31、「ミステリィ」
ある日、姉が大量のいちごをもらってきました。
それで、それを洗って練乳をかけて器に盛りました。
うちのチビは練乳がなによりも好きで、
まるでからくり人形みたいに
空の器を両手で高くかかげ持ちながら
廊下をまっすぐ走っていって、
「れんにゅう!ない!」
「れんにゅう!はい!」
と姉にせまっていつも練乳のおかわりをもらっています。
なにが「ない」「はい」だかちっともわからないが、
言いたいことは痛いほど伝わってきますね。
私はその練乳がけいちごの大きな器を持って、
実家の奥の和室へ行きました。
そこには八十二歳の父と、
孫であるチビだけがまったりと遊んでいました。
なので、
「はい、いちごだよ」
と言って、器を机の上に置きました。
父はあまりよく目が見えない上に
糖尿で甘いものを制限されています。
そしてチビはそんなにたくさんのいちごを
見たことがないかもしれなかったです。
さらに練乳・・・
それが彼らのハートに火をつけたのは間違いないね。
さて、お茶でも入れようか、
それで残りの家族みんなを呼んで、
みんなでいちごを食べながら飲もうかね、と思って、
お茶を入れているあいだはだいたい五分くらい。
しかし!
お茶を持って行くと、なんと器は空になっていた!
そして父とチビが両方とも
あちこちをべたべたにして真っ赤に口元を汚して
えへえへ笑っていたのです。
いちごはどこへ?
いや、正確には・・・
どういう配分で?
歳をとると
孫といちばん気持ちが近くなる
というのは本当ですね。
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