お久しぶりです、鶴瓶さん!
ほぼ日には2011年以来、
8年ぶりのご登場となる笑福亭鶴瓶さん。
たっぷり糸井と語ってくださいました。
人気番組『家族に乾杯』のこと。
52年ぶりの同窓会のこと。
ももクロのこと。うれしかったことばのこと。
そして、鶴瓶さんの愛する落語のこと。
気心のしれた者同士、ふたりの会話は
軽やかにポンポン飛びはねていきます。
いっぱいしゃべって、いっぱい笑って、
途中、いっしょに給食もいただきました。
できることならずっと聞いていたい、
ふたりの「いま」が詰まったフリートークです。
深く、ゆるく、全9回。どうぞ!
- 鶴瓶
- 最近、ほんま思うねんけど。
- 糸井
- うん?
- 鶴瓶
- おおざっぱにいうと、あれや。
生きてんのって、おもろいな。
- 糸井
- おもしろいねぇ。
- 鶴瓶
- だから、あのことば。
「鶴瓶さんは、骨惜しみしない」っていう。
あのことば、ええね。
- 糸井
- ああ、「今日のダーリン」の。
※参考:2018年11月2日の「今日のダーリン」
- 鶴瓶
- あのことばはすばらしい。
俺、あれ読んで
「骨惜しみしたらあかん」と思ったもん。
そのころちょうど、
落語の「徂徠豆腐(そらいどうふ)」を
もっとかためよう思ってたんよ。
だから、あれ読んだあと、
『家族に乾杯』のロケ終わりやったけど、
広島から東京にもどる途中に
弟弟子に電話して
「7時46分にそこ着くから、
きょうの8時10分の高座にあがらせてくれ」
言うたもんね。
- 糸井
- はぁーー。
- 鶴瓶
- けっきょく「徂徠豆腐」はやらんかったけど、
高座にはあがったんよ。
やっぱり「骨惜しみしたらあかん」と思って。
- 糸井
- すごいなぁ。
- 鶴瓶
- あと、そうや(笑)。
- 糸井
- ん?
- 鶴瓶
- いやね、ちょっと話かわるけど、
きのう、ある落語会に飛び入りしたんよ。
- 糸井
- うん。
- 鶴瓶
- それが終わって、
どこかで打ち上げしよってなって、
みんなでたまたま入った店があったんです。
まあ、場所はひかえましょう。
ある町にある「まほろば」いう店です。
- 糸井
- それは東京?
- 鶴瓶
- いや、東京やないんです。
その「まほろば」いうところで飲んでたら、
しらないオッサンがからんできたんよ。
別にこっちは怒ってないんやけど、
あまりにガーーってくるから、
ちょっと冗談まじりに
「ちょっとママ、この人連れてって、
かなんわ」言うたんです。
そうしたら「なんでそんなこと言うねん!」って、
もっとからんできはって。
- 糸井
- あらら。
- 鶴瓶
- だから「ごめんなさい、冗談なんです。
すみませんね」言うたんやけど、
その人どんどん怒ってもうて、
店のなかでちょっとした騒ぎになったんです。
まあ、ただの酒ぐせ悪いお客さんやってんけど、
ママも間に入ってきて、その人に
「ごめんね、ヘンな思いさせて」ってなだめて、
ほんでなんとなく収まったんです。
で、俺も時間が遅いからいうことで、
その「まほろば」いう店を出たのよ。
そうしたら表にちょうどタクシーがおって、
それに乗ろうとしたら、
急に店のドアが「バン!」ってあいて、
さっきのオッサンが
「なにが気に入らんねん!」って言うてるんよ。
- 糸井
- それは鶴瓶さんに?
- 鶴瓶
- いやいや、なんか、
店にいた常連の人ともめたみたいで、
表でとっくみあいのケンカになってんのよ。
そんで俺「あかん、あかん!」って、
タクシー止めたままで、
ふたりの間にグワーー入っていって、
もみくちゃにされながらケンカ止めたんよ。
もうね、次の日起きたら、肩の筋肉パンパンや。
- 糸井
- 筋肉痛になったんだ(笑)。
- 鶴瓶
- それで、なんとかケンカも収まって、
タクシーの運転手さんも待ってくれてたから、
そのまま乗って帰ったんです。
そんとき運転手の人が
「あそこ、週2回はもめてるんです」って。
- 糸井
- そういうところなんだね(笑)。
- 鶴瓶
- 「あそこは『まほろば』やない『修羅場』や」って。
- 糸井
- あはははは、うまい。
- 鶴瓶
- 俺、こんなんばっかり(笑)。
俺いくとこ、なんでこんなもめんのって。
- 糸井
- それは、じぶんから「鶴瓶噺」のネタを
つくりにいってるんじゃないの?
- 鶴瓶
- そりゃあ、ネタにはなるよ。
なるけど、あんた、
そんな動機でケンカ止めにいける?
ひとつまちがえたら、俺、ボッコボコや(笑)。
- 糸井
- そりゃそうだ(笑)。
でも、やっぱ鶴瓶さんの話は、
言い方はおおげさだけど、
「いのち」かかってますよね。
- 鶴瓶
- そら、かかってるよ。ほんまの話やからね。
- 糸井
- ぼくが相談役をやってる会社で、
手編みのセーターをやってる会社があるんです。
人の手で編んだセーターと、
機械で編んだセーターを比べたとき、
いまの人ってやっぱり、
手編みのセーターをほしがるじゃないですか。
- 鶴瓶
- まあ、そうやろね。
- 糸井
- 手編みのセーターには、
かならず編んだ人の手と時間がかかってるわけで、
その人の人生のある時間を、
そのセーターに注いだわけです。
そういうセーターはやっぱりいいなあって思うし、
大切に着たいと思いますよね。
- 鶴瓶
- うん、思う、思う。
- 糸井
- それは手編みのセーターだけじゃなくて、
いろんな他の仕事にしたって
「いのち」かかってるものを、
人はよろこぶんだと思うんです。
鶴瓶さんがしてくれる話も、
ちょっと笑っちゃうんだけど、
じぶんのからだと時間を惜しみなくかけてるから、
手編みのセーターに似たうれしさがありますよね。
- 鶴瓶
- だから逆を言うと、
そんな人があんまりいないってことやね。
いまの時代。
- 糸井
- いない、いない。
- 鶴瓶
- 俺もべつに、
火中の栗をじぶんでひろいに
行ってるつもりはないんよ。
そやのに、気づいたら危険なほうに(笑)。
- 糸井
- なんなんだろう(笑)。
- 鶴瓶
- 『家族に乾杯』なんかもそうや。
なんかそっちのほうに行くし、
行くとなんか起きる。
- 糸井
- 起きる、起きる。
- 鶴瓶
- 手編みのセーターかぁ‥‥。
ああ、ほんまそのとおりやわ。
- 糸井
- でしょう。
- 鶴瓶
- 量産もでけへん。
- 糸井
- 大量生産品とはちがいますね。
手編みだからこそ洞窟でも編めるし、
島に漂流しても毛糸があればつくれちゃう。
どこいっても編めるし、つぶれることもない。
いちばん小さい単位って、
それ以上つぶしようがないんです。
そもそも落語がそういうものだから。
- 鶴瓶
- そうそう、そうやわ。
- 糸井
- だからやっぱり、
なんかそういうところに鶴瓶さんの
おもしろさの大本があるような気がする。
- 鶴瓶
- ああ、なるほど。
あんたもいろいろ考えるな、ほんま(笑)。
(つづきます)
2019-02-08-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN