- ──
- 年齢を重ねるごとに、少しずつ、
興味が出てきていることが、あるんです。
- 山﨑
- うん。
- ──
- それは「死ぬ」ということについてです。
たとえば20代のころには、
まったく現実味がなかったんですが、
30代のはじめに父親が死んだくらいから、
死というものに対して、
何か、「親しみが湧いた」と言ったら
言い過ぎなんですが‥‥。
- 山﨑
- うん。
- ──
- ただ怖いだけではなくなったというか、
自分の死生観というものが、
歳をとるごとに変わってきているのが、
わかるんです。
この先、50代、60代、70代‥‥と、
さらに、
どんどん変わってくんだろうな、と。
- 山﨑
- そうでしょう。
- ──
- いま、山﨑さんは80代ですけれど、
何て言いますか、
自分がいなくなるということについて、
思いや考えが、
変わってきたりだとか、されましたか。
- 山﨑
- うん。それ、あるよ。
- ──
- ありますか。
- 山﨑
- ある。昔は何せ怖かった。死ぬのが。
でも、これは、
生き物としてうまくできてるんだね、
こうして歳を取ると、怖くなくなる。
- ──
- そうなんですか。
- 山﨑
- いまは、どっちかと言えば、
ちょっと楽しみにしてるかもしれない。
- ──
- え、本当ですか。
- 山﨑
- 何だか、そんな気持ちがある。
やっぱり、いずれ死ぬのかと思ったら、
若いうちは怖かった。怖いでしょう?
- ──
- はい、怖いです。自分は、まだ。
- 山﨑
- ぼくはもう、怖くないんだ。
怖くないし、
あの世があるってことも思っていない。
ぜんぶブラックアウト。死んだら。
何もなくなっちゃう。無になると思う。
- ──
- ええ。
- 山﨑
- で、そういう瞬間、俺どうするのかな。
‥‥って、おかしいかもしれないけど、
そんなふうに思うようになった。
- ──
- たしかに、
すべての人が経験することですけど、
いま生きてる人は、
誰ひとり経験していないことだから、
自分も、興味があるのかも。
- 山﨑
- ぼくは、楽しみにしてるくらいだよ。
それがいつきたっていいと思ってる。
- ──
- いや、それはちょっと、
ぼくらのほうが困るんですけど(笑)。
- 山﨑
- (笑)。
- ──
- そういう気持ちに変わっていったのは、
いつくらいから、ですか。
- 山﨑
- うーん‥‥そうねぇ。
あんまり意識はしてなかったんだけど、
まぁ、まわりの俗事ね。
や、俗事って言っちゃいけない、家族。
娘たちが、曲がりなりにも、
自分たちで自立したというあたりから、
変わってきたのかもしれないな。
- ──
- 面倒を見てあげなきゃならない人たちが、
いなくなってくると。
- 山﨑
- ぼくの場合、そういうことがあると思う。
あ、もういいんだな、大丈夫だ‥‥って。
- ──
- はい。
- 山﨑
- 連中も、ちゃんと家庭をつくって、
子どももできたし、
つまり、
生き物の流れに乗ってるわけでね。
- ──
- ええ。
- 山﨑
- これでバトンタッチできたな、
一応の責任を果たしたかなというのは、
あるかもしれない。
芸術家のように、
これをしなきゃ死んでも死にきれない、
みたいなことも、ぼくにはないし。
- ──
- じゃあ、どういう役をやり残してとか、
そういったことも?
- 山﨑
- ないです。
もちろん、俳優をやっているうちは、
自分の思いを少しでも実現したい、
そう思って、やってるんですけどね。
- ──
- はい。
- 山﨑
- だけども‥‥まぁ、ぼく自身も、
伊丹さんの言うように「空っぽ」だから。
空っぽの容れ物の中に、
人の力をもらって、人に助けられて、
いろいろと、何やかやと、
詰め込んだだけの、埋めただけの話でね。
- ──
- 山﨑さんも、空っぽ。
- 山﨑
- 伊丹さんやぼくだけじゃなく、
人間はみんな空っぽなんだっていうのは、
やっぱり、そう思いますね。
- ──
- そうですか。
- 山﨑
- だから、もともと空っぽなんだから、
最期も空っぽになりゃあいいんじゃない。
- ──
- そうですね。難しいこと考えずに。
- 山﨑
- ちょっとトイレ行ってくる。
- ──
- はい。
- 山﨑
- (数分後、トイレから戻ってくるなり)
いま、わかったんだ。ようやく気づいた。
- ──
- はい、なんでしょう?
- 山﨑
- あのね、いや、ここのところ、
熊谷守一さんの映画が公開されるから、
ずうっと取材が続いていて、
なんでモリカズさんに惹かれたのかと、
たくさん聞かれたし、
なんとなくね、答えてもきたんだけど。
- ──
- ええ。
- 山﨑
- 本当には、わかってなかったんだよね。
なんでモリカズさんに惹かれたのか。
- ──
- そうでしたか。
- 山﨑
- でもいま、しょんべんしてて気づいた。
なんでモリカズさんに惹かれたのか。
- ──
- え、本当ですか。
- 山﨑
- それはね‥‥たぶん、モリカズさんも、
自分の「空っぽ」を、
どうやって埋めるかって人だったんだ。
- ──
- ああ‥‥アリを見つめたりしながら。
- 山﨑
- きっと、そうなんだ。うん。
俺、その部分に、惹かれたんだと思う。
- ──
- つまり、そこは、
山﨑さんとも共通している部分ですね。
- 山﨑
- そう、そうなんだと思う。
気づいてなかったけど、いまわかったよ。
- ──
- 今回、たくさん取材をお受けになったと
うかがっていますが、
このインタビューが最後なんですよね?
- 山﨑
- そう、最後。だから最後にわかった。
どうして、モリカズさんに惹かれたのか、
ずっと、わかんなかったんだけど。
- ──
- すごいです、山﨑さん(笑)。
- 山﨑
- 最後の最後で、やっと、わかったんだよ。
たいへんだったけど、
取材やらしてもらってよかったよ(笑)。
<つづきます>
2018-05-23-WED