- ──
- これはただの勝手なイメージですけど、
演技を拝見したり、
エッセイを読んだりするにつけ、
山﨑さんって、
厳しいお方なのかなと思っていました。
- 山﨑
- 若いころは「戦い」だったから。
そういうことも、あったかもしれない。
- ──
- 戦い、ですか。
- 山﨑
- そう、外にも内にも、すべてにおいて、
いつも戦ってた‥‥
うん、何でもぶっ壊してやろうだとか、
とにかく自己主張してやろうって、
外へ外へ向かっていく矢印ばっかりが
強かったころもあった。
でも、あるときから、まぁいいかって。
- ──
- 思うようになった?
- 山﨑
- そう、楽しむことが大事なんだな、
というか、
人生、楽しむしかないなというふうに、
思うようになってきた。
- ──
- 若いころというと、どれくらいですか。
- 山﨑
- 50‥‥50すぎくらいまでかな。
この間、日活の吉田さんという人と、
東京に大雪が降った日に3時間、
取材先から家まで、
タクシーのなかに閉じ込められてね。
- ──
- 3時間も!
- 山﨑
- タイヤがスタックしちゃって、
もう、どうしようもなかったんだけど、
そのときに、
何だか、ぜんぜんイライラしないんだ。
- ──
- えっ、それはすごいですね。
- 山﨑
- その「日活の吉田さん」って人が、
とっても気持ちのいい男で、
それもあったのかもしれないけど。
でも、若いころの自分なら、
「腹も減ったし、ビールも飲みてぇ、
もうなんなんだ!」
ってなっちゃったと思うんだけど。
- ──
- ええ、ええ。
- 山﨑
- 諦めるんですよね、あるところで。
選択肢が‥‥ね、つまり、
この現実以外に選べないんだとしたら、
諦めて受け容れようというのは、
やっぱり、
歳を取ったおかげかなあと思いますね。
- ──
- 吉田さんは、どう思ってたんでしょう。
- 山﨑
- 彼は若いからね。
まだ諦めるわけにいかないから(笑)。
- ──
- じゃ、やきもきしてましたね、きっと。
- 山﨑
- 気の毒にね(笑)。
- 山﨑
- でも、じゃあ、
あの『早春スケッチブック』のころの
山﨑さんは、
やはり「戦って」らしたんですね。
40代でしたし、
演技にも、そういう雰囲気があります。
- 山﨑
- うん。まだギンギンに突っ張ってたころ。
- ──
- 山﨑さん、ものすごくなりたくて
俳優になったわけじゃあないんですって、
以前に、おっしゃっていました。
- 山﨑
- うん。
- ──
- そういう人って、たくさんいますよね。
いまの自分の仕事に、
なりたくてなったわけじゃない人って、
たくさん。
- 山﨑
- そうでしょう。
- ──
- でも、どこかで、
これで行くんだって決める時がくると
思うんです。
- 山﨑
- うん。
- ──
- 自分も最近‥‥30代までそんな感じで、
40歳になってようやく、
自分の場所はここしかないんだなあと、
思えるようになったんです。
- 山﨑
- そうなの。
- ──
- 山﨑さんの場合も、
俳優で行くしかないって思った時点が、
あったんでしょうか。
- 山﨑
- うん。あったよ。
いつだったかは覚えてないんだけど、
あるときから、
ぼくも、ずっとそう思っていた。
で、50代くらいまでは、
ここしかないんだっていう気持ちで、
俳優をやってました。
- ──
- 50代まで?
- 山﨑
- うん、それくらいまで。
だから、きみだって、もしかしたら、
あと10年くらい経てば、
待てよ、もっとおもしろいことが
あるんじゃないだろうかって思うよ。
- ──
- ええーっと、
また、そっちに戻っちゃうんですか?
- 山﨑
- たぶんね(笑)。
- ──
- いやあ‥‥せっかくここだと思ったのに、
ほんとですか(笑)。
- 山﨑
- いやいや、いまのきみの仕事が‥‥
ぼくで言えば、
俳優の仕事が飽きちゃったというんじゃ、
ないんですよ。
これはこれでおもしろいんだよ、すごく。
- ──
- はい。ぼくも、おもしろいです。
- 山﨑
- おもしろいし、しんどいし、
いろんな意味で熱中できるんだけど‥‥
「いや、待てよ。
なんか他にあるんじゃないか」(笑)。
- ──
- そう思うんですか。
- 山﨑
- うん。
- ──
- と思うと、楽しみなような気も(笑)。
- 山﨑
- でも、それが何なのか、わかんないんだ。
ぼくなんて他に才能も何もないからさ、
思いつかないんだけど、
でも「他に何かあるかもよ?」って、
自分自身を疑いながら、
それでもやってるのが俳優の仕事ですよ。
- ──
- それって、キャリアを積んできた俳優の、
余白というか、余裕なんでしょうか?
- 山﨑
- どうだろうね。
たとえばさ、ぼくが絵を描くとするよね。
で、へたっぴだったとする。
- ──
- ええ。
- 山﨑
- だから、まわりの人たちからしたら、
ああ、趣味で描いてるんだな、
日曜画家だなあと思うかもしれない。
- ──
- はい。
- 山﨑
- だけど、自分の中の充実感でいえば、
もしかしたら、
演技をしてるときよりも、
へたな絵を描いているときのほうが、
充実するのかもしれない‥‥とか。
- ──
- ああー‥‥。
- 山﨑
- そういう何かが
ぼくにだってあるかもしれないぞって、
最近、思うんだよ。
見つからないんだけどね。何にもね。
- ──
- でも、もしかしたらこの先、
別の山﨑さんがいるかもしれない‥‥。
- 山﨑
- うん、いるかもしれない。きみだって。
- ──
- 何かのきっかけで。
- 山﨑
- これからきっと、おもしろいよ。
- ──
- そうですか(笑)。
- 山﨑
- うん。
<つづきます>
2018-05-22-TUE