第4回 何かが起こってる!

イトイ プロデューサーである
桜井さんの役割って、
「安宅の関」の弁慶みたいなものでしょ。
桜井 そうですよ、本当に。
白紙の勧進帳を
読むぐらいのことはします。
何も書いてないものを
読みあげるような気がないと、できません。
イトイ P(プロデューサー)って仕事は、
弁慶なんだね。
こりゃ、いい勉強になります。
でも、上司にそう言いつつ、
じつは自分でも「おもしろくない」と
思ってたんでしょ?
桜井 あの回はおそらく、
いちばん下の
AD(アシスタントディレクター)までが、
「おもしろくないと思うなぁ」と
思ったと思いますよ。
一同: (爆笑)
イトイ 子どもたちはきっとみんな
あっけにとられてたんじゃないかな。
そして、「おもしろくないことが行われてる」
ということが、おもしろかったんだと思います。
桜井 はい、そうだと思います。
福原 ふつうに「おもしろい」ということとは
別次元だったのかもしれませんね。
「あの放送は強烈に印象に残った」って
いまだにいろんな人に言われます。
イトイ 幻の珍品だね。
福原 あれはすごかったですよ、本当に。
ミニマル・ミュージックみたいなもので、
ま、スティーブ・ライヒのようなものです。
桜井 何がスティーブ・ライヒですか。
イトイ テレビの歴史を語るときに、よく
連合赤軍の浅間山荘事件の話が出ますよね。
24時間、雪の中で身じろぎもせず
機動隊員がいて、
それを見てておもしろかったか、と言ったら
そうでもなかったでしょう。
だけど、「バーン!」と動く鉄球を
みんなが見ていました。
福原 鉄球は、印象に残ってますね。
イトイ 「主役・鉄球」
みたいなとこがありましたよね。
テレビって、通信だから
「何かが起こってる」ってことが
ものすごく得意だし、みんな好きなんですよ。
桜井 あのエイプリールフールのオンエアも
「何かが起こってる」って
ことだったのかもしれない。
イトイ しかし、その回と同じようなものを
もしいま、誰かが作っていたら、
おふたりは懐柔しながら
やめさせるんじゃないでしょうか。
桜井 うん。たぶんとめます。
「これに違うものを入れてみようか」
なんて言ったりしてね。
福原 僕はおそらく、あのときの経験を
言うと思いますよ。
「以前、エイプリールフールだからって
 こういうことをやったんだよ。
 その結果がこうだよ」(笑)
イトイ でも、いまの時代って、逆に
そんな提案は
なかなか「下」から出てこないでしょうね。
福原 というか、いまのテレビでは、
考えること自体、ないでしょう。
イトイ 考えただけで罰せられる(笑)。
桜井 きっともう、いまだったら
ウゴウゴルーガ自体もないと思います。
「プリプリ」だけじゃなくて、全編が。
福原 おそらくそうですね。
これはいまのテレビではありえないです。
何かが、違うところにいるんですよ。
当時は未来のテレビはこうなるのかなとも
思ってたふしもあるのですが、
いまあらためて思えば、
やっぱり違う場所にいたんですね。
桜井 あだ花の、最たるものでしょうか。
イトイ ウゴウゴルーガが
はたしてあだ花なのか、
成熟の行き着いた先だったのかは
わからないですけれども──
やっぱり僕が思うには
テレビってこういうところに
行くものだったんですよ。
福原 いやいや、これは
交通事故みたいなものだと思うんです。
一同: (爆笑)
福原 とにかく「ポーンとぶつかったな」
ということだけが、
いまに至るまで、何かわからないけど、
そのままずっと残ってるという気がする。
 
(続きます)
2008-05-21-WED
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