第5回

都電が東京の交通の主役だった。

ーー
(井上さんのトリビア集をめくって)

地下鉄の話からちょっと脱線しますが、
井上さんのトリビアのなかに書いてある内容が、
気になったのでうかがいます。

東京都交通局は都電の運営もなさってますが、
都電のなかで荒川線だけがなぜ残ったのでしょうか。

▲これも井上さんのトリビア集。

びっしり書いてあります。

井上
お話ししましょうか?
ーー
お願いいたします。
井上
今の荒川線というのは
「王子電気軌道株式会社」という会社が
今から105年前、明治44年8月に作ったんです。

昭和17年の陸上交通事業調整法で
「東京の路面電車は全部統合するように」となり、
うちが運営することになりました。

その後、戦後にマイカーを持つ人口が増えて、
道路混雑になり、
昭和42年から47年までの間に
都電を撤去しはじめたんですよ。

最初の計画では全線がなくなるはずだったんですが、
途中で何とか残せないかということで、
私なんかも画策しまして。

ーー
おお、井上さんも関わっておられたんですか。
井上
はい。

路線を何とか残せないかと
がんばってたんですけど、いろいろ難しくて、
荒川線以外はなくなりました。

路面電車というのは道路を走らなきゃいけないんで、
車の影響を受けて走れなくなってしまって、
お客さまがだんだん減ってしまったんです。

でも、荒川線は9割が専用軌道なんで、
定時性があって、ちゃんと走れたんですよね。

10万人くらいのお客さまが乗ってましたし、
黒字だったんですよ。

沿線の方や都民の方から
「何とか残せないか」という陳情もありました。

それで当時、美濃部亮吉さんという
都知事がいたんですけど、
いわゆる環境に優しい知事で、
荒川線というのはバスと違って
電気で走ってるので公害が少ないということで、
「荒川線は残しましょう」と言ったんです。
ーー
知事の一言で。
井上
はい。

もう1つの理由は、
東京の歴史を残そう、ということです。

東京における交通の歴史というのは、
昭和40年代に都電がなくなって
地下鉄ができるまでは、
都電が東京の交通の主役だったんです。

それを何とか残そう、と。
ーー
都電が主役だったんですね。
井上
はい。ただ残すだけじゃなくて、
線路を直したり、停留場をバリアフリーにして
車椅子の方でもスッと乗れるようにしたり。

荒川線だけ残しても
事業が継続できるようにということで、
ワンマン化して、いわゆる合理化もしました。
ーー
そういう取り組みの成果というか、
今もたくさんの方が使われてますよね。
大塚
ええ。

おじいちゃん、おばあちゃんも
たくさん乗ってくださってます。

井上
ま、そういうわけで、
知事の一言がなかったら残らなかったです。

日本の6大都市は、
路面電車を全部やめちゃいました。
ーー
東京だけは残ってるんですね。

その当時の知事さんが
環境に優しかったということですが、
今の都知事の小池さんも、
もともと環境大臣ですよね。
井上
ええ、クールビズを提唱した方ですから。
ーー
そのことで、
地下鉄のほうにも
何か影響などはありますか?
大塚
うーん、
「何をやれ」みたいな話はまだないです。

「2階建ての電車を走らせよう」

とか言ってましたね。

それはすぐには難しいですが、
快適通勤の取り組みが
もうすぐはじまりますよ。
ーー
快適通勤。
井上
7月中旬から
「時差Biz」という企画がはじまる予定です。

通勤時間をずらして通勤ラッシュを逃れて、
快適に通勤しよう、というものです。

企業でも個人でも参加できるので、ぜひ。
ーー
(井上さんのトリビア集をめくって)

すみません、トリビア集に、
上野動物園のモノレールのことが、
書かれてあって、
これもまた気になるのですが‥‥。
井上
はい、お答えしましょう。

ーー
本当に何でもご存知なんですね。
井上
戦後になって経済が活発になって、
道路混雑が激しくなりました。

で、路面電車がだんだん追いやられていきました。

そのときに「交通をどうしようか」となりまして、
「地下に潜る」案と、
「空を飛ぶ」案の2つの案があったんです。

地下といっても、
地下鉄は時間もお金もかかる。

空間ならそんなにお金もかからないし、
何とかできるだろうということで実験したんです。

当時、世界で一箇所だけ、
ドイツで走っていた
モノレールを見に行った人がいて、
「東京でも作れないか」ということで、
実験線を作ることになったんです。

実験が終わったあとも、お客さまがいて、
少しは稼げるようなところがいい、ということで、
上野動物園が候補地になりました。

それと、あの場所はアップダウンが結構あるので、
カーブの実験もできるという利点もありました。

一応、世界で2番目にできたモノレールなんです。

行けば銘板が書いてあります。
ーー
世界で2番目!
井上
車両は新しくなってますけどね。

この技術が、東京モノレールにもいきまして、
前回の東京オリンピック前に
モノレールができたんですよ。

今は完全に実験は終わって、
お遊戯施設になってますけどね。

幼稚園くらいの子どもさんが乗ってくれています。

▲上野動物園にあるモノレール。

ーー
お子さんも喜びそうですよね。
井上
はい。座席定員制なので、
2歳からもきっちりお金をとっております(笑)。
ーー
(笑)

※この取材は、2017年4月に行われました。

(つづきます)

2017-07-23-SUN