8 ネアカ元気で、へこたれず。
鶴瓶 あの、でもね、
ほんまに『A-Studio』のときはね、
会議室まで自分で行って
「事前アンケートを無しにしなかったら、
 ぼく、この番組、しないですよ」
って言うたんですよ。
糸井 行ったんですね会議室に。
鶴瓶 うん。
そこはやっぱり行かないと。
糸井 そうですよね、そこは大事ですよね。
‥‥だからぼくは鶴瓶さんと、
そういう会議がしたかったんだ。
鶴瓶 んふふっ(笑)。
糸井 その会議では、
ほかにどんなことを話したんですか。
鶴瓶 あの‥‥『A-Studio』では、
本番の前に、取材をするんですよ。
ゲストの周りの人に、ぼくが会いに行く。
そのことについて会議では、
「取材は写真だけでいい」って言いました。
「ビデオ回さんでいい」と。
糸井 ほぅ‥‥。
鶴瓶 ビデオが回ってなかったら、
言ったらいかんことを
言わはるかもしれないけども、
聞くのは、おれやから。
糸井 うん、うん。
鶴瓶 言ったらあかんことは、
削ぎ落とすことができるんです。
糸井 鶴瓶さんが編集できる。
鶴瓶 そう。
ビデオが回ってると
それがすこし、むずかしくなるんです。
たとえばね、
素人のかたと話してると
「さいきん離婚して」みたいなことを
カメラの前で言ってしまう人もいるんですよ。
そこは、むやみに放送したらあかんでしょ?
糸井 その通りだと思います。
鶴瓶 ええことばっかり言いたいわけじゃなくてね。
ときにはダーティな部分を話すこともありますよ。
「ここまで言えば、この人が出る」
というときには、ちゃんと話します。
でも、その人のためにならないことは、
わざわざ言うことはないんです。
糸井 そうですよね。
鶴瓶 写真だけの取材なら、
そういう加減を自分でぜんぶできるんですよ。
ぼくのフィルターを通して、
「こんなことを言ってましたよ」って、
ゲストに伝えられるのが、
やっぱりちょうどいいんです。
糸井 うん、そこですね。
そこがたぶん、
ぼくが鶴瓶さんをみていて、
「あ、自分と同じだな」と思う場所なんです。
つまり、
テレビとか取材とかっていうのはふつう、
「誰にも言わないことを
 ぼくだけに言ってくれましたね」
っていうのをよろこぶんでしょうけど、
ぼくはそれ、どっちでもいいんですよ。
鶴瓶 うん。
糸井 ふたりでおもしろい世界をつくれればいいんです。
鶴瓶 そう。
糸井 「実はこの人、こんなに暗いんです」って、
そんな言い方をしたって、誰もうれしくない。
そういうことを言わなくても、
その人の、すごみとか、暗さも、
ちゃんと引き出せるじゃないですか。
鶴瓶 そうそう。
だからね、さっきの話、
素人さんが「さいきん離婚して」と
無防備に言うてくれたところを、
「これおいしい!」と思って放送しようとする。
そんな‥‥そんなバカなことはない、と。
糸井 そう!
鶴瓶 油断して、
素人さんは油断して、
おれにしゃべってくれてんのに、
それはぜったいに放送したらあかんよ、と。
糸井 うん、そうそうそう。
鶴瓶 「それ流したらほんまに怒るよ」
って言うてるんです。
とくに、新しくその世界に来た人は、
「あ、これおいしい」と、思うてしまうからね。
それは「おいしくないよ」いうことを、
教えてあげるようにしないと‥‥。
糸井 そうなんですよねえ‥‥。
鶴瓶 たまたまそれがおいしいと思うんやろけど、
そんなことはぜんぜんダメ。
糸井 うん。
鶴瓶 そりゃ、交通事故を見る瞬間には
「ウワーッ!」と思いますよ、
だれでも野次馬やから。
しかし、長くは見てられない。
いいこと、たのしいことのほうが、やっぱり‥‥。
糸井 うん。
鶴瓶 あの‥‥
「ネアカ元気でへこたれず」っていう
ことばがあんねんけどね。
糸井 ああー。
鶴瓶 「ネアカ元気でへこたれず」。
やっぱり明るい気持ちでないと。
暗いものって、へこたれてしまうんです。
糸井 いったん目は行くんですよね、
暗いものに。
鶴瓶 うん、そうそうそう、
パンと目は行くのよ。
幸せじゃない人を見るとラクになるから。
「あ、おれは幸せや」と思って見んねんけど、
やっぱりね、それは、
そんなにずっとは見てられない。
糸井 その循環になっちゃうんですよね。
鶴瓶 うん。
もっとすごいの見たいって思うからね。
もっと血が出てるもの見たいとか。
糸井 なるなる。
鶴瓶 だから、報道なんかでも、
もうええやんと思うこと、ありますよ。
誰かと誰かががケンカしたとか。
もう、ええやん。
それがどんなんだったかなんて、
もう、そんなん、知らん。
糸井 どこまで知りたいんだって。
鶴瓶 きりがないでしょう?
知ったかて、なんにもならない。
ほかの事件でもそうやけど、
えげつない、暗い話を‥‥朝から流されて。
そんなんが人の家の茶の間に、
テレビつけたらパッと飛び込んでくるんですよ。
糸井 むかし、地獄絵巻を見せてね、
「悪いことしたらこうなるよ」
ってやってたことのかわりを、
いまはテレビがしてるんですよね。
鶴瓶 そうなんやろうねぇ。
でも、やっぱりちょっとフィルターをかけないと。
‥‥あのね、
ええことばっかりテレビで放送してくれとか、
そういう意味じゃないですよ。
糸井 うん、わかります。
つまり、
嫌なことを100回言っているあいだに、
「これがいいんじゃないか」
と思うことをひとつやりはじめれば、
そのひとつは、
100の嫌なことよりも強いということですよね。
鶴瓶 そうそう。
だから、
「ネアカ元気で、へこたれず」。
これやと思うんですよ、ぼくはね。
  (つづきます)
 
2011-01-10-MON
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