- ──
- 自分は、人間の「顔」というものに、
とても興味があるんです。
- 山﨑
- ん?
- ──
- いや、誰かに興味を持つときも、
なんとなく共感できないなってときも、
顔が大きな仕事をしている気がして。
- 山﨑
- うん。まずは、顔だよな。たしかに。
- ──
- 山﨑さんのことで言うと、
『早春スケッチブック』のころのお顔が、
いちばん好きなんです。
- 山﨑
- あ、そ。
- ──
- はい、あのときの山﨑さんは、
ほんと、かっこいいなあって思います。
- 山﨑
- そうですかね。
- ──
- 俳優さんの場合、やっぱり、
顔がひとつの看板なんだと思います。
山﨑さんは、ご自分のお顔のことは、
どのように思われていますか。
- 山﨑
- ぼくは、あんまり理屈っぽいことは
考えないけど、ただ、嫌いです。
- ──
- 嫌いですか。
- 山﨑
- うん。自分の顔は嫌いだな。
だから、
鏡を見るのも好きじゃないんだけど、
なぜだか、
そういう商売になっちゃってるけど。
- ──
- そうですよね(笑)。
- 山﨑
- 不思議‥‥いや、不思議でもないか。
だから役者になったのかもしれない。
- ──
- 顔が嫌いだったから?
- 山﨑
- 自分じゃない人物になるんだからね。
俳優って商売は。
- ──
- ああ‥‥なるほど。
嫌いだから、どうしようってことは、
とくにありませんか。
- 山﨑
- ないねえ。これ以上、しょうがない。
生命と一緒で与えられたもんだから、
これと、どうにか、
付き合ってかなきゃいけないですよ。
- ──
- はい(笑)。
- 山﨑
- この顔と付き合っていくって人生を、
なるだけおもしろく、
楽しんでいかなきゃだめだなあって、
思ってますよ。
- ──
- 顔、という言葉で思い出す人に、
伊丹十三さんがいます。
で、自分は伊丹さんにもあこがれます。
いまから思えば、
それほど長くはなかった生涯なのに、
俳優、映画監督の他にも
エッセイストであり、絵もお上手だし、
あれだけいろんな「顔」を持っていて、
で、そのどれもが一流で。
- 山﨑
- ええ。
- ──
- ある時期、
一緒にいらした山﨑さんから見て、
伊丹さんって、
どういう人だったと思われますか。
- 山﨑
- 才気の人。
- ──
- 才気。
- 山﨑
- これは、池澤さんが書いてるんだけど、
若いころから、才能を発揮して、
きらきら輝いてて、とにかく目立って。
で、そういう才気の人の晩年は、
なぜだか「不幸」なんだ‥‥って文章を、
夏樹さんが、書いてるんです。
- ──
- 不幸、ですか。
- 山﨑
- うん。
- ──
- あの、エッセイですとか、
残されたテレビ映像なんかを見ていると、
「陽気」と言ったらいいのか、
いつも楽しそうなおじさんというような
イメージを抱くんですが‥‥。
- 山﨑
- よく読むと、そうでもないよ。
- ──
- そうですか。
- 山﨑
- 彼の書いた文章、エッセイのなかに
「自分には何にもない、
寿司屋に行ってどう勘定を払うか、
どうやって女を口説くか、
そういう、
自分の中の個性みたいなものは、
ぜんぶ、
誰か他人から教わったもなんだ」
って、そういうのがある。
- ──
- はい。
- 山﨑
- だから、自分は「空っぽ」なんだと、
そう書いてるエッセイがあるんです。
でね、そのことは、
ぼくは、当たってるような気がする。
- ──
- そう思われますか。
- 山﨑
- うん。そういうことを書く人だった。
あれ、30代のころに書いたんじゃないかと
思うんだけど、
つまりね、
30代でそんなことを書く人だったんだ。
- ──
- それも「才気」ですね。
- 山﨑
- そう、そんな若いうちから、
自分は空っぽの存在なんだ‥‥なんて。
個性だとか、何だとか、
自分でそうやって思い込んでるものは、
すべてあとから仕入れたもので、
もともと、そんなものはないんだって。
- ──
- はい。
- 山﨑
- だから、他人から教えてもらったり、
外から取り入れたもので、
空っぽの自分を埋めてるんだ、って。
- ──
- 一見、楽しげで陽気に思えるけど、
伊丹さんという人は、
どこかに、そういう思いを持っていたと。
- 山﨑
- そう思う。
- ──
- どれくらいのお付き合いだったんですか、
山﨑さんと、伊丹さんは。
- 山﨑
- どうだろう、けっこう長かったですよね。
最後はケンカしたけど。
- ──
- え、そうですか。
- 山﨑
- うん、まあ、ケンカっていうかね、
うまくいかなくなって。
- ──
- そうでしたか。
- 山﨑
- でも、このあいだ、
伊丹さんの記念館があるでしょう。
- ──
- はい、愛媛の松山に。
- 山﨑
- いいところだね、あそこ。
- ──
- はい、いつ行っても、
愛情に溢れているなあと感じます。
宮本信子さんはじめ、
まわりの人の、伊丹さんに対する。
- 山﨑
- そうだよね。
- ──
- 伊丹さんへの愛情に溢れていて、
静けさと風と光に満ちていて、
すてきな場所だなあと思います。
- 山﨑
- この間、その記念館へ行ってね。
- ──
- はい。
- 山﨑
- 仲直りしてきたんだ。
- ──
- 伊丹さんと?
- 山﨑
- そう。
- ──
- わあ、よかったです(笑)。
<つづきます>
2018-05-21-MON