「はじめまして」の座談会。
新井さんが数学にめぐりあうまでの
紆余曲折から話ははじまりました。
痴漢と一橋
- 早野
- これまで書かれたものを拝読すると、
大学では法学部に入ったけれど、
法律よりも
「あ、数学おもしろい」と思ったわけですね。
- 新井
- はい。
- 早野
- で、数学を学ぶために留学されたわけですよね。
どうして「アメリカに行こう」と?
- 新井
- 母校の一橋大学は社会科系の大学なので、
数学科がないんですよ。
- 早野
- でも日本にも数学科のある大学はありますよね。
- 新井
- いやあ、入る気がしなかった。
- 早野
- なぜ?
- 新井
- なんでだろう。
その頃ってまさに、
『ヘンタイよいこ新聞』を読んでたころなんですよ。
数学してるか、原宿で遊んでいるか、歌舞伎見てるか。
「うーん、どうすっかな? 自分」と思っていた。
法律はやったけど好きじゃなかったなと思っていたら、
「数学好きなら経済やったら?」って
みんな言うんですよ。
- 早野
- まあ、ふつうそうですね。
- 新井
- でも、経済は全然好きじゃない。それで
「1年間アメリカに数学をしに行きたい」って言ったら、
親は大反対。
「外務省行くんじゃなかったのか!?」って言って。
- 早野
- そういう人生設計だったの?
- 新井
- 大学入ったころ、ちょうど外務省に
何十年ぶりかで女性がキャリアで入ったので、
「じゃ外交官になろうかな」と思って
法学部に入ったんですけど、
大した理由はなかったんです。
何したいか全然わからなかったんだと思います。
とりあえず近所の学校に行こうか、っていうくらい。
痴漢多いから中央線に乗るの嫌だなって思ったんです。
- 早野
- それが一橋を選んだ理由ですか?
- 新井
- はい。実家が小平なので、
家から自転車で通えるのは、
国立音大か武蔵美か朝鮮大学校か一橋か津田塾。
じゃあ一橋か津田塾かなと。
- 糸井
- へぇ、そうなんだ。
痴漢がいるって思うだけで、嫌なんですよね。
- 新井
- 実際、いるんですよ。
特快とか乗ると特にいるんですよ。
だから自転車で行ける大学に行こう、と。
- 早野
- そっか。
女子学生がそういう理由で
進路を狭められることがあるなんて、
ちょっと考えもしませんでした。
それで、どうして一橋からアメリカへ?
すんなり行けたんですか?
- 新井
- 親には大反対されました。
数学なんてダメに決まってるから、やめろって。
親はこう言うわけです。
おまえ中学の数学の先生になんて言われた?
「君は数学だけはできないのだから、
大学までエスカレーター式の女子校に入ったらどうか」
って言われただろうと。
高校の数学は期末試験で35点取ったろうと、ね。
- 早野
- 笑
- 新井
- それで、わかったと。
「1年で帰ってきて、
就職するなりお嫁にいくなりするから、
1年だけ行かせてくれ」って言ったんですよ。
- 早野
- それは大学の3年から4年になるとき?
- 新井
- はい。4年になるとき。
それで父は、都会の大学だといろんな危険があるから、
自分が仕事で行くことのあるイリノイ州ならば、
まわりはトウモロコシ畑だけだし、
大丈夫かなって思ったらしいんです。
でも、長い髪だったのに、短く切らされちゃって。
- 糸井
- つまり男に扮装して。
- 新井
- 男の子に扮装するぐらいな感じで、
「田舎ならいい」って言われたんです。
親はお金が尽きたら帰ってくると思っていたんですが、
留学先で奨学金が出てしまったので、
帰ってこなくても良くなった。
- 糸井
- それで1年の予定が‥‥。
- 新井
- 5年半かな。
- 早野
- アメリカで先生ってどうやって選ばれたんですか。
- 新井
- それねー。前段があるんですよ。
一橋って不思議な大学で、
社会科学には数学の素養が不可欠だ、
という教育方針なので、
数学の先生がいっぱいいるんです。
でも学生は数学の授業を受けないんですよ。
元々、数学が苦手だから文系に来てるので。
なので、数学の授業を受けにいくと、
家庭教師みたいな状態になっちゃう。
先生1人に学生2人とか。
ものすごくいい環境で教えてもらえるんです。
- 早野
- 贅沢。
- 糸井
- 数学が好きだし、おもしろいし、環境はいい、
となったわけだ。
- 新井
- そう。「これが習いたい」って言うと、
先生がそれを習わせてくれるんです。
「数学基礎論っていうのがあるらしいので、
教えてください」って言うと、
幾何の先生なのに、
数学基礎論を勉強して教えてくれました。
「これはこうですか、ああですか」とか聞くと、
「僕もそこまでは詳しくわからないんだよね」と言って、
「アメリカに竹内外史という先生がいる」
と教えてくださった。
「アメリカ行ったら数学基礎論できるよ。
日本には数学基礎論の教室はほとんどないけど」。
そう言われて、「じゃあ行こうかなあ」
と思ったんです。
- 早野
- それがたまたまイリノイとうまくマッチした。
- 新井
- そうそう、そうです。
(つづきます)
2018-05-12-SAT