16、「怪談に近い」
ある夜中、私はボーイフレンドと
おそばを食べていました。
深夜でもやっている
居酒屋みたいなそばやです。
しかも世田谷のはずれにあるから、
近所の人しか来ません。
そこの近所の人というと、
中小企業だとか、工場だとか、
車の販売だとか・・・
まあ、そういう感じの
普通のおじさんおばさんおにいさんおねえさん
っていう感じです。
私の後ろにはすっごい濃いお化粧の
六十くらいの
ちょっと汚れた感じのおばちゃんと、
いかにも同僚っぽい
(しかも酔った勢いで
肉体関係が三回くらいありそうな親しさの)
部長みたいな人がいっしょに
そばを食べながら飲んでいました。
話題はこんな時間まで残業しちゃったね、
というようなものだったので、
私も別に聞くともなく、
ボーイフレンドとしゃべりながら
その話を聞いていました。
すると突然、おじさんが、
「そういえばこないださあ、
あなたも××くんもかなり酔ってたけど、
無事帰れた?」
と言いました。
おばちゃんは、ふうっとため息をついて、
そして言いました。
「それがさあ・・・おぼえてないのよね」
「なにそれ、なんかあったの?」
おじさんは興味しんしん、私もどきどきです。
おばさんは、気だるく言いました。
「そうねえ・・・
ほんとにおぼえてないんだけどさあ、
でも、なんか場面だけ
パッ、パッと浮かぶんだよねえ。
なんか肉色・・・
もしかして、あたし、
××くんの童貞奪っちゃったかなあ?」
一瞬の沈黙のあと、おじさんは言いました。
「そりゃあ、しょうがねえなあ」
なにがしょうがないんだよ、
と心で突っ込みながらも、
今現在の××くんの心境を思うと、
私の胸は恐怖で
小鳥のように震えてしまいました。
|