鶴瓶 |
あの、でもね、
ほんまに『A-Studio』のときはね、
会議室まで自分で行って
「事前アンケートを無しにしなかったら、
ぼく、この番組、しないですよ」
って言うたんですよ。 |
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糸井 |
行ったんですね会議室に。 |
鶴瓶 |
うん。
そこはやっぱり行かないと。 |
糸井 |
そうですよね、そこは大事ですよね。
‥‥だからぼくは鶴瓶さんと、
そういう会議がしたかったんだ。 |
鶴瓶 |
んふふっ(笑)。 |
糸井 |
その会議では、
ほかにどんなことを話したんですか。 |
鶴瓶 |
あの‥‥『A-Studio』では、
本番の前に、取材をするんですよ。
ゲストの周りの人に、ぼくが会いに行く。
そのことについて会議では、
「取材は写真だけでいい」って言いました。
「ビデオ回さんでいい」と。 |
糸井 |
ほぅ‥‥。 |
鶴瓶 |
ビデオが回ってなかったら、
言ったらいかんことを
言わはるかもしれないけども、
聞くのは、おれやから。 |
糸井 |
うん、うん。 |
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鶴瓶 |
言ったらあかんことは、
削ぎ落とすことができるんです。 |
糸井 |
鶴瓶さんが編集できる。 |
鶴瓶 |
そう。
ビデオが回ってると
それがすこし、むずかしくなるんです。
たとえばね、
素人のかたと話してると
「さいきん離婚して」みたいなことを
カメラの前で言ってしまう人もいるんですよ。
そこは、むやみに放送したらあかんでしょ? |
糸井 |
その通りだと思います。 |
鶴瓶 |
ええことばっかり言いたいわけじゃなくてね。
ときにはダーティな部分を話すこともありますよ。
「ここまで言えば、この人が出る」
というときには、ちゃんと話します。
でも、その人のためにならないことは、
わざわざ言うことはないんです。 |
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糸井 |
そうですよね。 |
鶴瓶 |
写真だけの取材なら、
そういう加減を自分でぜんぶできるんですよ。
ぼくのフィルターを通して、
「こんなことを言ってましたよ」って、
ゲストに伝えられるのが、
やっぱりちょうどいいんです。 |
糸井 |
うん、そこですね。
そこがたぶん、
ぼくが鶴瓶さんをみていて、
「あ、自分と同じだな」と思う場所なんです。
つまり、
テレビとか取材とかっていうのはふつう、
「誰にも言わないことを
ぼくだけに言ってくれましたね」
っていうのをよろこぶんでしょうけど、
ぼくはそれ、どっちでもいいんですよ。 |
鶴瓶 |
うん。 |
糸井 |
ふたりでおもしろい世界をつくれればいいんです。 |
鶴瓶 |
そう。 |
糸井 |
「実はこの人、こんなに暗いんです」って、
そんな言い方をしたって、誰もうれしくない。
そういうことを言わなくても、
その人の、すごみとか、暗さも、
ちゃんと引き出せるじゃないですか。 |
鶴瓶 |
そうそう。
だからね、さっきの話、
素人さんが「さいきん離婚して」と
無防備に言うてくれたところを、
「これおいしい!」と思って放送しようとする。
そんな‥‥そんなバカなことはない、と。 |
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糸井 |
そう! |
鶴瓶 |
油断して、
素人さんは油断して、
おれにしゃべってくれてんのに、
それはぜったいに放送したらあかんよ、と。 |
糸井 |
うん、そうそうそう。 |
鶴瓶 |
「それ流したらほんまに怒るよ」
って言うてるんです。
とくに、新しくその世界に来た人は、
「あ、これおいしい」と、思うてしまうからね。
それは「おいしくないよ」いうことを、
教えてあげるようにしないと‥‥。 |
糸井 |
そうなんですよねえ‥‥。 |
|
鶴瓶 |
たまたまそれがおいしいと思うんやろけど、
そんなことはぜんぜんダメ。 |
糸井 |
うん。 |
鶴瓶 |
そりゃ、交通事故を見る瞬間には
「ウワーッ!」と思いますよ、
だれでも野次馬やから。
しかし、長くは見てられない。
いいこと、たのしいことのほうが、やっぱり‥‥。 |
糸井 |
うん。 |
鶴瓶 |
あの‥‥
「ネアカ元気でへこたれず」っていう
ことばがあんねんけどね。 |
糸井 |
ああー。 |
鶴瓶 |
「ネアカ元気でへこたれず」。
やっぱり明るい気持ちでないと。
暗いものって、へこたれてしまうんです。 |
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糸井 |
いったん目は行くんですよね、
暗いものに。 |
鶴瓶 |
うん、そうそうそう、
パンと目は行くのよ。
幸せじゃない人を見るとラクになるから。
「あ、おれは幸せや」と思って見んねんけど、
やっぱりね、それは、
そんなにずっとは見てられない。 |
糸井 |
その循環になっちゃうんですよね。 |
鶴瓶 |
うん。
もっとすごいの見たいって思うからね。
もっと血が出てるもの見たいとか。 |
糸井 |
なるなる。 |
鶴瓶 |
だから、報道なんかでも、
もうええやんと思うこと、ありますよ。
誰かと誰かががケンカしたとか。
もう、ええやん。
それがどんなんだったかなんて、
もう、そんなん、知らん。 |
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糸井 |
どこまで知りたいんだって。 |
鶴瓶 |
きりがないでしょう?
知ったかて、なんにもならない。
ほかの事件でもそうやけど、
えげつない、暗い話を‥‥朝から流されて。
そんなんが人の家の茶の間に、
テレビつけたらパッと飛び込んでくるんですよ。 |
糸井 |
むかし、地獄絵巻を見せてね、
「悪いことしたらこうなるよ」
ってやってたことのかわりを、
いまはテレビがしてるんですよね。 |
鶴瓶 |
そうなんやろうねぇ。
でも、やっぱりちょっとフィルターをかけないと。
‥‥あのね、
ええことばっかりテレビで放送してくれとか、
そういう意味じゃないですよ。 |
糸井 |
うん、わかります。
つまり、
嫌なことを100回言っているあいだに、
「これがいいんじゃないか」
と思うことをひとつやりはじめれば、
そのひとつは、
100の嫌なことよりも強いということですよね。 |
鶴瓶 |
そうそう。
だから、
「ネアカ元気で、へこたれず」。
これやと思うんですよ、ぼくはね。 |
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(つづきます) |