30、「家路」
うちの二匹の犬たちは、
世界中のどの犬とも同じで、
一日中散歩とご飯の時間だけを待っています。
そんなに待っていていいのか?
というくらい熱心に。
忙しくてなかなか散歩に行けないで
夕方になってくると、
次第に「圧」が高まってくるのがわかります。
内圧、眼圧、高圧・・・などなど、
圧という言葉の意味が体でわかるくらいに、
家の中の空気がきゅう〜とタイトになってきます。
私が立ち上がったり、
部屋を出るたびに犬たちが
「まだ?まだ?なにか忘れてない?」
という目でじいっと私の動きを追いかけ、
散歩でないとわかると
「ふう〜」とため息をつきます。
バイトの子が夕方に来てさっと行ってくれれば
とりあえずガス抜きができるのだが、
そうでないときはずっと待たれている・・・。
散歩のつぎはご飯を、
ご飯のつぎはまた散歩を、
彼等は待っているのです。
そんなにも!
待ち望んでいた散歩の時間がついに来て、
私が「散歩」と口に出すと
犬たちは玄関にどどどどと走っていき、
はしゃぎすぎてひももなかなかつけられないほどです。
そして外に出るとやっとちょっとクールダウン。
しばらく散歩をして、
歩いて十分くらいの近所の緑道まで行って、
ちっぽけな川を見たり、
なべおさみさんの家の立派な秋田犬に
塀越しに軽く吠えられ・・・
ひととおりのあれこれが終わって
だんだんと帰路につきます。
家の近くの坂にさしかかると、
犬たちはわくわくしだして、
もう待ちきれない!
というふうに走り出します。
これから帰るところがもう最高のところかのように。
私まで、なんとなく自分の住んでいる
小さい借家がまるでこの世でいちばんすてきな
スイートホームであるかのような気がしてきます。
あんなにも出かけたがって、
一日中待ちに待って、支度して、やっと出かけて。
それなのに家が見えてくると
帰るのが嬉しくて嬉しくてしかたない!
・・・人が旅に出るということも、
これとかなり似たしくみと見ましたよ。
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