勝川俊雄+糸井重里 対談
日本の魚は「世界一」じゃない!?
 
第5回
楽しめる「魚ムーブメント」に。
糸井 ぼくは、どうしても「市場の側」の意識が
強いんですけど、
こと「漁業の生産の現場」については、
知らないことって、本当に多いんですよね。
勝川 やはり、情報が届いていないと思います。

消費者のみなさんに
もっと生産の現場を見て知ってもらえたら
いろんな発見があると思うんですが。
糸井 うん、そうでしょうね。
勝川 ぼく、お手伝いで、陸前高田の漁師さんを
東京の居酒屋に紹介して回ったことが
あるんですけど、
自分たちの捕った魚が
どんなふうに店に出されているかを見ると、
みんな、感激するんですよ。
糸井 そういう機会も、なかなかないんですね。
勝川 朝はやく漁へ出て、寒いなか帰ってきて、
市場に並べて「また、こんな値段か」と。

これまで長いこと、
「自分の仕事って、こんな評価なのか」
と思わされてきた漁師さんが
自分の捕った魚を
おいしそうに食べているお客さんを見て、
「60歳も過ぎて、
 はじめて自分の仕事に誇りが持てた」
と言ってくれました。
糸井 はぁー‥‥。
勝川 消費者との接点というのは、
生産者にとって、すごい価値を生むんです。

一方で、消費者のほうも
「俺が今朝、こうやって捕ってきた魚だ」
って説明すると、
ものすごく、おもしろがるんですよ。
糸井 そうでしょうね。
勝川 居酒屋で適当に注文して出てきた魚と、
目の前にいる漁師さんが
今朝、海から捕ってきた魚とでは
味は同じでも
意味は、ぜんぜん違うじゃないですか。
糸井 うん、うん。
勝川 これまで、
生産者と消費者は、分断されてきました。

でも、生産現場のおもしろさを知らないのは
消費者にとってももったいないし、
漁業者も、
もし、自分の仕事の価値を実感できないとすれば
気の毒なことだと思うんです。

だから、両者の接点が
もっとたくさん生まれてきたら、いいなって。
糸井 それは、やればできることなんですか?
勝川 やれば、できます。
ただ漁業者って、けっこう忙しいんです。
糸井 うん、そう思う。
勝川 それに、消費者に届けたいという気持ちは
あるんだけど、
基本的には無口な人が多かったりします。

だから「飲食」が
そういう場を提供できたらといいんですよ。
糸井 ああ、なるほどね。そうだ、そうだ。
勝川 それは、飲食にとってもプラスになります。

福岡の漁師の友人が
捕ってきた魚を寿司屋に卸してるんですが
その店で
お客さんを相手に話をするんですね。
糸井 「こうやって捕ってきたんだよ」と?
勝川 そう、彼が話すようになってから
店の売上が「170%アップ」したそうです。
糸井 おいしい魚に、お話もついてくるから。
勝川 店の人が説明するのではなく、
捕った漁師が説明するから、客がよろこぶ。

おしゃれな音楽が流れてる喫茶店と
ライブで演奏が聴ける喫茶店くらい、
ちがうことなんだと思います、客にとって。
糸井 フェスティバル、というのもいいですよね。

漁業の生産現場に
「魚を食べまくる時間と場所」をつくって、
東京はじめ、他の地域から人を呼んじゃう。
勝川 ああ、ありえますよね。
糸井 去年、気仙沼で「市場で朝めし。」っていう
イベントをやったんです。

それは、立川志の輔さんの落語を聞きに来た
お客さんの前で、
次々と新鮮なサンマを焼いて、食べてもらい、
屋台でお買いものをしてもらって、
おなかをふくらませて寄席に行く‥‥という
イベントをやったんですけど、
そんな感じで、
いろいろな魚を見て話を聞けて食べられたら、
みんな、乗りそう。
勝川 乗ります、乗ります。
やっぱり産地で食べる魚は格別ですから。

ホタテにしたって
東京の店でおいしいホタテを食べるのと、
漁師がナイフでチャッとむいて
「ほら食え」って
自然の塩味で食べさせてもらうのでは
ぜんぜん、ちがいますよね。
糸井 こっちではホタテが食べられて、
そっちでは見たことのない魚が食べられて、
あっちでは
いつもの魚なんだけど
「どうだ、うまいでしょう?」というのが
いろいろ食べられる‥‥フェスティバル。
勝川 うん、うん。おもしろいですね。
糸井 では、今後「こうなったらいいのに」という
勝川さんのビジョンを、
ちょっとお伺いしていきたいと思うんですが。
勝川 そうですね、やっぱり、まずは「資源管理」。

大前提として、
これは「国」がやらなければ、できません。
が、それには「世論の後押し」が必要。
糸井 ノルウェーやニュージランドみたいに。
勝川 だから、本やインターネットなどに書いたりして、
世の中に発信しているんですけど
「大変だ、大変だ」と叫んで回っているだけでは
なかなか、うまくいかないんです。
糸井 ‥‥ええ。
勝川 持続的な漁業を広めていくためには、
応援してくれる消費者が、どうしても、必要。
やはり、消費者が支えなければ、育ちません。
糸井 そうなんでしょうね。
勝川 世界には、水産にも「エコラベル」があって、
持続的な漁業で捕られた水産物には
ラベルを貼りましょうと、なっているんです。

そして、エコラベルの貼っていない水産物は
取り扱わないという小売店が、増えています。
糸井 それは、どこの国ですか。
勝川 日本ではまだですけど‥‥欧米を中心に、世界中で。

次回のオリンピックの開催地は
ブラジルのリオ・デジャネイロですけど、
持続的な漁業で獲られた証である
MSCというエコラベルが貼られた魚以外は
大会のオフィシャルフードとして
提供しないそうです。

2020年に開かれる東京オリンピックだって
同じことが要求されるでしょう。
糸井 ええ、なるほど。
勝川 でも、そうなると、
いまの日本で提供することができるのは
京都のズワイガニとカレイ、
北海道のホタテくらいしかないんですね。
糸井 え、それだけ?
勝川 そのような状況を変えていくために、
消費者のレベルで
持続的な漁業を応援できる枠組みを
つくっていきたいな、と。

来週、アメリカのカリフォルニア州にある
モントレー水族館へ行くんですが、
そこは、そういう取り組みを
1990年代からやっているところなんです。
糸井 水族館が、持続的な漁業のことを。
勝川 まず、魚のリストをつくるんです。

持続性に問題なく安心して食べられる魚、
資源管理が必要な魚、
乱獲されているから食べない方がいい魚。

水族館の近郊にある提携レストランでは
そのリストにのっとって、
モントレーの許可した魚しか、使わない。
糸井 へぇー‥‥。
勝川 海の持続性に関心のある人たちは、
それらの、提携レストランで食事をします。
そうすると、売り上げの何パーセントかが、
水族館のプログラムに寄付される。
糸井 そうやって、
持続性に対する姿勢を示せるんですね。
勝川 そのモントレー水族館が、
毎年5月、
クッキング・フォー・ソリューションズという
お祭りをやってるんです。

それは声高に「食べるな!」というのではなく、
「持続的な水産物を
 食べて楽しむことで乱獲問題を解決しよう」
つまり、
「持続的な水産物って、おいしくて楽しいよね」
というお祭りなんです。
糸井 楽しむっていうのは、いいですね。
勝川 ぼくも、未来のおいしい魚を食べるために、
日本で、そういう場をつくりたいんです。

「消費者運動」と言ってしまうと
ちょっと、息苦しい感じがしてきますから、
「楽しめる魚ムーブメント」にしたい。
糸井 魚好きな日本だったら、できそう。
勝川 やっぱり日本人は、魚が好きですからね。

これからも
おいしい魚を食べ続けたいという意欲は
どこより強いと思いますから
自分も楽しく参加できることがわかったら、
きっと、大勢の人が参加してくれる。

今の漁業のやりかたを変えて、
未来の食卓が、
海の幸で豊かに満たされるような状況を
つくっていきたいと思っています。
<つづきます>
2014-06-20-FRI
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