位置を気にしたりもしますね。
- 乗組員A
- おもしろいです。
- 廣村
- 中でやっているとたのしいでしょ。
次はこんなのを発表するんだぞって。
- 吉原
- たのしいばかりでもないですね、やっぱり。
ずいぶん大きな仕事を
任されちゃっているなと
プレッシャーを感じています。
最初は今よりもビビっていて、
「俺、大丈夫かな、こんなのやってて」みたいな。
さすがにもう、落ち着いてきましたけど。

- 乗組員B
- 廣村さんがお作りになったピクトグラムって、
会場で見かける機会が多いと思いますが、
今後、どういう使われ方をしていくのでしょうか。
- 廣村
- 会場ではわりと多く見ることになるでしょうね。
チケット、カタログ、ウェブサイト、
それから、いろんなメディアで
選手といっしょに紹介されたりとか。
あとは公式グッズとかですね。
- 乗組員A
- スポーツピクトグラムのデザインについては
一段落していらっしゃると思うんですけども、
また派生するお仕事もあるのでしょうか。
- 廣村
- そうですね。
全体としてどう使っていくのか、
展開の方法を考えていくことになると思います。
オリンピック、個人としてもたのしみですよ。
- 乗組員A
- 廣村さんの作るピクトグラムは、
1964年大会をベースにしたと伺いましたが、
2020年大会での新競技に関しては、
まったく新しいデザインになりますよね。
- 廣村
- そうなりますね。
たとえば「スポーツクライミング」の
壁をどう表現するのか、
ずっと議論しながらやっていましたね。

- 乗組員B
- 廣村さんのデザインが、
今後の大会の模範となるわけですもんね。
- 廣村
- 2020東京大会では一度原点に帰って、
「スポーツピクトグラムとは何ぞや」
みたいなデザインにすることが
日本らしさにつながると思ったんです。
これがニュースタンダードになって、
次の大会の参考になれば嬉しいです。
- 乗組員A
- それほどナショナルカラーを出さずに、
シンプルに競技に寄るほうが、
むしろ日本らしい気がしますね。
- 廣村
- 「日本らしさ」ということで考えたときに、
たとえば、アニメでもよかったんですよ。
それが日本の「らしさ」で、
世界中のみんながそう思ってくれるならね。
だけども、そういう表層的な、
ある一部分的な話ではないだろうと。
もう少し日本人が本質として持っているような、
「清らさ(きよらさ)」があるじゃないですか。
多く持たないほうが美徳であるとか、
武士道にも通じるところですよね。
最近でいうとコンパクトカルチャーというのが、
日本を代表するような考え方で、
それはもう歴史的にも言えることです。
- 乗組員B
- 島国ならではの発想ですね。
- 廣村
- 日本って、国土の約7割が山で
人間が生活できる範囲が少ないんです。
その狭い中にひしめいて生活してきたからこそ、
生み出されたアイディアがいっぱいあります。
それが日本ならではの、
コンパクトに暮らすことだと思うんですよね。
これを「日本らしさ」と捉えたほうが、
ブレのない日本らしさを
表現できるんじゃないかと思ったんです。
- 乗組員B
- 2020東京大会のピクトグラムには、
近年の大会と比べても
誇張がない分シンプルだと思うのですが、
全体的に躍動感はありますよね。
- 廣村
- あまり誇張がないので
静かに見えるかもしれませんが、
個々ではアグレッシブにしたかったんです。
内に秘めた想いを、
静かに蓄えていている感じです。
- 乗組員A
- 動きはあるんだけど静か。
- 乗組員B
- それはそれで日本らしいですね。
廣村さんが個人的に、
好きな競技はあるんですか。
- 廣村
- 陸上部にいたんで、
やっぱり陸上は見てみたいかな。
- 乗組員B
- 走っていたんですか?
- 廣村
- 走っていました、短距離です。
- 乗組員B
- ピクトグラムを手がけたときに、
最初に陸上競技から作ろうと
おっしゃっていたお話と関係は‥‥。
- 廣村
- あるかもしれないよね(笑)。
ぼくが陸上をやっていたからかな。
「スタートダッシュってこうだよ」と
思っている部分がありますもん。
- 乗組員B
- この角度は、走っている途中ではなく
スタートの姿勢ですよね。

- 廣村
- そう、スタートダッシュ。
2歩目、3歩目ぐらいですかね。
- 乗組員B
- やっていなかったら、わからないかも。
- 廣村
- 走っているうちに、
だんだん体が上がってくるんですよ。
1964年大会ではもっと寝ていたんですけど、
今大会では45度の角度に変えました。
そんなには寝ないだろう、ということで。
- 乗組員B
- この記事を読んでくださっている
オリンピックファンのみなさんに
言い忘れていることだとか、
くり返し伝えたいことがあれば。
- 廣村
- ぼくはデザイナーなので、
オリンピックをデザインとして考え、
デザインの視点で見ているんです。
それぞれの職業がそれぞれの職業の視点で見る
オリンピックの見方があるんじゃないでしょうか。
自分なりのオリンピックの見方が見つかると、
すごくおもしろいだろうなと思います。
- 乗組員B
- ありがとうございます。
吉原さんはいかがでしょうか。
- 吉原
- このピクトグラムと競技をあわせて、
ぜひ見てもらいたいですね。
どれだけリアルに作られているか、
大会で確認してもらいたいです。
- 乗組員B
- たのしみです。
いろいろな仕事に携わるみなさんの
お話を伺っていると、
オリンピックの凄みを感じます。
- 乗組員A
- ありがとうございます。
おもしろかったです。
- 乗組員B
- ありがとうございました!

(おわります)
2019-07-15-MON