徳光 | そして、この頃から、 世の中が景気悪くなっていくんですね。 オイルショックです。 そのとき出てきたのが このコピーです。 |
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![も・め・ん・と・木](images/midashi03.gif)
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石油ショックの大波が日本を襲った。 |
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徳光 | この時、ある百貨店がね、 「今週の○○」という広告を出してたんです。 要するに、電車の中吊りを全部、 週刊誌と同じように、文字だけでやったんです。 「今週の売出」の見出しが、バーッと書いてある。 たとえば、 「夏のワンピース、スリーブレスドレス到着」 「5階では、秋田物産展」とか。 |
ほぼ日 | 文字だけびっしりなんですね。 |
徳光 | 文字だけ。で、それが当たったんですよ。 で、「伊勢丹も、真似しろ」という声が 内部から上がってきた。 |
ほぼ日 | あら(笑)。 |
徳光 | でも、そういうのはね、 土屋さんのところへは依頼が行かないんです。 土屋さんは、 「そうは言うけどね、 そういう広告は長続きするものじゃない。 やっぱり、百貨店は、 売り出しの広告をするんじゃなくて、 ライフスタイルの提案を、 常にずっと続けていくべきだよ。 こうやってオイルショックになった時だって、 人々には暮らしがあるんだから」 ──そんなことを、おっしゃっていた。 |
ほぼ日 | それが、この「も・め・ん・と・木」? |
徳光 | 「も・め・ん・と・木」。 |
ほぼ日 | 木綿や白木。たしかに、 石油に頼らない暮らし。 |
徳光 | 石油ショックに対するアンチテーゼですね。 当時、伊勢丹がというよりも百貨店業界が、 シュリンクして、価格競争になっていった。 そんな時に、ダイエーが出てきた。 百貨店が価格競争したって、 絶対勝てるわけないんです。 だから、オイルを使わないで、 もっと自然のもので、という提案がうまれた。 「それを代表するのが、木綿と木だろう」というのが、 「も・め・ん・と・木」だったんです。 |
ほぼ日 | なるほど。 |
徳光 | じつはね、おもしろい話があるんです。 この時、本当に、伊勢丹の中で、 どういう広告にしようかって、揉めてたの。 対立していてね。 その社内のムードは、土屋さんもご存じだった。 だから、「も・め・ん・と・木」は 「揉めんとき!」のダブル・ミーニングじゃないか、 というのが、ぼくら、宣伝部のなかでの通説でした。 残念ながら、ついに 土屋さんに確認できなかったけれど、 僕はずっとそう思ってた。 |
マツヤマ | 確かにめずらしいんですよ、 土屋さんのコピーで、 短いキャッチの文字の間にすべて ナカグロ(「・」のこと)が入ってるものって、 他にあまり見たことがないので、 何か意味があるんだろうなぁとは 思っていたんですが。 |
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徳光 | きっとそういう意味なんですよ(笑)。 |
マツヤマ | それ、土屋さんっぽいですね。 |
徳光 | ぽいでしょう? もちろん、表の意味はちゃんとあるわけで、 それで成立している広告なので、 あくまでも、想像なんですけれどね。 |
マツヤマ | オイルショックが落ち着いたあとは──。 |
徳光 | もう一度、ファッションだとか、 「週休2日のライフスタイル」に 戻ることを考えていたんですが、 世の中的には、「ニューファミリー」がブームで、 ファッションは、ルーズになってきていたんです。 |
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マツヤマ | あぁ、なるほど。 |
徳光 | みんな、ツナギ着たりね。 伊勢丹もそちら寄りの広告を 出したことがあるんだけど、 土屋さんとしては、それはやっぱり、 許せないわけです。 |
マツヤマ | (笑) |
徳光 | 「やっぱり、ファッションデパートであるべきだ」と。 そして、それは、研究所もそう思っていた。 じっさい、婦人ファッションが営業の主力であると、 この時期、新宿店は、 婦人フロアのリモデルを行なっています。 そんな時に、「ファミリーも大事だけれど、 やっぱり百貨店のお客さんって、女性だろう」 ということで、女性に、 うんとクローズアップしたのが、 これだと思います。 |
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![なぜ年齢をきくの](images/midashi04.gif)
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「なぜ年齢をきくの」というテーマは、 (文:土屋耕一 |
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徳光 | 僕は、土屋さんの作品の中でも 好きなコピーです。 |
マツヤマ | 私も大好きです。 |
徳光 | この後に、土屋さんは、 「洋服は、年齢ではありません。サイズです」 とまで言い切るコピーを書かれる。 潜在的にあるものを顕在化すると、 マーケットになりますよね。 |
ほぼ日 | はい。「みんなが欲しい」と思っているのに 「ない」ものを提案すれば。 |
徳光 | でも、じゃあ何が欲しいものなのか、っていうのは、 みんな、わからない。 でも、なんとなく思ってる。 それを、モノで提案することによって、 「あっ!」って、みんな気が付くわけ。 それが百貨店の仕事です。 だから、「なぜ年齢をきくの」 「洋服は、年齢ではありません。サイズです」 というコンセプトからうまれたのが、 クローバーサイズっていう、 大きいサイズの提案なんです。 |
マツヤマ | あぁ! |
徳光 | それから、ストロベリーサイズ。 |
ほぼ日 | 小さいサイズですね。 |
徳光 | 150センチ以下っていうことで、1・5、 イチゴ。それで、ストロベリー。 今までは、普通の洋服で、3号とか5号とか、 13号とか15号を作ってたんですよ。 「さぁ、大きい人も小さい人もいらっしゃい」と。 ところが、洋服の理想、一番きれいな形からすると、 15号はデザインが間延びするし、 3号では縮まってしまう。 そうじゃなくて、たとえば 「15号を中心とした洋服を作りましょう」 ってことでやったのが、クローバーサイズ。 これが大当たりしたんです。 同じブランドなんだけど、 プリントの柄がちょっと大き目にできてるとかね。 |
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伊勢丹 宣伝部 |
同じブランドでも、クローバー用に作る場合は、 あえて大きめの柄をセレクトしたりしていたようです。 そのほうがスッキリ見えますものね。 「サイズの伊勢丹」と自負しはじめたのは この頃かと思われます。 |
ほぼ日 | ただゆったりしているだけじゃないんですね。 じゃあ、クローバーやストロベリーができたのも、 土屋さんがいたからこそ? |
徳光 | 土屋さんご自身はね、ああいう方ですので、 絶対、自分から、「何を作れ」とか言わない。 ただ、伊勢丹研究所の女性研究員たちとが、 「なぜ年齢をきくの」を受けて、 「今度はサイズよ」と言ってくるわけです。 土屋さんは、できたものに対しては、 「あ、いいね」とかね、 こっそり「ちょっと違うんじゃない?」 とおっしゃるんですけれど。 |
ほぼ日 | そういう往復があって、 あたらしい商品が生まれていくんですね。 |
徳光 | ちょっと余談ですけれど、 伊勢丹がいま紙袋に使っている タータンチェック、 あの誕生の経緯を御存じですか。 これは、我々が習ったことであり、 先輩たちがやったすごいことでもあるんだけれど、 「マーケットを作り出した」例なんですよ。 というのも、いまでこそ当たり前の、 ティーンエイジャーの着る服。 以前は、なかったんですね。 6歳から18歳まで、ずっと「女児服」だった。 |
ほぼ日 | あ、いわゆる子供服。 |
徳光 | で、18歳くらいから、大人の服になる。 |
ほぼ日 | いきなり大人の服になるんですか? |
徳光 | そう、婦人服になるんです。 女性の体形から行くとね、 ティーンエイジャーになると、 ウェストが太いままに、 グッと胸が出てくるんですね。 ウェストが細くなるのは、18歳くらいから。 きっとその時代の女子は、18歳までは、 子供の体型だったでしょうし。今と違って。 |
徳光 | そう、子供の体型のまま、 けれども胸が出てくる年齢の子たちが着るのに、 「女児服」では本来、おかしいんです。 ならば、10代の人たちのための 洋服があってもいいじゃないかっていうので、 ティーンエイジャーショップっていうのを作った。 1956年のことです。 その時に、あのタータンチェックが生まれたんですよ。 ティーンエイジャーショップの洋服の柄として。 |
ほぼ日 | うわあ! |
徳光 | で、当時の人たちが、 「これを伊勢丹のチェック袋にしようじゃないか」 となったのではないかと想像できます。 |
![1974年(昭和49年)はこんな年](images/nenpyo1974.gif)
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・ガソリン(1リットル) ¥98
・大卒銀行初任給 ¥74,000
・牛乳(1本) ¥46
1月・民放、深夜放送中止
4月・「モナリザ展」初日に2万人
8月・三菱重工本社爆発事件
10月・長嶋茂雄、現役引退
・「ニュースセンター9時」
・「傷だらけの天使」
・「エクソシスト」
・「砂の器」
・狂乱物価
・ストリーキング
・超能力ブーム
・サーティワン1号店
・「クイントリックス、あんた外人だろ? 英語でやってごらんよ」(ナショナル)
・「ホッカホカだよおっかさん」(大正製薬)
・「それにつけてもおやつはカール」(明治製菓)
・「なみだの操」(殿さまキングス)
・「あなた」(小坂明子)
・「うそ」(中条きよし)
・「ふれあい」(中村雅俊)
・「学園天国」(フィンガー5)
・「ジャンバラヤ」(カーペンターズ)
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![1974年(昭和49年)はこんな年](images/nenpyo1975.gif)
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3月・山陽新幹線 岡山・博多間開通
4月・ベトナム戦争終結
5月・エリザベス英女王夫妻来日
7月・沖縄国際海洋博覧会開催
9月・天皇・皇后両陛下 初の訪米
11月・第1回(パリ)サミット
・「欽ちゃんのドンとやってみよう」
・「前略おふくろ様」
・「ウィークエンダー」
・「パンチDEデート」
・「大草原の小さな家」
・「刑事コジャック」
・「タワーリングインフェルノ」
・「ジョーズ」
・「エアポート'75]
・「大地震」
・「新幹線大爆破」
・「伊豆の踊子」
・「昭和枯れすゝき」(さくらと一郎)
・「シクラメンのかほり」(布施明)
・「想い出まくら」(小坂恭子)
・「時の過ぎゆくままに」(沢田研二)
・「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」
(ダウン・タウン・ブギウギ・バンド)
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