吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。
吉本隆明の ふたつの目。 ──ほんとうの考えを探し出す──  これまでたくさんの著作を生み、講演を行ってきた 吉本隆明さんが、ずっと気にしてきたことのひとつは、 「ほんとうのこと」についてなのだそうです。 「ほんとう」を探すために 吉本さんが持つようになった視点について、 糸井重里との話をお届けします。 * 吉本隆明さんの講演集は、 7月9日(水)に販売がはじまります。 おたのしみに。



糸井 すべての人が隣人となった
現代という時代では、
隣人のことを考えはじめると
頭と身体が音をあげてしまいます。
そこで、ふつうは
寝ちゃったり、停止しちゃったりするんだと
思うんです。
吉本 そうですね。
「それでいいじゃないの」という
考えもあるでしょう。
「お前の友だちだって、
 しょっちゅう寝てるじゃないか」
「それはそれで、
 ひじょうに健康なことで、いいよ」
というふうに評価するべきでしょう。
しかし、そういう面があるとともに、
「それではお前もそうだろう」
と言われたら、
「いや、ちょっとだけ違うんだよ」
と言ってみるんです。

「目を覚ましている時間が
 ちょっとだけあるんだよ」
ということが、少なくとも言える、
口で言うかどうかは別で、
言えるだけのことは持っている、
それだったら理想的なんじゃないでしょうか。

「昔を考え今を知り」
というふうにお説教をしている人は
いっぱいいます。
でも、それはもう違うんです。
そういう段階は、もう、通り過ぎちゃったんだ。

糸井 そうですね。
いまは、それは通用しないです。
吉本 例えば、昔だったら
「お前、年寄りは大切にしろ」と言われれば、
すぐ通じたり反発したりできたんだけど、
今は、まっすぐにそんなことを言われても、
誰も見向きもしないです。

ですから、違う言い方で
同じことを言わなきゃいけないんです。

年寄りを大切にしろ、なんていうことは、
現在の日本にとっては、ほんとうは
そうとう大問題なんですから。
糸井 だからこそ、よけい
説教で通そうとしたらダメなんですね。
吉本 そうなんです。
「昔の人は『親に孝行、朋友相信じ』
 と言ったもんだ」
と説教したって
封建的だと言われておしまいになります。
そうなっちゃ、これはダメなんです。
間違っちゃいけないです。

それじゃあ、どういうのがいいんだというと、
「親に孝行しろって、
 ほんとうはなんなの?」
ということについて、
自分なりの判断ができていないといけない、
ということなんです。
社会の現状と、
昔の人がどういうことで「親孝行」を
言い出していたのかを
考え合わせるんです。

そうすれば、たぶん
間違いない判断ができるという気がします。
それがやっぱり、
ひとつの望みですよね。
糸井 ‥‥望み。
吉本 僕らが考えるべき、あるいは
考えている望みです。
そうなればいいし、
自分もそうなれたらいいという、望みです。
糸井 つまり、なかなか、
ものを買うみたいに簡単に、
そういう考えに
なれるものではないということですね。
吉本 そうです。それは、いちおう
面倒くさいことです。
いや、面倒くさいということは
ないけども(笑)。

糸井 ぜんぜん近道じゃないんですね。
でも、ひとつの道を言うとしたら、
確実に、ひとつの道であると言える、と。



(続きます)

2008-07-14-MON

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN