4 落語に貢献したかった。
糸井 仕込みなしかぁ‥‥。
いや、やっぱりその場でジャッジしていくのが
いちばんおもしろいですよね。
鶴瓶 あのね糸井さん、
この前の一門会も、
そういう形式でやったんです。
孫弟子入れると13人おんねんけど、まず、
「おまえら、2席ずつ俺に聞かせろ」と。
それで、13人、2席ずつ聞いて
ぜんいん並ばして、4人選ぶんです。
4人しか選ばれない。
糸井 それは当日にやるんですか?
鶴瓶 そうそう、一門会の当日の舞台の上で。
だから、「AKB方式」(笑)。
糸井 ははははは。
鶴瓶 4人選んで、
それぞれなにを演じるか、
何番目に出るか、
これをぱーっと言ってくんです。
「おまえ『阿弥陀池』、1番トップ」
「2席目『宿題』、おまえ行け」と。
そうすると、緊張しよんですよ。
落ちたやつは残念がってる。
お客さんも、それはおもしろいでしょ?
糸井 だろうね、その緊張感が。
鶴瓶 プロというのは、
「ギリギリまで追い込まれたときに
 どういいものを見せるのか」っていうのが
いちばん大事やとぼくは思うから。
糸井 鶴瓶さん自身が、ずいぶんそうですもん(笑)。
鶴瓶 うん。
だから、『らくごのご』もね、
番組をやる前から「三題噺」はやってたんですよ。
1985年ころからやってるんです、「三題噺」。

※『三題噺』

 観客からもらった
 3つのキーワードを盛り込んで、
 即興で噺を組み立て、演じる、
 落語の形態のひとつ。

糸井 好きでやってたんですね。
鶴瓶 そう、そう。
ぼくは、ちゃんと落語をやってなかったから、
落語にとにかく貢献したかったんですよ。
でも、
こんな大きな頭でやってた人間が、
急に頭が小さなったからいうて、
落語をしだすのも、非常に失礼でしょう。
糸井 アフロだったからね(笑)。

※アフロだった

 1981年ころまでの若手時代、
 アフロヘアーにオーバーオールが
 鶴瓶さんのトレードマークだった。

鶴瓶 それでもやっぱり何かできないかなと、
落語家として何かこう‥‥。
そういう気持ちもあって、
三題噺をやってたんでしょうね。
糸井 うん。
鶴瓶 だから、
最初にABC(朝日放送)のひとに
「こういうのやりたいねんけど」言うて、
三題噺を見てもらうんですけど、
そのときは必死でしたよ。
そこでOKもらわんと
何やってのかわからへんからね。
糸井 そうですね。
鶴瓶 で、「おもしろい」と言ってもらえて、
できることになったんです。
糸井 『らくごのご』が。
鶴瓶 それで、まあ、
落語も衰退してたから、ちょうど。
糸井 そうですね。
今のほうがずっといいですよね。
鶴瓶 そうそう。
今はやっぱり小朝さんにしてもそうやし。
「六人の会」があってね。

※六人の会(ろくにんのかい)

 2003年3月、
 落語の衰退を憂いた落語家6人が、
 所属の流派や落語団体を超えて
 結成した会。
 メンバーは以下の6人。
 ・春風亭小朝 ・笑福亭鶴瓶
 ・9代目林家正蔵 ・春風亭昇太
 ・立川志の輔 ・柳家花緑

糸井 うん、うん。
鶴瓶 大阪では「繁昌亭」ができたじゃないですか。
あのとき、(桂)三枝兄さんと言うたんですよ。
「兄さん、ぼくらでブームや言おう」と。
糸井 落語ブームだと。

※「天満天神繁昌亭」
  (てんまてんじんはんじょうてい)

 大阪市北区にある寄席。
 2006年9月15日、開席。
 上方落語、唯一の寄席。
 公式サイトはこちら

鶴瓶 で、ちょうどテレビドラマの
『タイガー&ドラゴン』もあって。
糸井 ああー、そうだ。
鶴瓶 落語にとって、
どんどんええようになっていきましたよね。

※『タイガー&ドラゴン』

 2005年に放送されたTVドラマ。
 落語をモチーフにした物語で、
 脚本は宮藤官九郎さん。
 出演は、長瀬智也さん、岡田准一さん、
 西田敏行さん、阿部サダヲさんなどなど。
 鶴瓶さんは、元上方落語の天才で
 ヤクザの組長という役を演じる。

 ほぼ日TVガイド
 『タイガー&ドラゴン』編はこちら

糸井 そうだよね、思えば。
鶴瓶 いまはもう、「繁昌亭」なんか
何十万人、突破しましたから。
糸井 へええー、そうですか。
鶴瓶 だから‥‥どうしても、
落語に貢献したいっていう気持ちは、
ずうっとあるんですよ。
糸井 出生地は落語ですもんね。
鶴瓶 その、『らくごのご』という
フリーなものをやりだしたというのは、
何かどこかに、あったんでしょうね。
落語に貢献するいうのが。
すべてフリー。
『らくごのご』もフリー、
『パぺポ』も、しゃべるのフリー、
それから、『家族に乾杯』もフリー、
『きらきら』もフリー。
糸井 あ、そうか。

※『きらきらアフロ』

 「テレビ大阪」制作の、
 トークバラエティ番組。
 出演者は鶴瓶さんと
 松嶋尚美さん(オセロ)のふたり。
 もちろんすべて即興、台本はなし。

鶴瓶 『スジナシ』もフリーと。
すべてフリーの状態というのが
いちばんええのちゃうかなって。
糸井 それにしては、
「映画」っていう、
フリーじゃないものを混ぜましたよね。
鶴瓶 そう、そうですね。
糸井 あれで鍛えましたか、また(笑)。
鶴瓶 だから、あれはいい映画に出たいうかね、
『ディア・ドクター』と、
それから今回『おとうと』という、
山田洋次さんとやっぱり西川さん。
映画いうのは監督のもんですよ。

※『おとうと』

 山田洋次監督作品(2010年)。
 鶴瓶さんは吉永小百合さんの
 「おとうと役」を演じた。

公式サイトはこちら

糸井 このままやってればうまくいくときに、
鶴瓶さんは、
邪魔するものを必ず入れますよね?
鶴瓶 ぅふっふ(笑)。

なんか、そやけど、昔から
それがあると次、クリアできるいうんか。
糸井 このままじゃいけないって気持ちがあるんですね。
鶴瓶 もうずっとありますね。

(つづきます)
 
2011-01-04-TUE
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