鶴瓶 |
いや、だからね、
なにも怖がることはないと思うんですよ。
たとえば「スジナシ!」でも。 |
糸井 |
鶴瓶さんを信じて、
「面」を打っていけば大丈夫(笑)。 |
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鶴瓶 |
うん。
台本なしの打ち合わせなしや、言うても
いちばん自分が観たいものを
素直にみせたらええねんから。 |
糸井 |
‥‥まあ、
それがたいへんなんでしょうけど(笑)。 |
鶴瓶 |
そこは恥をかいてもいいじゃない、と。
お客さんかて、
そういうドキドキをわかる人が
観に来んねんから。 |
糸井 |
ああー、なるほど、
それはたしかにそうですね。 |
鶴瓶 |
「スジナシ!」なんかは、
ぶっつけ本番を、
お客さんがたのしみにしてくれてるんやから。 |
糸井 |
望んでいるお客さんがいるから。 |
鶴瓶 |
そう。
‥‥そういうことでいうと、
落語はね、しんどいときがありますよ。
飛び入りで寄席に出たりすると、
客席には「おまえを望んでない人」が
ぎょうさんおりますからね。 |
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糸井 |
わかります。
そうなんです、そうなんですよね。 |
鶴瓶 |
「おまえを望んでないのに、
たまたまテレビ出てるから、
売れてるからいうてなんや」みたいな。
まあ、ちょっと斜に構えてる
お客さんもいてるわけですよ。
「おまえ、どんなんやねん」と。 |
糸井 |
うん。 |
鶴瓶 |
そういうひとたちの中で、
愛されないとダメなんですよ。
だから、出るときはいつもドキドキしてます。
「愛されよう」
という思いをちゃんと持って出て行く。
それだけで十分やと思いますね。
で、そのなかでちょっとだけ無茶をして、
「ああ、こいつはやっぱり無茶もしよんな」
というのをみせるんです。 |
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糸井 |
なるほどねぇ‥‥。
で、あとは始まっちゃったら、
斜に構えてる人のことは、ぜんぶ忘れますよね。 |
鶴瓶 |
ふっふっふ。
そう、そうやね(笑)。 |
糸井 |
あれは大切だと思うんですよ、
忘れちゃうのは。
鶴瓶さんは落語出身だけど
ぼくはなんの出身でもないから、
若いころは「おまえを望んでない」というひとを
どうしたらいいかわからなかった。 |
鶴瓶 |
ほぅ、そうですか。 |
糸井 |
「おれを好きじゃない人を
おれはどうすればいいんだろう」
っていうのを考えて、
けっきょく「斜」対「斜」でやってた時代が
けっこう長かったんです。 |
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鶴瓶 |
ふーん。 |
糸井 |
「おれだって別に
おまえのことはどうだっていい」
ってなっちゃうと、
それは自分も苦しいし、
相手も苦しい。
いいことは、なーんにもないんですよね(笑)。 |
鶴瓶 |
だからね、ぼく、
落語をあらためてやったときに、
「扇子」というものは、
「ここから入ってきたらあかんよ」
という意味での「扇子」やって、聞いたんですよ。 |
糸井 |
なるほど。 |
鶴瓶 |
「おれの世界やから」っていう。
でも、おれはもう、そうじゃないなと。
「どこでも入っといで」と。
だから出方も変えたんですよ。
はじめは向こう見て、びしっとして、
「あ、こいつ、落語の世界で
様子をつくってんな」っていう。
そういう型のほうがいいかなと思ってた。 |
糸井 |
うん。 |
鶴瓶 |
でも、いまはもう、出てきたら、
お客さんに向かって笑いますから(笑う)。 |
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一同 |
(笑) |
鶴瓶 |
そっちのほうがいいんですよ。
そっちのほうが。
愛されたいという気持ちで、ワッと笑う。
噺が終わったあとも、
とにかくよろこんでもらったことに対して、
「かわいく降りよう」と。 |
糸井 |
うん、うん。 |
鶴瓶 |
もうなんというか‥‥ええかっこしない。 |
糸井 |
いっしょの場を作るんだもんね、
お客とね。 |
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鶴瓶 |
うん。
でも、「ここから入らないで」というのの
カッコよさも、
落語にはあるんですけどね。 |
糸井 |
談志さんがそれをよくやりますよね。 |
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※立川談志(たてかわだんし)さん
1936年、東京生まれ。
落語立川流、家元。
16才で柳家小さんに弟子入り。
1963年真打に昇進。
1966年、日本テレビ『笑点』を発案。
3年間司会者を担当する。
1971~1977年、参議院議員を務める。
1983年、落語協会を脱会。
「落語立川流」を創立。
その家元となり現在に至る。
「天才」と称される
様々なエピソードを持つ一方で、
破天荒な言動で話題を集めることも。
公式サイト、
「地球も最後ナムアミダブツ」はこちら。

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鶴瓶 |
そうそうそう。
でも談志師匠はそれをやるかわりに、
終わったあとが、かわいらしい(笑)。 |
糸井 |
そうなんだよねぇ(笑)。
談志さんはまず、
ちっちゃすぎる声でしゃべりだして、
「よーく聞かないとわかんねえよ!」
ってやっといて、
だんだん声を大きくしてって、
最後の「ありがとうございました」の‥‥
あれは「追い出し」っていうんですかね?
つまり、終演後に
ずーーっとしゃべってるの(笑)。 |
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※追い出し(おいだし)
・寄席の終演のこと。
「ハネる」とも言う。
・寄席で終演後に叩かれる太鼓のこと。 |
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鶴瓶 |
そう。
すべての表現のしかたを持ってるから、
あの人はね。
ほんとに、すごいひとやなぁと。 |
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糸井 |
自分で考えたことが、
いっぱいありますよね。 |
鶴瓶 |
そうそう。
だからすごいんですよ。
「談志流」でやるっていうのは。
(つづきます) |