POSTER 2 1972年 こんにちは土曜日くん。

徳光 土屋さんは、商品広告をするんだけど、
商品広告のコピーを作らない方なんですね。
ライフスタイルを提案した。
ライフスタイルなんて言葉、
まだ、なかった時代です。
ほぼ日 「ライフスタイル」という言葉が、なかった。
徳光 そう、みんな知らなかったんですよ。
けれども、土屋さんと組んでいた伊勢丹研究所には、
世の中が、将来、どういうふうになるかを、
モノを通じて説明しようとする人たちがいたんです。
すごく不思議な女性軍団が。
マツヤマ ふふふ。
徳光 みんな、優秀でした。
会議中に灰皿投げる人もいたけど。
マツヤマ えぇっ?
徳光 話がわからないと、
「何考えてるのよ!」とか言ってね。
やっぱり、男社会でしょう?
デパートって、女性を相手にしてるくせに、
男社会なんですよ。
伊勢丹は、今でも、
女性役員がいないくらいの男社会ですが、
研究所の女性たちっていうのは、
伊勢丹の社員じゃなくて、別会社なんですよ。
しかも社長が直轄。
だから、かなり自由に意見が言えて、
「だめだったら、私、辞めるわよ」
みたいなところがあった。
そういう人たちが、一所懸命ものを言うと、
土屋さんがそれを聞いていて、
広告になり、世の中にどんどん出ていくわけです。
その研究所の女性たちが、
「伊勢丹は、人々の暮らしの中から、
 いろいろなものを提案していこう」
っていうことを考えた。
僕もその会議に下っ端で出てたけれども、
彼女たちが言うんです。70年代の初めでした。
「これからは、週休2日になっていくのよ」。
ほぼ日 じっさいに普及するのはもうすこし後ですよね。
そうとう、はやかったんですね。
徳光 そうなんです。そして、こう言う。
「週休2日になるということは、
 ライフスタイルが変わるのよ?」と。
バイヤーたちを集めてね、
「あんたたち、ライフスタイルが変わった時に、
 今売ってるものと、どう変わるの?」
みたいなことを聞く。
でも、みんなは、わからない。
ほぼ日 たしかに、困っちゃうでしょうね‥‥。
徳光 そんな中、土屋さんから出てきたのが、
このコピーです。

こんにちは土曜日くん。

一着のドレスも、靴も出てこない。
一本のワインも、テーブルも出てこないけれど。
でも、これは確実にデパートの広告です。
1970年代のはじめ、いよいよ週休二日時代がはじまる、
その夜明けを告げたのが、このキャンペーンでした。
メッセージの水面下には、
この言葉を受ける数多くの商品がつづいています。
それは見えていないようで、
でも、すこしづつ見えてくるはずです。

(文:土屋耕一
 伊勢丹社内報 1996年5月号より)

徳光 この年には、サントリーが
「金曜日はワインを買う日」
という提案をしています。
マツヤマ あぁ! 名作って、ずっと言われている
コピーですよね。
徳光 そして伊勢丹研究所も、
「絶対、週休2日になる」
「ライフスタイルが変わる」と。
それを受けて、この広告ができ、
その後伊勢丹は、百貨店でいち早く
会社を週休2日にしたんですよ。
マツヤマ そうなんですね、すごい!
ほぼ日 なるほど‥‥。
「こんにちは土曜日くん。」。
徳光 これは衝撃的なコピーです。
みんな、最初、見た時ね、
「えぇ? これ、コピーですか?」って。
一同 (笑)
徳光 いろんな人がね、
「いやぁ、土曜日に『くん』が付くのは、
 ちょっとおかしいんじゃない?」とかね。
「『こんにちは』っていうのも、
 やっぱり、デパートは
 『おはようございます』じゃないか」とかね。
一同 (笑)
徳光 いろんな意見が出たんだけれど、
伊勢丹の当時の社長、3代目の小菅丹治が、
「これが一番いい」と。
ほぼ日 鶴のひと声で決まったんですね。
徳光 そして土屋さんは、
「こんにちは土曜日くん。」の
ビジュアルをどうしようか
考えてくださったんだけれど、
なかなか決まらなかった。
最後に、小島良平さんって、
いまは亡くなられてしまった方なんだけど、
優秀なデザイナーの方がいらしてね、
「困った時の雲と空」と。
そうしてこのポスターができたんです。
この前に、別バージョンで、
いろんな土曜日の生活の写真を
入れたものもあったんですよ。
それだと、たしかに、社内説明はやりやすい。
「でも、おもしろくない」と、
そこで土屋さんも悩んでいらっしゃったんですね。
けれども原稿用紙に鉛筆で雲と空を描いたとき、
「おぉ!」と。
これで決まりました。
ほぼ日 そういうことだったんですか。
徳光 ここからです、伊勢丹が
「本当のライフスタイル提案型の百貨店になろう」
と、決めたのは。
「土曜日が休みになると、
 どういうライフスタイルになるの?
 そのライフスタイルと共に、
 伊勢丹っていうのは、
 商品を、どんなふうに
 変えていかなきゃけないの?」と。
となると、1つの商品の話じゃないですからね。
これ以後、10年近く、
「こんにちは土曜日くん。」をテーマに、
つまり、本当に週休2日になって、
生活が変わるっていうことを基本に、
いろんなことを提案していったんです。
次の夏のキャンペーンはね、たしか、
「土曜日には汗をながそう」っていう
キャンペーンにしたんですよ。
1972年(昭和47年)はこんな年


・映画 ¥800
・ガソリン(1リットル) ¥58
・牛乳(1本) ¥28
・銀行初任給(大卒) ¥52,000
・米(10kg) ¥1,600


・日本列島改造論
・お客さまは神様です
・恥かしながら
・あっしにはかかわりのねえことでござんす


・サファリルック定着
・ホットパンツ大流行
・ベルボトムジーンズ
・フォークロア調マキシ、スモック


・「若さだよ、ヤマちゃん」(サントリービール)
・「金曜日はワインを買う日」(サントリーデリカワイン)
・「Have a Nice Day」(富士写真フィルム)
・「ケンとメリーのスカイライン」(日産スカイライン)
・「おれ、ゴリラ。おれ、景品。」(明治チョコレート)


・「ぴあ」創刊
・オセロゲーム発表
・パンダブーム
・バイコロジー運動
2013-08-12-MON