第8回「『ゆらり‥‥』は無理だろう」

あの、自分も、つんく♂さんの話とそっくりでね。
コピーの仕事を始めたばっかりのころは
ちゃんと向き合わずに、
逃げてばっかりいたんですよ。
なにか、深刻な顔してね、催促されても
「できないですよねー」とかって言って、
「気分転換にちょっと公園に行ってきます」
なんて言ったりして。
いま思うと、なにそれ? って思うんだけど。
(笑)
もう、「そこに座れ!」って言いたくなる。
だけど、当時は本気で公園に行ってたんですよ。
本気でそういうこと思うんですよね。
あの、雑誌とかで読むとね、昔の音楽家が
トイレでふと曲を思いついたとかね、
車に乗っているときに思いついて
それをさらさらってメモしたのがこれです、
みたいなことが書いてあるじゃないですか。
うん、そういう物語を
みんなは望んでるんですよね。
ええ。でも、絶対「ウソやろ」って思う。
(笑)
まあ、ひとつくらいは
そういうこともあったのかもしれないけど、
「ほとんどは机の上で絞っとんのや」みたいな。
そう、机ですよ。だから、
「コピーはどういうときに思いつきますか?」
っていう質問をもう千回ぐらいされてますけど、
だいたい、「机の上で、仕事してるときに」って。
うん。「仕事部屋で」(笑)。
そういうことを答えると、
非常にがっかりされるんですけど(笑)。
たまに海外に行ったりすると、
「海外で曲ができたりしましたか」
とか訊かれるけど、
「いや、ないです」みたいな。
そういうことがひとつでもあったら
なるべく言うようにしたりね(笑)。
でも、一回そういうこと言うと、
今度はそればっかり言われるでしょ?
そうそうそう(笑)。
そんなんじゃないんですよ。
違いますよね。なんですかね。
だから、あの、若いときは
そういうムードに自分もやられちゃうから。
そうなんですよね。
もうひとつ、若いころの失敗で言うとね、
ぼくはメモをしなかったんですよ。
「メモしなきゃ忘れるようなことは
 そもそもたいしたことのないことだ」
とか、えらそうなことを言ってね。
ところがね、ここ数年で
たくさんメモをするようになったらね、
ものすごく役に立つんだ(笑)。
あははははは。
まあね、振り返れますからね。
要するに生な情報っていうか、
そのときドキドキしてるようなことを
メモしておけば、使えなくたっていいんだよ。
そのことをね、若いときからわかっていて
ちゃんとやってる人っているんですよね。
いますよ。
日記とかメモとかね、きちっとしてる人って。
強いですよ、それは。
強いですねー。
あの、なんていうの、
ちゃーんと風呂入って寝る人ね。
毎日、しっかりと同じ時間にね。
それで作曲なんかしてたらね、強いですよ。
強いですよ。効率もいいし。
村上春樹ってそういう作家ですよ。
ああ、そうなんですか。
だから、作家なのに、
フルマラソンにも出られるし、
税務署の申告も書けますし。
朝早く起きて、午前中に仕事して、
で、奥さんが褒めてくれることが
ほとんど唯一の望みっていう。
で、機嫌、別に悪くないし。
いいっすね、人生、
トライアスロンみたいな人ですね。
そういう人にはかなわないと思いますよ、ほんと。
かなわないですね。
あの、時代マンガとかだと、よくさ、
こう、病に冒された浪人みたいな人が出てきてさ、
「ゆらり‥‥」みたいな擬音とともに
人を斬ったりしてるじゃない?
無理だっつーの。
そうそうそうそう(笑)。
ミュージシャン関係だったら
「ゆらり‥‥」っていう人は
けっこういっぱいいるんじゃないですか。
「ゆらり‥‥」に憧れる人とか。
うーん‥‥「ゆらり風」の人はいますね。
あとは、「ゆらり演出」の人とか。
でも、ほんとうに「ゆらり」の人は、
やっぱり2年ぐらいでだめになる(笑)。
やっぱりそうですか(笑)。
はい。まあ、「ゆらり畑」で
そこそこ食ってる人はいるかもしれないですけど。
「ゆらり畑」ありますね(笑)。
あります、あります。
特にミュージシャンゾーンと演劇ゾーンには、
けっこう、「ゆらり畑」が。
「ゆらり畑」には「ゆらり長老」までいるからね。
(笑)
(続きます)

2006-12-25-MON

もどる

(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN